「4条協議」として知られる加盟国経済の定期的な健全性調査では、引き続き、IMFの業務の中核である財政、通貨、為替、金融の諸問題が対象となる。
将来的には、サーベイランスにおいてIMFに課された役割の実践を改善するために、気候変動やデジタル技術といったマクロ経済に大きな影響を及ぼす問題も体系的に組み込まれることになる。
各国の状況に適合し、かつ的を射た政策助言の提供は、政策担当者が経済環境の変容に一層の準備を行う上でも役立つだろう。
新旧の課題を伴って急速に変化する世界
新型コロナウイルスのパンデミックは、まだ序盤にすぎない21世紀において重大な分岐点となった。パンデミックに伴い新たなリスクや波及効果が露呈し、復興をめぐっては大きな不確実性が見られる。
抜本的な変化が起こるという見通しはパンデミック以前から存在した。世界は相互の結びつきが深まりつつあり、デジタル化と格差の傾向が加速し、現在では気候変動への対処が最優先事項となっている。
それに加えて、今や政策担当者はコロナ禍の舵取りも行わなければならない。命と暮らしを守ることが最優先であり、その上で持続可能な復興を実現し、経済への後遺症を回避する必要がある。
そのためには、政策担当者は答えが容易に見つからないことも多い問いと向き合わなければならない。それは例えば「安定と持続的な成長を実現しつつ十分な支援を維持するために政策を調整するにはどうすべきか」、「世界金融危機時にマクロ経済ツールを大幅に活用してしまったために介入の余地が乏しい場合に政策担当者はどのように対応すべきか」、「依然パンデミックに見舞われている国がさらに後れを取ることがないよう、タイミングが異なり非対称な景気回復に上手く対処するにはどうすればよいか」といった問いだ。
IMFのサーベイランス枠組みの刷新
こうした変化に立ち向かうべく、IMFの政策助言はその内容と、加盟国への関与のあり方との両面で進化しつつある。
この新しい方向性は、IMF理事会が最近承認した「2021年包括的サーベイランス見直し」において強調されている。2014年以来となる今回の見直しには、加盟国当局や外部の専門家、その他の利害関係者との広範囲にわたる議論が反映されている。そこでは、以下のとおり、今後のIMFサーベイランスを方向づけることになる4つの優先事項について概要が示されている。
- リスクおよび不確実性への対処。政策助言では、想定される一連の結果についての評価を改善させることが必要となる。それは、予想よりも悪いシナリオに備える上で有用となるほか、政策が予想外の好結果や機会を活かすことも可能にする。
これには、危機管理計画の策定やリスク管理のための政策を土台として、リスクとリターンのトレードオフに関する理解を深めることが必要となる。この種の助言には、自然災害に備えてどの程度の保険を購入すべきかといった定量的な検討事項と、思わぬ成長の機会を利用する方法といった定性的な側面が含まれうる。
- 波及効果の回避と緩和。パンデミックによって世界の相互の結びつきの強さが浮き彫りになっている。一国における事象が世界全体に多大な影響を及ぼす可能性がある。景気回復ペースの差が拡大していることによって、政策正常化の影響が増幅されるかもしれない。保健政策や気候変動、デジタル化に由来するものも含め、そうした波及効果の新しい源泉が未来の形を規定することになる。経済的・政治的な波及効果を特定・評価し、それを緩和・回避する方法に関して政策助言を提供することが極めて重要となる。波及効果を発生させる側と受ける側との間の対話の強化も国際経済協調にとって有益となりうる。
- 経済の持続可能性の促進。経済の持続可能性に対するより幅広い理解が必要とされている。経済の持続可能性を実現するには、それだけでは十分ではないが、長期的な経済の安定性が欠かせない。人口や格差、社会・政治的動向、気候変動のトレンドは経済の安定性に影響するものであり、より体系的に議論されることになる。必ずしもすべてのトレンドがどの国にとっても等しく緊急性を有するわけではなく、それぞれのトレンドがマクロ経済上重要であるかは各国固有の事情によって決まる。
- 政策助言に対する統一的なアプローチ。競合する優先事項と限られた対応の余地の間でバランスをとることが大きな課題となる。パンデミック下で、加盟国は同時に様々な政策ツールを活用した(図参照)。それにあたっては、政策ツールの慎重な調整と、補完性および相反する目標についての理解が必要となった。
関連する問題は国や時期によって異なる。例えば、生産性の低さに直面している国にとっては、財政政策と構造政策の連携が重要となる。金融リスクが形成されつつあるところでは、マクロ金融分析の統合を一層進めることが特に重要となる。
資本フローに対処し、外的ショックへの抵抗力強化を模索している国々にとっては、政策担当者が利用できる政策オプションやトレードオフの概要を示した「統合的な政策枠組み(IPF)」が適切なポリシーミックスを選択するための分析手法を提供している。
統一的な政策助言は、意思決定者がこうしたトレードオフについて議論し、相乗効果の実現を図る上で役に立つ。
IMF加盟国との政策対話は、引き続きIMF理事会によって承認された要件に従うことになる。4条協議では今後も包括的な評価が行われ、財政、通貨、対外セクター、金融、構造問題に関する政策がその対象となる。
報告書はより焦点が絞られ、マクロ金融の側面やリスク評価・危機管理計画策定、波及効果、能力開発をより良く組み込んだものとなる。新しいテクノロジーやデータの利用可能性の向上は、業務のやり方を刷新し、サーベイランスの妥当性を高めることに資するだろう。
政策助言はよりきめ細かく、各国固有のものとなる。これは、経済への後遺症を抑制する方法や企業に対して的を絞った支援を提供する方法といった、ピアラーニングが求められる新しくて急を要する問題の場合に特に当てはまる。もうひとつの改善点は、IMFによる助言が分野横断的な政策課題の早期発見と各国の経験から得られた教訓を踏まえるようにすることである。
今回の「包括的サーベイランス見直し(CSR)」は重要な節目であり、今後それを実行に移す上で必要な作業が数多く残されている。変化は漸進的なものとなるだろう。将来の結果に大きな振れ幅が生じても優先事項が変わらない一方で、事象は不確実であり、不測のショックも発生するだろう。IMFは常に学ぶ機関であり、状況に応じ進化し、試行し、修正する用意があることは加盟国に機敏かつ効果的な助言を提供する上での基本である。
詳細は「包括的サーベイランス見直し(CSR)」のウェブサイトをご確認ください。
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ファビアン・ボーンホーストはIMF戦略政策審査局マクロ政策課の課長補佐。過去には、IMF西半球局においてブラジルとボリビアの駐在代表や、訪問団代表を務めた。また、欧州局でドイツとユーロ圏のサーベイランス(政策監視)を担当するチームにそれぞれ参加した。2006年にIMFでの勤務を開始する前には、海外開発研究所(ODI)フェローとしてナミビア財務省に派遣されていた。近年の研究としては、ユーロ圏の財政ガバナンスを含む財政政策、また、レバレッジ解消時の公的債務と民間債務の相互作用に焦点を当てたものがある。イタリアのフィレンツェにある欧州大学院で博士号を取得。
ジェイラ・パザルバシオルはIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。