政策手段としてのコミュニケーション

写真: Chine Nouvelle/SIPA/Newscom

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2019年5月21日

経済政策を策定する上で、市民とのコミュニケーションはもはや後付けの要素ではない。むしろコミュニケーション自体を政策手段としてとらえる傾向が、現在強まりつつある。もちろんコミュニケーション活動が優れた政策の代わりとなることは決してない。しかし、経済改革は影響を受ける人々の理解と信用、支持を得られなければ失敗に終わる可能性が高く、逆効果になることさえある。この原則は、金融、金融セクター、財政、構造など、広範な政策分野に当てはまる。

ソーシャルメディアの急速な普及によって、これまで以上に多くの人々が公共政策に関して自分たちの意見を表明できるようになり、世界中で透明性と説明責任を求める期待が一層高まっている。その結果として政策当局者は、自分たちの決定をより多くの市民に対して分かりやすく説明し、自分たちが支持に値することを示さなくてはならないというプレッシャーの高まりを感じている。つまり、自分たちのメッセージを市民に届け、理解と信用を得るために、さらなる努力をしていく必要があるということだ。

IMF職員による新しいペーパーでは、広範な研究に基づき、様々な分野でのコミュニケーションに伴う最新課題の概要が各国の政策当局に向けて提示されている。もちろん、各政策分野には分野特有のコミュニケーション課題がある。しかし、全体に共通する点も十分にあり、ある分野の政策担当者が他分野の経験から学ぶことは可能である。また、この研究では各国の例を取り上げ、様々な政治体制や政策枠組みにおいて発生し、繰り返し起こる問題を明らかにしている。

信頼の重要性
信頼は、経済が機能し、改革が成果を挙げる上で極めて重要であるため、中心的なテーマである。多数の国で行われた世論調査の結果からは、諸機関や専門家に対する信頼が長年にわたり失われつつあり、こうした信頼の失墜が深刻化していることが明らかになっている。その背景には、世界金融危機が残した爪痕の深さや、格差拡大、政治の二極化、市民のニーズに真摯に耳を傾ける姿勢の欠如があると考えられる。

信頼を回復し、維持する上で、コミュニケーションは中心的な役割を果たしうる。しかし一度失われた信頼は簡単に修復できるものではなく、コミュニケーション活動が新たな印象操作や同じものを上手く見せようとする情報加工の試みに過ぎないと受け取られてしまうと、信頼回復に向けた努力は水泡に帰すことになる。むしろ信頼が一層失われる可能性もあるだろう。成功を収めるためには、政策とコミュニケーションの双方が信頼に足るものでなくてはならない。

経験から学ぶ
効果的なコミュニケーションとは、経験から学ぶことを意味する。また、それぞれの政策分野に合わせてコミュニケーション活動を調整することも必要である。

例えば金融政策に関しては、コミュニケーションは確立した政策枠組みの中で行われることが多く、インフレ期待を管理する上で中心的な役割を果たす。このようなコミュニケーションがどのように機能するかを示した実証的文献が数多くある。

それとは対照的に、金融安定性政策については現在枠組みが構築されているところであり、最も効果的なコミュニケーション方法に関する情報もあまりない。この分野では、適切な透明性の度合いを特定し、金融市場の動揺を回避することが課題のひとつである。

財政・構造政策では、誰が何をいつ、どのように得るのかという政治経済的な考察が、コミュニケーションにおいて真っ先に問題になることが多く、市民の声を聞くことと市民を納得させることの両方に大いに重点が置かれる。例えばブラジルでは市民参加型の予算編成プロセスがいち早く導入され、この方法はラテンアメリカ全体に広がった。多くの国々では現在、予算の優先事項に関して市民社会組織の意見を聞き、協議を行うことが法律で求められている。

危機の際には、多くの政策分野で同時に行動をとることが必要となる場合もある。相互に補い合うメッセージとともに、調整されたかたちでコミュニケーションに取り組むことで、信頼の維持と危機の最終的なコストの削減に努めることができるだろう。

新しいコミュニケーション能力
政策分野が多岐にわたっているとしても、より多くの人々に向けて効果的にコミュニケーションを実施することは、どの国にとっても極めて重要である。成功するためには、新しいテクノロジーを活用し、多様な伝達ルートを通じて情報が発信者から受信者へと届く中、いくつもの伝達手段を利用しながら、絶えずコミュニケーション能力を高めていくことが、今後さらに重要性を増すだろう。主要な目標は、仲介を減らして聴き手に直接働きかけることだ。経済専門メディアがまだ発展途上にある国や特定の政治課題が優位を占める可能性がある国では、これが特に重要である。

より効果的な一連のコミュニケーションツールのひとつとして、現在のソーシャルメディア社会で容易となったオーディエンス細分化といった手法の倫理的な使用に加え、行動学的な知見も活用できるだろう。対象とする受け手のニーズと関心に結びつき、共感できるメッセージを、伝達手段と内容によって階層化することも、理解を深める助けとなるだろう。例えばジャマイカ銀行は、国内で人気のレゲエ音楽を使ったテレビ・ラジオの広告やソーシャルメディアなどを通じて、安定した低水準のインフレの利点を説明する革新的な広報キャンペーンを開始した。

政策が成果を挙げるためには、まず理解を得ることが不可欠である。コミュニケーションの改善が、国が進める改革努力を成功に導く助けとなる。このためには、他の国々や機関の経験から貴重な見識を得られるだろう。
 
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