写真:IMF PHOTO/Raphael Alves 写真:IMF PHOTO/Raphael Alves

債務の国際枠組みに今すぐ必要な改革

クリスタリナ・ゲオルギエバ   セイラ・パザルバシオグル   ローダ・ウィークス・ブラウン 著
 

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって各国の債務残高はこれまでになく高まった。2019年末と比較した場合、国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率は2021年に先進国で20%、新興国で10%、低所得国で7%増加すると見込まれている。すでに歴史的高水準にあった債務残高に加えて、これだけの増加が予測されている。先進国の多くはまだ借入余力を有している一方、新興国、低所得国がさらなる債務を背負う余地はかなり逼迫している

実際、低所得国の約半数、新興市場国の数か国がすでに債務危機の最中にあるか、危機に直面しつつあることから、さらなる債務の増加は懸念を招くことになる。コロナ禍から回復し始めた矢先、これらの国々の多くはデフォルト、資本流出、緊縮財政策などによる景気後退の第2波に見舞われかねない。そのような危機を避けられるかどうかで、各国にとって失われた10年になるか、急速な回復を実現して持続可能な成長軌道に乗れるか、明暗が分かれる可能性がある。IMFの最近の調査が示す通り、実際にデフォルトが起こってから債務再編を行っていては、予防策として行う場合と比較して、GDP、投資、民間部門の与信、資金流入のさらなる低下を招くことになる。

コロナ禍初期における、中央銀行、財政当局、二国間債権国、国際金融機関による断固たる政策対応のおかげで、今のところ債務危機は起こっていない。これらの対応は不可欠なものだが、それだけではすぐに不十分になってしまう。

IMF

まず、ここまでのイニシアティブは意図的に短期のものとして設計されたものだ。G20債務支払猶予イニシアティブ(DSSIは、IMFと世界銀行の要請に応えた歓迎すべき対応であるが、2020年末に期限を迎える。IMFはまた、緊急融資として、47の低所得国を含む計76か国に310億ドルを拠出しており、最貧国に対しては大災害抑制・救済基金(CCRTの下、債務救済策を提供している。資金ニーズは高いままと予想され、発展途上国は2021年以降も低コストの追加資金調達が必要である。

次に、ここまで実施された対策は主に政府・民間市場の双方からの資金調達を各国が維持するという流動性に焦点を当てたものであった。しかし危機が長引くことで、債務返済能力不足の問題が次第に浮上しつつある。発展途上国の債務危機を防ぐには、緊急の追加対策が必須である。

どの分野の対応が必要なのか

債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)を2021年まで延長することが必要だ。そうしなければ、現在猶予を受けている国では、債務返済を再開するために緊縮策を打たざるをえなくなり、新型コロナ危機による人的被害を拡大させてしまう。支払猶予期間の延長は、持続不可能な債務の問題に早期に対処する動機付けとなるはずだ。例えば、債務の脆弱性を緩和するよう設計されたIMFや世界銀行のプログラムと、猶予期間の延長を連動させることも可能である。

債務の脆弱性を抱える国は緊急に対応が必要であり、債務管理と再成長を促す対策を組み合わせなければならない。債務が持続不可能な場合、再編は必須であり、早期に対処するに越したことはない。民間セクターの債権も該当する場合は対象とすべきである。支払能力の問題を放置していると状況は悪化の一途をたどることになる。

何より重要なのは債務の国際的な仕組みに改革が必要なことであろうが、ここには公的債務の契約、IMFやパリクラブといった制度、秩序ある債務再編を支える政策枠組みが絡んでいる。目指すべきは、債務救済を必要とする国に迅速かつ十分な救済を提供することで、これら債務国のみならず、制度全体に利することだ。

本日、IMF民間債権者に対する債務の再編に関する現在の仕組みを評価し、実施可能な改善策を提案する報告書を発表した。既存の契約枠組みは主にソブリン債の再編に効果を上げてきたが、最近のエクアドルやアルゼンチンでの改革事例が示すように、商業債権者の多様性の大幅な高まりや、債務の不透明性など対処すべき問題もある。例えば、債券によらない債務が増加しつつあるが、こうした債務の再編だけでなく、債務担保証券や、担保のような機能を有した債務にも既存の枠組みがあまり効果的ではないと判明してきた。多くの場合こういった融資条件は非公開であるが、天然資源の輸出に依存する低所得国で広く用いられているようだ。

民間債権者から視線をずらすと、現在、公的債務の多くはパリクラブメンバー以外の債権国によるもので、パリクラブの手順に準拠していない。この結果、二国間債権国に対する債務の再編が以前よりも難しくなっており、公的債権者と民間債権者の双方による高い比率での参加を確実なものとしにくくなっている。

現在の債務の仕組みから何を改善すべきなのか

まず、債務国と債権国は継続的に契約条項を整備して、債務国に問題が起きた際の経済的混乱を最小限に抑えなくてはならない。IMFなどの機関は、国際的な債券において強化された集団行動条項の採択を着実に推進してきたが、やるべきことは他にもある。類似の条項が債券によらない債務の秩序ある再編を促進するために必要だ。大災害やその他の経済的打撃に際して、債務の返済額を減額したり、返済を自動的に停止したりする条項があれば有効であろう。

2点目だが、債務の透明性を高める必要がある。どの国がどのような条件でどれだけ借りているのか情報がないと、債権者は情報に基づいた融資の決定ができない。そのような状況下で、他の債権者が享受している条件が不明なままでは債務再編への参加にも消極的になるであろう。

3つ目に、二国間債権国は二国間債務の再編に関する共通アプローチに合意する必要があるが、パリクラブのメンバーとメンバー以外の双方の国々が受け入れられる内容でなくてはならない。再編アプローチには、透明性を確保した形式で債務内容を開示するよう債務国に要求し、公的機関、民間含めて全債権者から同様の条件で再編への合意を取り付けられるような共通のタームシートを含めることもできる。こういったアプローチは、全債権者間の情報共有と公平な負担分担の確保につながるかもしれない。そうすれば、債務再編への参加率を高め、費用のかかる遅延を避けられる可能性がある。

これらの改革すべてに即効性があるわけではない。契約条項の整備が債務残高に影響を及ぼすには時間がかかるだろう。一方、二国間債権国すべてを巻き込んだ共通の債務再編アプローチは、G20で現在議論されているところで、実現すれば今すぐにでも重大な変化をもたらすかもしれない。

IMFの役割

IMFは債務危機を防ぐため尽力しており、政策助言、融資、能力開発を通じて加盟国を支援している。最貧国に対しては大災害抑制・救済基金の下、債務救済策を提供し続ける予定である。また、国債発行限度方針の強化や、債務管理に関する技術支援の提供などを通じて債務の透明性を向上させ、G20とともにDSSIを延長するよう取り組んでいる。我々は債務国と債権者の間の調整や債務再編を支援しているが、これは債務の持続可能性を回復させる対策の分析、債権者の参加率を高める金融支援の条件調整などを通じて行うものである。

全ステークホルダーが責任を果たす必要がある

今、世界は重大な岐路に立っており、座して危機を待つようなことがあってはならない。IMFが取り組んできたことでもあるが、手元の武器を確認する必要がある。必要ならば先手を打って、公的債務の泥沼を防ぐために最善を尽くさねばならない。別の選択肢である大規模なデフォルトは、経済に深刻な打撃を与え、数年にわたって回復を遅らせかねない。特にリスクが高いのは低所得国で、一旦債務危機に陥ると、その国民が最も苦しむ可能性が高い。

DSSIの延長、債務の脆弱性への対応、さらに強固な債務枠組みの構築が重要なステップとなる。IMFは全ステークホルダーに対し、大災害のリスクを抑制するために各自が責任を果たし、より安全な金融システム構築への道筋をつけることを要請する。

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国際通貨基金(IMF)専務理事 クリスタリナ・ゲオルギエバ

セイラ・パザルバシオグルは世界銀行の公正成長・金融・制度(EFI)を担当する副総裁として2018101日に就任した。20157月に世界銀行グループでの勤務を開始するまで、国際通貨基金(IMF)で金融資本市場局の副局長を務め、金融規制・監督と危機管理に関する業務の責任者だった。20012月にトルコで起こった大きな銀行危機の後、同国の銀行規制・監督当局の副総裁に任命され、IMFでの勤務を開始するまで同職に就いていた。それ以前には、ロンドンの投資銀行ABN AMROで欧州新興市場国を担当するチーフエコノミストであった。

ローダ・ウィークス・ブラウンIMFの法律顧問兼法律局長。融資、規制、提言機能を含めIMF業務の法務的側面に関して、IMFの理事会、マネジメント、職員と加盟国政府に助言を行っている。IMFでのキャリアを通じて、広範にわたる重要な業務方針や各国の問題について法律局の業務を統括してきた。IMFの法律の全側面について記事や理事会向けペーパーを執筆し、本テーマに関してチューレーン大学でセミナーを共同で教えた。

過去にはIMFコミュニケーション局の副局長としても勤務し、アフリカ、アジア、欧州での広報活動を主導し、IMFの広報戦略の変革において重要な役割を果たし、重要な法律や金融のトピックに関するIMFの戦略的な政策コミュニケーションを統括した。

ハワード大学で経済学士号(最優等)、ハーバード大学ロースクールで法務博士号を取得。IMFでの勤務前にはスキャデンのワシントンDCオフィスに務めた。ニューヨーク州、マサチューセッツ州、コロンビア特別区の弁護士会に所属している。最高裁弁護士会の一員でもある。また、世界の女性リーダー育成に注力する非営利団体TalentNomics, Inc.の理事を務めている。

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