デリケートな局面を迎えた世界経済

2019年4月9日

Photo: Uli-Deck/picture alliance/dpa/Newscom

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1年前には世界のほぼ全域で経済活動が加速していたが、それから1年が経つと、情勢は一変した。米中貿易摩擦の激化、必要だった中国での与信政策の引き締め、アルゼンチンやトルコでのマクロ経済的なストレス、ドイツ自動車産業の混乱、金融環境のタイト化や主要先進国での金融政策正常化のいずれもが、特に2018年後半において顕著であったが、世界の経済成長が大幅に減速する一因となった。

最新の「世界経済見通し(WEO)」は、世界経済の伸び悩みが2019年前半も続くと見込まれることを踏まえ、2019年に世界経済の70%を占める国々で成長率が落ち込むと予測している。世界経済の成長は、2018年に3.6%とペースを緩めたが、2019年にはさらに3.3%まで鈍化すると予測されている。2019年の成長率は1月の予測から0.2%ポイント下方修正されたが、これもまた世界の広い地域の予測に基づくもので、ユーロ圏、中南米、米国、英国、カナダ、オーストラリアなど、いくつもの主要経済の下方修正を反映している。

低調なスタートとなった2019年だが、後半には成長の再加速が予測される。この成長率の回復は、主要国での大幅な金融緩和政策が下支えするものであり、またGDPが潜在成長率に近い率で拡大しているにもかかわらずインフレ圧力がないことで可能になるものである。米連邦準備制度理事会、欧州中央銀行、日本銀行、イングランド銀行はいずれもより緩和的な政策スタンスへと舵を切った。中国は財政政策と金融政策による景気刺激策を強化して貿易関税のマイナス効果に対抗している。くわえて、米中貿易摩擦については、貿易協定の可能性が具体化しつつあることから、見通しが改善している。

これらの政策対応は金融環境のタイト化の流れを逆転させる助けになってはいるものの、その成功度は国によって違いがある。新興市場国では資金流入が一部再開し、政府の資金調達コストが低下し、現地通貨が対ドルで値上がりしてきている。金融市場の状況は急速に改善しているものの、実体経済の改善のペースは遅い。大半の先進国や新興市場国で工業生産や投資の指標となる数値は今のところ変わらず精彩に欠け、世界貿易の回復はいまだ見られない。

2019年後半の見通しはやや明るくなっていることから、2020年の世界経済の成長率は3.6%まで回復すると予測される。しかしこの回復予測は、2019年の4.4%から2020年には4.8%へと成長率を高めると予測される新興市場国経済や発展途上国経済の回復を踏まえたもので、心許ないものとなっている。具体的には、アルゼンチン経済やトルコ経済の立ち直りや、それ以外のストレス下にある発展途上国における経済状態の一部改善などに依拠する予測であり、そのため、おおいに不確実性をはらんでいる。ユーロ圏の経済成長率の一部改善が予測されるにもかかわらず、先進国の経済成長は2020年にはやや減速するだろう。米国の財政刺激策の効果が薄れていくことや、高齢化傾向と生産性の伸び悩みを考慮すると先進国の成長率は勢いを欠く潜在成長率に回帰していくと考えられるからである。

2020年以降、世界経済の成長率は約3.5%で安定すると見込まれる。世界経済を活気づけると考えられるのは主に中国とインドの成長であり、また、両国の所得が世界の所得に占める割合の高まりである。新興市場国や発展途上国の成長率は5%で安定化すると予測されるが、アジアの新興市場国が他地域よりも速いペースで成長し続けているため、成長率には大きなばらつきがあるだろう。同様のパターンは低所得国にも当てはまり、一部の国(とりわけ一次産品輸入国)が急成長する一方で、他の国々は1人当たりのGDPの面で先進国にさらに遅れをとることになる。

世界経済の成長が直面するリスク

世界経済は妥当な成長率で拡大を続け、ベースライン予測では世界的な不況が予測されていないものの、下振れリスクも数多くある。貿易政策をめぐる対立は、急速に再燃して自動車産業など他分野で緊張を生じさせグローバル・サプライチェーンに多大な混乱を引き起こしかねない。ユーロ圏や中国など世界経済システム全体に影響を及ぼしうる地域や国の経済成長が思いの外、下振れする可能性もある。また、英国のEU離脱に伴うリスクも相変わらず高いままである。いくつもの国々が民間部門と公的部門の多額債務を抱え、国と銀行の「破滅のループ」のリスクさえあるという状況の中、市場心理が悪化すれば金融環境は急速にタイト化しかねない。

より包摂性の高い経済を構築する

これらのリスクを鑑みると、代償の大きな政策の誤りは何としても回避すべきである。政策当局者は力を合わせ、政策の不確実性が投資に水を差すことがないよう確実を期するべきだ。財政政策の面では、需要の下支え、社会支出の保護、持続可能な水準での公的債務維持との間の困難なバランスを適切に管理する必要があるが、政策の最適な組み合わせは各国個別の状況による。金融部門政策では、景気変動抑制的な資本バッファーなどのマクロプルーデンス施策を活用して積極的に脆弱性に対処しなければならない。金利が長期的に低水準にとどまる可能性が出てきたことから、これはより緊急の課題となっている。金融政策は引き続きデータに基づき周知徹底した上で実施し、期待インフレ率を必ず安定的に保っていくべきである。

世界中どの国にとっても、潜在成長率を引き上げ、包摂性を向上させ、強靭性を高める措置を講じていくことが急務である。貿易摩擦の解消、サイバーセキュリティ上のリスクや気候変動への対処、国際課税の有効性改善などについては、一層の多国間協力が必要とされている。

2019年は世界経済にとってデリケートな局面となる。下振れリスクが現実化することなく、実施された政策支援が有効であったならば、世界経済の成長は再び加速するはずだ。しかし、仮に主要リスクのいずれかが現実のものとなれば、ストレス下にある国や、輸出に依存する国、多額債務を抱える国では、回復が軌道に乗らないかもしれない。そうなった場合、政策当局者は調整を迫られることになる。状況に応じて、世界各国が同時に、国内事情に適した景気刺激策を実施するとともに、緩和的な金融政策をとる必要が出る可能性がある。そして最後になるが、世界経済の安定化に資する有効な国際セーフティネットを維持するためには、国際機関の十分な資源確保が引き続き不可欠である。

出典:IMF

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