ギリシャの移民キャンプの閉鎖されたゲートに集まる難民と移住者。移住者の迅速な融合が、受入国・地域のプラスとなろう(写真: InTime/Reuters/Newscom)

中国の移行と移住者が及ぼす影響

2016年9月28日

  • IMF、新たな波及効果に関する分析で中国の移行と世界的な移住者の問題について検証
  • 試練を伴うが、中国の移行と移住者は、適切に管理するならば、長期的にプラスの効果をもたらし得る
  • 移住労働者の1パーセントポイントの増加は、長期的に見るとGDPを2パーセントポイント押し上げることに

中国で現在続く消費主導経済への移行と、移住による人口の変化は、新興市場国・地域を中心に起こっている二つの主な現象であり、それぞれが先進及び新興市場国・地域全体に波及的な影響をもたらしている。国際通貨基金(IMF)のエコノミストは、新たに発表した研究で、こうした波及的な影響は、短期的には試練をもたらす一方で、これを生かすことで長期的には世界経済に恩恵をもたらすことができると述べた。

中国における円滑な移行が世界経済に恩恵をもたらし得る

これまで中国の急激な成長が世界経済の成長を支えてきたように、現在の同国の減速と国内消費へのリバランス(再調整)は、主に三つの経路を通し影響を及ぼしている。ます、貿易経路である。中国へ機械や原材料を輸出している国々は、その商品や一次産品への中国の需要の減少を経験している。これは、とくにアジアの供給源の打撃となっている。第二に、一次産品価格である。同国は、金属や原油の世界的な消費で大きな割合を占めていることから、その需要の低下により価格の下落を誘発し得る。第三に、金融チャネルである。他の国々の中国での出来事に対する資産価格の反応が、波及効果を増幅し得る。

中国のこれまでより遅いペースながらもより持続可能な成長への移行は、適切に管理された場合、後にそうでない場合により混乱を招くような調整を行わなければならないリスクを軽減するだろう。一方で、円滑性に欠けるあるいは不完全な移行は、負のさざなみ効果を悪化させ得る。

中国は、鈍化を受け入れ政策意図をはっきりと示すことで貢献することができる。中国の貿易パートナーは、中国の需要レベルが恒常的に現在より低くなるという状況に調整する必要があるが、同時に自らの成長モデルの微調整に活用可能な資源を生かすことも必要だ。新たな世界レベル・地域レベルの協定で貿易を促進することもできよう。一次産品輸出国は、可能なところではバッファーを活用すべきだが、新たな収入源に経済計画の軸足を移すための調整もすべきである。低賃金で労働力が豊富な国は、バリューチェーンを上がる中国に取って代わることで利益を得ることができる。世界レベルでは、保護主義は長期的に見れば貿易の害になることから回避すべきだ。

移住者の迅速な融合が受入国では重要

この研究によると、成人人口に占める移住者の割合が1パーセントポイント増えると、受入国の一人当たりのGDPが長期的に約2%上昇する可能性がある。また、高度な熟練技術を有する移住者は受入国・地域にプラスの貢献をする一方で、そうではない移住者も、生産性の伸びの上昇で貢献することができるという。それは、たとえば、こうした移住者により現地の熟練女性労働者が労働力に戻る、あるいはより長い時間を仕事に費やすことができるようになるからだ。長期的には、熟練・非熟練労働者問わず移住者は受入国・地域に利益をもたらすことができると結論付けている。

しかし、同時に移住の問題は、移住者の母国と受入国双方に課題を突きつける結果となっている。

移住者の母国では、より良い経済機会を求めた教育を受けた若者が離れることで長期的成長にダメージを及ぼす可能性がある。人的資本の損失は、生産性の低下、スキル構成の悪化、及び税収の減少につながる。こうした損失の一部は、送金の活用や移住者のネットワークを用い緩和することもできる。しかし、最終的には、人々の移住の原因に対処すべきである。

受入国では、移住者の到着が社会的な緊張、治安に関する懸念、そして政治的な反発を引き起こす可能性がある。それでも、この研究が示すように、移住者は成長と生産性の伸びで経済的な恩恵をもたらし得る。さらに、移住者は、その多くが生産年齢人口にあることから、高齢化社会の問題のある程度の緩和となりえる。

しかし、労働市場への迅速な融合がカギである。この点で、労働市場政策の改善、教育へのアクセス、及び移民企業への支援が有用だ。短期的には、受入国の財政圧力を増すなどマイナスだが、こうした政策により移住者が仕事を得これを維持することができ、次第に財政収支に貢献するようになる。また、社会的にもより適切に融合が進むことで、社会の主流との緊張を緩和させることもできる。

言語の問題や職歴や技術の認識の欠如などにより、労働市場への融合は複雑な課題だ。しかし、この研究は、移住者は現地の労働者の労働環境に大きく影響しないと指摘している。長期的には、移住者により労働生産性が上昇し、これが全ての人の所得水準を向上させる。