Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : アジア経済は減速下でもその粘り強さの強化策は可能

2015年10月9日

  • アジアには域外の経済環境がより大きな試練を課している
  • 経済成長は減速しているものの世界の他地域と比べ依然強い
  • 政策余地がある分野では緩和的政策を考慮すべきだ

ジア地域の経済成長は減速しているが、世界の他地域の経済成長を上回り続けることになる―国際通貨基金(IMF)は10月9日、ペルーのリマで開催中のIMF・世界銀行年次総会でアジア経済に関するIMF調査結果を公表した。

中国浙江省嘉興の製鉄所で働く人:商品価格の低下が、アジアの経済の減速に影響している(写真: William Hong/Reuters/Corbis)

中国浙江省嘉興の製鉄所で働く人:商品価格の低下が、アジアの経済の減速に影響している(写真: William Hong/Reuters/Corbis)

地域経済見通し

アジア太平洋地域経済見通しの2015年10月の改訂版報告書(REOアップデート)は、地域の成長が世界経済の動向に沿う形でわずかに減速し2015-16年は5.4%となると予想した(図1)。IMFアジア太平洋局の李昌鏞(イ・チャンヨン)局長は「旺盛な労働市場と低エネルギー価格に支えられた域内消費が成長の中心的な原動力で、先進国の景気回復がそれをさらに後押しすることになる」と語った。

同報告書はまた、中国経済からの域内他国への成長のマイナスのスピルオーバー効果(漏出効果)はおそらく当初想定されたよりも大きく、輸出も世界経済の伸びを下回り続けることになろうと指摘した。アジアの貿易の減速の原因は、一つは中国の輸入需要のリバランシングではあるものの、世界の輸入需要の広範な弱さもまた一つの大きな要因だ。

域内各国の成長見通しは、域内経済大国間も含め再びばらつく可能性が高い。中国経済は国内消費に見合ったリバランスが継続し、2015年は6.8%、2016年は6.3%の成長と予想される(これは2015年4月の世界経済見通しから変化していない)。昨今の同国株式市場の混乱と為替相場設定方式の変更が短期の経済成長に大きな影響を及ぼすことは予想されない。しかし、李局長は「脆弱性に対処し経済をリバランスさせるのに必要な政策は、一時的に成長率を低下させそうだが、一方で中期的な(成長の)持続性を確かにするものだ」と述べた。

日本については、賃金上昇による消費回復と投資及び輸出の緩やかな伸びに支えられて2015年の経済成長率が0.6%、2016年が1%に回復すると予想している。国内消費はまた、原油やコモディティー価格の下落、日本銀行の緩和政策により底上げされるはずだ。

インドでは、現在の景気回復が原油安と旺盛な国内需要に支えられ、GDPは2015年に7.3%、2016年にはさらに上がり7.5%の成長を見込んでいる。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要国の成長は2015-16年にやや減速が予想される。コモディティー価格の下落(インドネシアとマレーシア)、政治的不透明性(マレーシア)、中国の成長鈍化などの複数の要因に影響されるためだ。

ダウンサイドのリスク支配が継続

同報告書は地域の成長についてのダウンサイドのリスクとして、中国経済の急激な減速の可能性や需要構成が変化することによる影響などを特に挙げている。世界の金融情勢の突然の引き締まりに伴うさらなる米ドル高、日本の低い成長、また地域の多くの国での潜在成長力の弱まりは、アジアの成長見通しを陰らせる追加的なリスクだ。李局長は「もし世界の金融情勢の引き締まりにより域内金利が急騰すれば、高いレバレッジも(経済)ショックをさらに深刻にさせる可能性がある」と指摘する。また、報告書の執筆者らによると、低コモディティー価格ももう一つのダウンサイドリスクとなるとしている。主要なコモディティー生産分野の設備投資に悪影響を与えるためだ。

政策提言

各国の政策について、李局長は「政策発動余地がある国や地域では、緩和的政策が検討されるべきだが、そのトレードオフにも注意が必要」と述べた。

アジア地域の多くの国で経済が減速していることに加え、世界経済環境が厳しくなっていることを踏まえ、報告書は需要を下支える一方で、脆弱性を減じる政策を推奨している。政策余地があり成長の減速が明らかに循環的か、一時的な国は特に緩和的政策が検討されるべきである。しかし検討する政策はまた、潜在的成長力を向上させ、脆弱性を低下させることにも焦点を当てるべきだ。

これを念頭に、報告書は、投資と雇用創出を促し短期的脆弱性を軽減することを助けることによって中期的成長を底上げするために、同報告書は構造改革を優先課題とすることを推奨している。中国では、債務を通じて加速される投資主導の経済からのリバランスを支援する改革の継続が必要だ。この改革には国営企業(SOE)と民間企業の競争条件の公平化や地方政府の財政管理の改善が含まれる。

李局長は「(改革の)着実な実行は、政策の不確実性を減らし、改革が実現することによって経済が成長促進し、結果得られる利益を十分に享受できるかどうかのかぎである」と述べた。日本は金融緩和が継続されなければならず、確固たる中期財政計画と(製品、労働市場などでの)構造改革の実行が加速されなければならない。ベトナムやモンゴルなどのフロンティア経済国では、資本の効率性と分配の向上のため銀行部門と国営企業の改革が依然優先課題である。一方インドでは長期にわたる供給のあい路を解消するとともにより高い包摂的な成長を達成するためのさらなる措置が必要だ。

報告書は成長の下支えと経済の粘り強さを向上させる包括的な需要政策の必要性を強調している。財政緊縮の必要がより明らかな国を除き、景気のオートマチック・スタビライザーが完全に機能することが許されなければならない。債務が少ない国や景気循環調整後の財政が黒字となるような財政的余裕のある国では、需要の一時的不足の解消に的を絞った財政刺激策をとる余地もあるだろう。そうでない国では、そして特にコモディティー輸出国では、緩やかな財政緊縮が継続されるべきだが、その財政調整の構成についても注意が払われねばならない。

報告書の分析はまた、インフレ率が低く、さらに特に財政余地が限られている国では需要底上げのための金融政策の活用を支持している。複数のアジアの主要国では政策金利水準はおおむねその国々のファンダメンタルズに整合的で、成長が期待外れとなり生産の供給超過が出現したり拡大したりした場合は、金利引き下げが可能であることが示唆されている。それと同時にさらなる通貨安は、金融緩和の余地をさらに狭めるかもしれない。

改訂報告書はまた、為替政策とマクロプルーデンス政策が、対外調整と金融安定性を管理する一助として重要であり続けることに留意している。外貨準備を一時的な為替の乱高下を調整するために節度を持って使うなど、為替相場は主要なショック緩衝材となるはずだ。さらに外国為替介入は必要な為替調整の妨げとなってはならない。金融安定性を確保するためにマクロプルーデンス政策が活用されるべきで、特に信用サイクルが循環するに連れて監督・規制の枠組みを強化する努力が必要だ。