Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : 国際金融危機以降高まる保険業の金融システム安定化へのリスク

2016年4月4日

  • 生命保険会社の金融システムでの役割は高まっている
  • 保険会社では一般的な経済リスクへの感応度が高まっている
  • 各保険会社に共通するリスクの状況をモニターすることが監督上重要

際通貨基金(IMF)の最新の研究によると、国際金融危機以降、保険業界が金融システムに及ぼすリスクは高まっている

東京の証券関係のボードの前を通る歩行者:先進国・地域の低・マイナス金利は、保険会社にとって重要なリスクである(写真: Franck Robichon/Corbis)

東京の証券関係のボードの前を通る歩行者:先進国・地域の低・マイナス金利は、保険会社にとって重要なリスクである(写真: Franck Robichon/Corbis)

国際金融安定性報告書

保年会社は世界の金融資産のうち24兆ドルを保有すると同時に長期負債を有する機関投資家であり、近年、資産価格の変動の影響を受けやすくなってきている。このため、資産価格の急落などの大きなショックが起きた場合には、貯蓄主体から借入主体に資金を仲介するという機能を果たせなくなることとなり、まさに金融システムの他のプレーヤーの金融仲介機能が低下しているときに、こうした機能不全を起こすこととなりかねない。低金利環境は保険会社にとって重要なリスクである。金利水準が低いほど、追加的な金利変動の影響が高まるという点も問題である。

 本章での分析によると、規制監督当局はマクロプルーデンスの視点から、保険業界が全体として金融システムの中でどのような役割を果たしているかを系統的に把握することが重要である。

 IMFによれば、政策担当者や規制監督当局は単に個々の保険会社の健全性の維持とリスクの伝搬の防止に努めるだけでなく、保険業界も金融システムの他のプレーヤーたちと同種のリスクにさらされるようになってきているという事実に目を向けるべきである。

リスクの内容

 IMFによるとシステミックなリスクへの寄与の高まりは、保険会社の投資行動が変わってきたためではない。実際、分析の対象とした国の保険会社の資産構成における高リスク資産のシェアはあまり変動していない。とはいえ、個社に注目すると、幾つかの国で弱小な、資本が不足する保険会社が業容の復活をかけ、高いリスクを有する資産への投資を近年進めてきたと見られる。

 さらに、最低保証付きの投資重点型生命保険契約やある種の終身年金など、投資利回り保証付きの商品の割合が高い、あるいは保証利回りの水準自体が高い保険会社では、高リスク資産の保有比率を高めてきている。

 保険会社では資産側よりも負債側の満期が長く、金利低下は悪影響を及ぼす。IMFによれば、特に米国と欧州において、長期にわたる超低金利環境の継続により、保険会社の脆弱性が高まっている。

 IMFの国際金融安定分析課のGaston Gelos課長によると、「資産クラス間の相関が高まるなどの市場構造の変化に伴い、資産価格の大幅な変動が保険会社に及ぼす影響は他の金融業種と似たようなものになってきている。こうした市場構造の最近の変化は恒久的なものとして定着する可能性が高い。」

 IMFによれば、システム的なリスクの高まりには他の要因も寄与しており、例えば、米国における終身年金商品の販売拡大により、低金利の影響が高まっているとも考えられる。また、デリバティブの活用拡大に伴い、金融市場の好不況が及ぼす影響も高まっている。

政策課題

このような状況の変化に対応するには、マクロプルーデンス政策をより積極的に活用する必要がある。保険監督当局は個々の保険会社に注目する(ミクロプルーデンス手法)だけでなく、保険会社や各国間に共通する動向や影響の受け具合にも着目すべきである。保険会社が一斉に資金供給を絞るような事態を避けるための方策を導入することも有用である。

「具体的には、余裕資本を好況時にバッファーとして積み増し、これを不況時に活用するということも考えられる。」(Gelos課長)

IMFは保険会社が資産負債の時価評価を行うことは、透明性を向上させ、資産負債のマッチングを高める動機付けにもなるとしている。しかしながら、こうした評価ルールを導入する際には、保険会社が不況時に資産の投げ売りを迫られることのないように、EUのソルベンシーII規制で予定されている調整ルールなどのような景気循環の影響を緩和する措置も同時に設ける必要がある。

また、本章の分析は弱小な生命保険会社の業績や行動にも注意することが重要であることを示唆している。こうした会社は個々にはシステム全体に及ぼす影響は少なくとも、同時に同じ行動をとると大きな影響を与える可能性がある。さらに、「多すぎてつぶせない」という問題が生じる可能性もある。