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住宅バブル崩壊のリスクを計る

クラウディオ・ラッダッツ・キーファー ニコ・ヴァルクス著

ラスベガス、マイアミやフェニックスの住人には良い知らせがある。これらの都市では国際金融危機時に経験したような住宅価格の暴落が起きる可能性は比較的小さい。他方で、トロントやバンクーバーでは2008年から事態は改善されておらず、住宅価格が大幅に下落するリスクは高水準にある。

これらの結果は、住宅価格の大幅な下落の危険性を判定するためにIMFが新たに開発したツールがもたらす知見である。住宅の所有者にとって自宅が最大の資産であるケースが多く、その財産的価値への関心が極めて高いのも当然のことであろう。それだけではなく、住宅価格と金融システム、経済状況の間には密接な関係があり、特に住宅価格が低下する際に相互の影響が大きくなる。毎年2回公刊される「国際金融安定性報告書GFSR)」の最新号の第2章では、この関係について考察している。

住宅価格が経済全体にとって重要なのはどうしてか。ひとつには、住宅の新築やリフォーム関連の支出が米国やユーロ圏では経済全体の支出の約6分の1に及び、GDPの大きな需要項目のひとつとなっているからである。さらに、住宅ローンをはじめとした住宅関連融資は多くの国で銀行の保有資産の大きな部分を占め、住宅価格の変動が銀行システムの健全性に影響するためでもある。

好況と不況の波

そのような背景から見れば、近年における金融危機の3分の2以上が住宅価格の急騰と暴落の後に生じているのも不思議ではなく、最近、米国、中国、オーストラリアなどの中央銀行が住宅価格の高騰に懸念を表明している理由でもある。

リスクの逆転 国際金融安定性報告書 2019年4月 第2章 chart 1 

宅価格循環の連動性

足下の好調を示すデータがその後の危険のシグナルとなりえるという興味深い結果も得られている。短期的には緩和的な与信環境は住宅価格好調の支えとなる。しかし、長期的に見れば緩和的な与信環境は住宅所有者による過剰借入を誘い、住宅価格暴落につながる可能性を高める。加えて、20184月版GFSRで指摘したように、世界の主要都市の住宅価格は連動して動くため、一国での住宅価格の下落ショックが他国の住宅市場に波及する可能性が大きい。

さらに重要な点として、住宅価格の大幅な下落が経済の収縮と金融不安定化のリスクにつながるおそれがある点が確認された。例えば、我々が開発した指標でマイナス12の数値が観測された場合(これは価格が12%以上下落する確率が5%であることを示している)、2年後に金融危機が生じる確率が先進国にあっては31%、新興国にあっては10%であるとの結果が出ている。

こうしたことがわかるため、経済と金融システムの安定を目指して政策運営を行う当局にとって、我々のモデルは有用な予測モデルとなると考えられる。

複合危機 国際金融安定性報告書 2019年4月 第2章 chart 2

政策オプション

それでは、住宅価格リスクが高まった際に、政策当局としてはどのような対応をとれば良いであろうか。住宅価格の水準自体を政策目標とすべきではないが、我々の研究結果ではいくつかの予防的措置をとることにより家計、銀行、経済にとってのリスクを下げることができるが示されている。ひとつ目は、経済が好調で住宅市場が活況を呈しているときには、いわゆるマクロプルーデンス政策を強化することである。具体的には、住宅ローンの供与額を住宅購入価額の一定割合以下に制限したり、月々の返済額を所得の一定割合以下に制限したりすることなどがあげられる。

中央銀行の政策金利を引き下げることもオプションとしてありえるかもしれないが、我々の分析によれば、このような措置はせいぜい数四半期先までの短期的なリスクを抑える効果しかなく、また、その効果も先進国に限られる。また、資本流入の急増に伴い住宅価格の下落リスクが高まった国においては、資本移動管理策が有効かもしれない。なお、我々の検討はもっぱら景気循環対応の政策を対象としたが、住宅供給の増加策や区域区分による土地利用規制などのより長期的な構造政策や固定資産税などの財政措置も政策として俎上に上って良い。

結論的には、住宅バブル崩壊のリスクを抑える方法はある。我々の開発したツールも活用し、適時に適切な対応をとり、2008年に起きたような世界を震撼させる危機を未然に防ぐことも可能である。

 

 

 

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