Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

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IMF サーベイ・マガジン : アジア:成長は引き続き力強く、減速は若干にとどまる見込み

2016年5月3日

  • 2016年のアジアは、減速するが成長率は5.3%に達する見込み
  • 中国は減速、見通しは下振れリスクが支配的
  • 耐性を高める政策及び改革が必要

ジア太平洋地域の成長率は今年・来年共に5.3%と力強さを維持し、世界の成長の約3分の2を占めると予想される。

中国・大連市の製鉄所で働く作業員:アジアの成長持続の背景には、低失業率、コモディティー価格の下落、可処分所得の増加などといった要因がある(写真: Imaginechina/Corbis)

中国・大連市の製鉄所で働く作業員:アジアの成長持続の背景には、低失業率、コモディティー価格の下落、可処分所得の増加などといった要因がある(写真: Imaginechina/Corbis)

地域経済見通し

国際通貨基金(IMF)の最新の「アジア太平洋地域経済見通し」によると、アジア経済は若干の減速にもかかわらず、引き続き世界経済の成長のエンジンとしての役割を果たしている。外需が依然として弱い一方で、アジアの多くの地域で内需は、低失業率や可処分所得の増加、コモディティー価格の下落、及びマクロ経済刺激策によって耐性を引き続き示している。

IMFの李昌鏞アジア太平洋局長は「もちろんアジアは、依然として力強さに欠ける世界経済の回復、そして中国で行われている必要なリバランスの影響を受けている。しかし、特に一次産品輸入国・地域における可処分所得の増加、そして多くの国でのマクロ経済政策による下支えを受け、アジアの多くの地域で内需が著しい耐性を示している」と述べた。

ばらつきのある見通し

域内の見通しは国により異なる(表参照)。中国と日本というアジアの2大経済国は、依然として課題に直面している。中国の成長率は、2015年の6.9%から今年は6.5%、2017年は6.2%まで減速する見込みである。中国経済は引き続き製造・投資からサービス・消費へのシフトというリバランスが続いている。

この移行により減速するがより持続可能な成長形態へ移行することは中国にも世界経済にも望ましい。一方で製鉄や造船といった重工業が余剰生産能力を減らす大胆な整理という課題に直面するなか、中期的に製造業に変化をもたらしている。一方で、消費者による支出が重要な成長のエンジンとなっている。

2016年の日本の成長率は昨年と変わらず0.5%、その後2017年にはマイナス0.1%に落ち込む見込みである。これは、広く予想されている消費税率の引き上げが影響すると考えられることによる。(しかし、本見通しは、消費税率引き上げの影響を相殺するために打ち出される可能性のある成長支援策を考慮していない)高齢化と巨額の公的債務が、引き続き日本の長期的成長の重石となっている。

域内のその他の国や地域には、良好なパフォーマンスが期待できる。インドは、原油価格の下落の恩恵を受けており、引き続き世界で最速の成長を見せる主要国となっている。今年、来年ともにGDP成長率は7.5%に達するだろう。東南アジアに目を向けると、同地域で最も速く成長している国や地域を先導しているのがベトナムである。これは、エレクトロニクス及び衣類メーカーの輸出の急成長に支えられている。フィリピンとマレーシアは、耐性ある内需に支えられ引き続き着実な成長を見せるだろう。

大きく立ちはだかる下振れリスク

一方で、アジアは幾つかの外生の課題にも直面している。たとえば、先進国・地域の緩慢な成長であり、新興市場国・地域で広がる減速であり、弱い世界貿易、低一次産品価格の長期化である。また国際金融市場における変動もますます大きくなっている。こうしたリスクが、近年背負った巨額の債務など国内の脆弱性と組み合わさっている。短期的には、中国の新たな成長モデルへの移行が、域内のパートナー(特にアジア最大の経済国である同国の大きな影響を受ける国や地域)に混乱をもたらすだろう。

さらに地政学的緊張と国内の政策の不透明性が、潜在的な貿易の混乱や内需の減速といったリスクをもたらしている。自然災害もまた、特に低所得国や小国(多くの太平洋島嶼国を含む)で経済面の成果を反転させる可能性がある。これに加え小国はグローバルバンクによる金融サービスの減少(または「リスク回避」)という課題にも直面しているが、これは金融包摂や成長の足止め要因となるかもしれない。

しかし同報告書は、見通しよりプラスの結果が生じる可能性もあるとしている。一次産品価格の下落が予想以上に域内の国や地域の経済を押し上げるかもしれない。また、環太平洋経済連携協定といった地域的・多国間の貿易協定が、その批准前からも含めアジア太平洋地域に恩恵をもたらす可能性がある。

耐性を強め成長を促進する

アジアの国や地域は、十分なバッファー(余力)を備え相対的にこの先の課題を十分乗り切っていけるだろう。しかし一方で、成長を支え世界或いは地域のリスクを受ける可能性を減らす経済政策を導入する必要がある。たとえば、金融環境が概ね適切でインフレ率が引き続き低いことから、需要を促すために必要に応じ政策金利を引き下げる余力がある。

財政面では、政策余力の再構築のためには概して段階的な財政健全化が望ましい。しかし、多くの国や地域で、成長を支え大いに必要とされているインフラや社会的支出を可能とするために、支出の構成を調整することができる。

為替制度の柔軟性が今後も外生ショックに対する第一の防御手段であるべきだ。同時に、為替介入や資本フロー管理なども、市場の混乱時など特別な場合において発動することができるかもしれない。また同報告書は、アジアはこれまで、金融のボラティリティやリスクに対処するためにマクロプルーデンス政策を大いに活用してきたが、今後も、金融政策・財政政策の補完措置として、これを継続すべきだとしている。

また同報告書は、潜在成長率の改善とリバランスの促進を支えるためには、構造改革が必要だと強調している。アジアの過去の改革は、経済の多様化や同地域の世界市場参入を促進するなど非常に効果が大きかった。

中国の移行:勝者と敗者

「地域経済見通しは」3本の背景調査で、所得の不平等と中国のリバランスが一次産品輸出国・地域やアジア太平洋地域の国々に、どのような影響を及ぼしているかを検証している。中国の減速は世界の一次産品価格に影響を及ぼしており、なかでも一部の金属価格の大幅な下落を引き起こしている。同時に、中国のリバランスが進み消費者が高品質で高たんぱくの食料品を好むようになったことから、一部の食料品の需要が高まっている。また中国の観光業も成長している。

分析は、中国のリバランスの影響は、中国経済への各国の関与の形により異なるだろうとしている。中国の消費者に依存している国や地域が勝者となり得るが、その投資や製造により依存している国は短期的に損失を被るだろう。しかし次第に、リバランスにより中国の成長モデルがより持続可能となるなか、アジアはその恩恵を受ける可能性が高い。

格差拡大に対処する

報告書の第三の研究は、アジアの多くの国で最近になり格差が拡大していると指摘している。過去と比べ成長は貧困層に利益をそれほどもたらしていない。報告書は、財政政策とともに構造改革が、格差削減及び包摂的成長の促進に寄与し得るとしている。各国は、機会の不平等に対処すること、特に教育と医療、金融サービスへのアクセスを拡大するとともに、労働市場の二重構造やインフォーマルな労働市場に対処する必要があるだろうという議論を展開している。

改革は、コストが大きい一律の補助金計画を避けるべきであり、代わりに十分にターゲットを絞り込んだ介入や税法における累進性の改善などを通した、社会的支出の拡大に重点を置くべきである。域内の大半の国や地域における燃料価格の設定の撤廃といった直近の改革は今後にとり良い前兆である。

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