Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : IMFワークアジェンダ、機敏で一体化した加盟国を重視したアプローチを強調

2015年12月15日

  • IMFのワークアジェンダ、活動を一体化し相乗効果の活用を目指す
  • 焦点は危機への対処から危機予防にさらにシフト
  • アジェンダ、成長促進手段として構造改革を重視

新のIMFワークアジェンダは10月のグローバル政策アジェンダが示した方向性を肉付けし、むこう12カ月の具体的な計画を示している

上海の金融街:IMF、中国の鈍化が世界経済に影響を及ぼす主要トレンドと指摘(写真: Imaginechina/Corbis)

上海の金融街:IMF、中国の鈍化が世界経済に影響を及ぼす主要トレンドと指摘(写真: Imaginechina/Corbis)

IMFワークプログラム

同アジェンダは、成長への支援、頑健性への投資、金融の安定性の保護、持続可能で包摂的な中期的成長に必要な構造改革の実施、そして国際金融システムの強化の必要性を明確に示している。

以下のインタビューではシダート・ティワリ戦略政策審査局長が、今後数カ月間のIMFの優先事項について述べている。

IMFサーベイ: 世界の情勢を受け、IMFの優先事項はどのように変化していますか。

ティワリ: ワークプログラムは世界経済で現在起こっている三つの移行を受けたもので、その移行の全てがIMFと我々の関与の仕方に重要な意味を持っています。

ひとつは米国の金利引き上げの見通しとその影響です。この変化は、先進国、そしてより重要なことに新興市場国・地域にも影響を及ぼすものと考えられます。近年、新興市場国・地域は減速しており、金融環境のタイト化はこれらの国や地域の更なる圧力となり収斂が一段と困難となる可能性があります。

第2の移行は、2016年で重要になりますが中国のリバランス(再調整)です。成長のリバランスを進めるなか中国経済は減速すると考えられており、世界はそれがどのような影響を及ぼすのか厳密に監視しています。

第3の移行は、-ある意味第2の移行の結果でもあるのですが-一次産品価格の下落で、多くの新興市場国・地域に影響を及ぼすでしょう。

IMFサーベイ: IMFの専務理事は、より機敏で一体化を進めかつ加盟国に焦点を絞るようIMFに求めました。このワークアジェンダによりこのゴールに向けどのように進むことになりますか。

ティワリ: このワークプログラムの中心的な焦点は「AIM」です。AIMとは機敏性(agility)一体化(integration)、加盟国に焦点を当てる(member focus)の略語です。機敏性とは、影響を及ぼしている移行に対応することを意味し、波及効果を検証し、実際に発生する前に結果を予期し、政策実施の余力が減少しているなかで成長を促進させることに焦点を当てることができることを意味します。

一体化により、分野横断的に政策助言をより良く調整し複数の作業間の相乗効果を活用します。たとえば、我々の能力開発活動とサーベイランス(政策監視)及び融資活動との一体化を一段と進めることを重視しています。

政策の「余波」的効果も一層考慮しています。たとえば、差し迫った米国の金利の上昇とその新興市場国・地域への影響です。我々は分析でマクロ金融やその他の潜在的な連関性を検証し、新興市場国・地域はどのように対応すべきかについて考えています。これまでこの作業の多くを切り離して行ってきましたが、これは間違いなく相互に関係していることが明らかになりました。

加盟国を中心とするとは、たとえば新たな研究や政策の変更を行う前に、加盟国の懸念を理解するよう努めることを意味します。我々は初期の段階で加盟国と関わり、最後の段階でフィードバックを求めています。

IMFサーベイ: IMFは成長促進の手段として構造改革を大変重視しています。IMFはこれをどのように進めていきますか。

ティワリ: 世界金融危機後、成長は急落し潜在成長率は下方修正となりました。潜在成長率を引き上げる必要があり、重要な手段が構造改革です。欧州では、政策担当者に労働市場及び製品市場の改革に焦点を合わすよう促しています。世界の他のところでは、金融の深化、金融包摂、そしてインフラへの支出が潜在成長率の引き上げのカギです。

これまで1年間の我々の活動は、低所得、新興市場、先進というそれぞれの経済カテゴリーに大きな効果のある構造改革が二つあることを示してきました。ひとつは銀行部門改革でありふたつめはインフラ支出です。それから開発のそれぞれの段階に特有の改革があります。しかし、危機への対応ではなく潜在成長力の促進のための構造改革により焦点を絞るべきであることが明らかになってきています。こうした措置により世界経済の頑健性がより高まるでしょう。

IMFサーベイ: 加盟国との関係のなかでIMFは能力開発の役割をどのように活用していますか。

ティワリ: IMFの活動のなかでもこれは重要な分野であり、現地の能力を開発し技術とスキルの移転を可能にすることで、加盟国の耐性を高めます。このスキルの移転は、技術支援や教室やオンラインでの研修、あるいは我々の地域研修センターや技術支援センターなどを通し行われます。

2~3年前に発表された研究により、IMFと長期的に関与している国は、成長や社会セクターへの支出の面からより優れたパフォーマンスを展開することが分かりました。我々はその理由を明らかにするためにこれを分析し、最終的にこれが能力開発の結果であることが分かったのです。知識の移転や諸制度の強化が行われ、加盟国が危機が発生するまで待つのではなく危機を予防することが可能となりました。

IMFサーベイ: IMF7月にアディスアベバで開かれた国連開発資金会議で重要な役割を果たしました。ワークプログラムは新たな国際開発アジェンダをどのように促進していますか。

ティワリ: IMFは既にアディスアベバで単に約束するのではなく行動を起こしました。この会議との関連で、我々はポスト2015持続可能な開発目標を追求する途上国を支援するための一連の具体的な措置を承認しました。我々は全ての譲許的制度へのアクセスを50%拡大、適格性を有する低所得国が利用できる資金を拡充しました。さらに、自然災害に見舞われた国や脆弱あるいは紛争後の国に焦点を絞った制度であるラピッド・クレジット・ファシリティの下での全ての融資の金利をゼロとしています。

我々は国際課税イニシアティブの波及的影響や金融の深化や金融包摂に関する作業も進めていきます。また、国内歳入の確保、歳出の効率性と有効性、そして資本フローを集め管理する点でも支援を行っていきます。これらはIMFが比較優位にある分野で、これから数カ月間にわたり我々はこうしたトピックに関する作業を拡大していく予定です。

IMFサーベイ: IMFは今後も、不平等、気候変動、ジェンダーといったIMFの伝統的な焦点の外に位置する分野に関する活動を継続していきますか。

ティワリ: IMFの第一の目標は、世界経済の安定性の促進です。主に伝統的な我々の焦点の外に位置していた事柄やトピックが、IMFのマクロ的安定性に関連したマンデート(責務及び権限)に影響を及ぼし始めたなら、そうした分野に関与することがIMFの義務です。たとえば、1990年代後半から貧困問題に焦点を当てるなどそうしてきました。現在の世界の変化のペースは、何よりも新たな事象がIMFのマンデートに影響を及ぼしており我々のワークプログラムが新たな試練に対応できるよう変化する必要があることを物語っています。積極的に我々の活動にそういった事象を盛り込み、マクロ金融の不安定化を引き起こす前にこれらを考え助言することができるようにすることが重要です。我々の、不平等、気候変動、ジェンダーといったトピックに関するワークプログラムは、こうした総合的なアプローチを反映しています。