Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : ラガルド専務理事、より力強い成長のための新たな方策を要請

2015年10月8日

  • ラガルド氏、弱い成長への対処として政策のアップグレードを要請
  • より適切な政策ミックス、波及効果への注意、国際協力がカギ
  • IMFの機敏性を高め一体化を進め一段と加盟国を中心とするAIMが、加盟国を支えることに

IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、全加盟国の政策担当者は、成長を促進し世界の不確実性を減ずるために、経済政策を改善しアップグレードしなければならないだろうと述べた。

IMF世界銀行年次総会

ペルー・リマでの2015年IMF・世界銀行年次総会に先立ち記者会見に臨んだ同氏は、より力強く持続的かつ包摂的な成長を実現するため、世界の政策担当者は経験を共有しより適切な政策ミックスをどのように策定するかについて議論すると述べた。

ラガルド氏は、ペルー料理は伝統的なレシピに手を加えアップデートしたことで世界的に成功したと述べ、世界の政策担当者にも同様のことが求められていると続けた。

「私の世界の政策担当者への主要なメッセージは、成長の再活性化と世界の不透明感の低減のため、政策のレシピをアップデートする必要があるということだ」

こうしたなか同専務理事は、IMFのグローバル政策アジェンダを発表した(ボックス参照)。これは、急速に変化し不確実性が覆う世界経済を前に政策担当者が抱える課題や、IMFの188加盟国の政策優先事項に加えIMFが加盟国の支援で何ができるのかについての概略をまとめたものである。年次総会においてIMFの政策諮問機関である国際通貨金融委員会が、同アジェンダについて協議する。  

成長見通し

今週はじめに世界経済の見通しを発表したIMFは、世界経済の成長率は今年は昨年より減速し3.1%、2016年には僅かに加速し3.6%になるとの見通しを発表した。

報道陣に対しラガルド氏は「こうした世界の見通しは、世界の失業率を大幅に低下させ貧困レベルをさらに改善するには、不十分だ」と述べた。

先週のワシントンDCでの演説でラガルド氏は、米国の金利の上昇の見通しや中国の減速、一次産品価格の急落など複数の主要な経済の転換が見通しに影響していると述べた。しかし同時に同氏は、適切な政策と強力なリーダーシップ、国際協力があれば対処できると強調した。

さらに同氏は質問に対する回答のなかで「しかし私は悲観的にはならない。ばらつきのある緩やかな回復から脱却するための政策ミックスが必要だと強調するのみだ。回復は減速しているが最終的にはより力強い成長が実現するだろう」

成長のためのより良いレシピ

ラガルド氏は、より良い成長のための重要な内容3点を示した。

第一は、経済の転換の管理だ。これには、需要支援、金融の安定性のための措置、構造改革といった政策のレシピと特定の政策のアップグレードが含まれる。

第二は、波及効果に留意する。先進国・地域の中央銀行は、その政策決定が及ぼす波及効果のリスクに十分に留意すべきである。また、新興市場国・地域は、企業のレバレッジと対外債務の蓄積に断固として対処すべきだ。

第三は、国際協力。ラガルド氏は「我々が抱える試練は世界共通という性質から、そのような協力は不可欠だ」と指摘した。経済の波及的影響から難民危機、国際開発から気候変動と、同氏は「自国だけでこれらの問題に対処できる国はない」と述べた。

IMFのAIM

IMF188加盟国が直面する試練が増大するなか、加盟国への支援はIMFの責務だとラガルド氏は述べた。IMFが掲げるAIMとは、持続的かつ包摂的な成長という新たな時代への移行のなかで加盟国を支援するにあたり、機敏性(Agile )を高め、より一体化し(Integrated )、一段と加盟国を中心とする(Member-focused )IMFの変化のことを指す。

開会の記者会見では、経済のリバランスを進める中国の成長の減速、中東及びアフリカ情勢、IMFとラテンアメリカとの関係と広範な質問にラガルド氏は答えた。(記者会見をウェブキャストで見る)

新たな現実に対処する

IMF加盟国は、急激に変化する不確実な世界にある。政策担当者は、ますます多くの困難な政策のトレードオフに直面している。専務理事のグローバル政策アジェンダは、今日の成長を支え頑健性の構築に投資し、持続可能かつ包摂的な未来を確保するためには、相互補完的な政策が必要だと指摘している。

グローバル政策アジェンダは、政策担当者が抱える課題や、IMFの188加盟国の政策優先事項に加えIMFが加盟国の支援で何ができるのかについての概略をまとめたもので、IMFの政策諮問機関である国際通貨金融委員会が審議する。

同報告書はまた、IMFの強化されたAIM(機敏性、一体化、加盟国を中心とする)を強調している。このAIMの下、政策助言を通し、よりタイト化し変動が激しい金融環境への対応と、マクロ上重要な効果的な構造改革の実施に取り組む加盟国を支援する。政策のトレードオフが増えるなか、IMFは部門あるいは地域横断的に政策助言をより良くまとめ、サーベイランス(政策監視)と能力開発の相乗効果をより適切に活用する。また、IMFは加盟国と関係を深め知識管理を強化するとともに、政策担当者へのより迅速なフィードバックを確保する。

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