世界経済の成長を阻むのではなく、促すためには

(Photo: Rodrigo Reyes Marin/AFLO/Newscom)

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2019年6月6日

今週、G20財務大臣・中央銀行総裁会議が日本の福岡市で開催されますが、参加国の財務大臣と中央銀行総裁は開催地の福岡市から刺激を得られるのではないでしょうか。日本の「スタートアップ都市」として知られる福岡市は、ここ数十年、貿易、イノベーション、そしてオープンな姿勢に前向きであることで、繁栄してきました。

この福岡市のような精神がこれまで以上に必要とされています。これは、経済成長を改めて加速させ、より持続可能な成長へと軌道修正できるように、貿易摩擦を解消していくため、また、その他の障害を取り除いていくためです。 目指すべきは、世界の経済成長を阻害することではなく、促進していくことなのです。

安定化の兆し

私は4月に、世界経済は「デリケートな局面」にあると申し上げました。国際通貨基金(IMF)は、2019年の 世界経済の成長率予測 を3.3% へと下方修正しました。これは主に、一時的な各国固有の要因によるものであり、また貿易摩擦の影響が目に見えてきたためです。同時にIMFは、今年後半には 成長の回復が見られ、その後加速して2020年には成長率が2018年と同じ3.6% になると予測しました。

また、米連邦準備制度理事会や欧州中央銀行が金融正常化をより忍耐強いペースで進めることや、中国が財政面からの景気刺激策を強化することによる世界経済への好影響も期待されていました。そして実際のところ、これらの政策対応はここ数か月、金融環境の緩和や、新興市場国への資本流入増加などを下支えしています。

現に最新の経済データには、ほぼIMFが予測した通りのかたちで世界経済の成長が安定化しつつあるかもしれない兆し が表れています。例えば、アジア新興市場国や中南米の一部では第1四半期の経済活動が期待を裏切ったものの、米国やユーロ圏、日本の成長は見通しを上回る堅調さでした。

ですから、一部には良い知らせもあるのですが、より力強い成長への道筋は引き続き不安定です。これは、なぜでしょうか。

大きな障害

ここで、成長回復への道にとって大きな障害となりうる要素のうち、いくつかについてお話ししたいと思います。

ひとつには、見込まれる成長加速に複数の疑問符がつく のです。第1四半期に見られた先進国の成長の勢いは持続するだろうか。ストレス下にある一部の国では成長率の改善が以前予測されていましたが、この改善が実現するか、それとも予想以上に時間がかかるのか。英国の合意なきEU離脱があった場合、景況感にどう影響するのか。そして、最近の原油値上がりは経済活動をさらに落ち込ませるのかといった具合です。

もうひとつの障害は、世界経済の潜在的な脆弱性です。例えば、企業債務 は、金融環境の急変が引き金となって新興市場を混乱させるような資金流出が起こりかねない水準まで高まっています。

また、多くの国で成長率の中期見通しが芳しくない こともわかっています。これは高齢化や生産性改善の遅れのせいばかりでなく、過剰な経済格差の悪影響が徐々に出てきているためでもあります。

貿易摩擦の暗雲がさらに大きくなりつつある

最も重要なのは、現在の貿易摩擦の影響への懸念が高まっていることです。 最新の米中の関税措置により投資や生産性や成長がさらに落ち込みかねないリスクがあります。米国が提案したばかりの対メキシコ関税措置も懸念されます。

実際に、現在の貿易摩擦では米国、中国、世界経済のいずれも得をしていない確たる証拠があります(図を参照)。

IMFの試算では、米中の最近発表された関税措置や想定される関税措置が2020年の世界GDPを約0.3% 押し下げる可能性があり、その打撃の半分以上が景況感への影響や金融市場のセンチメント悪化に起因します。

全体としては、昨年実施されたものも含めた米中の関税措置により2020年に世界GDPは0.5% 減少する可能性があります(図の下部を参照)。これは、南アフリカの経済規模を上回る約4,550 億ドルにものぼる損失です。

これは自らが招く害であり、回避しなければなりません。では、どうすればよいのでしょうか。最近発動した貿易障壁を撤回し、いかなる形態のものであれ、さらなる障壁を設けないようにすることで回避できます。

保護主義的措置は経済成長や雇用にとってマイナスであるだけでなく、輸出入が可能な消費財に手が届きにくくなり、低所得世帯が不釣り合いに大きな悪影響を受けるというのが現実なのです。

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G20 が貢献できる

それでは、G20諸国の政策担当者はどのようにして、こうした障害の解消を助け、成長回復を支えられるでしょうか。

直ちに取り組むべき優先課題は、現在の貿易摩擦を解決することであり、その一方で 国際貿易体制の現代化 を推進することです。これは、世界貿易機関(WTO)のルール、特に助成金、知的財産、サービス貿易に関するルールをどう強化するかについての国際的な合意形成を含みます。目標は、よりオープンかつ安定的で透明性が高く、21世紀の経済のニーズに応える力を備えた貿易体制を築くことです。

例えば、IMFの研究 は、長期的に見れば、サービス貿易の自由化によって世界GDPが約3,500億ドル 増加しうることを示しています。貿易が生活水準の向上やより高賃金の雇用の創出に資するとすれば、この種の経済成長の意義は極めて大きいものです。

貿易体制を修復しつつ、国際法人課税の改革や、世界の金融セーフティネット強化、そして人類の存続を脅かす気候変動への対処にも各国が協力する必要があります。

強靭性と包摂性を高める

同時に私たちは、膨らんだ公的債務と低い金利が原因となって、多くの国で政策対応の余地が限られている ことも認識しなければなりません。この課題に対処するにあたっては、経済成長、債務の持続可能性、社会的な目標との間で適切なバランスが取れるように、慎重に調整した財政政策が必要になります。

また、貿易や技術革新により引き起こされる混乱に対応する一方で、取り残されてしまった人々への支援も拡充していかなければなりません。

そして、小売業や専門サービスへの参入障壁を引き下げる、女性の労働参加を増やすことを推奨するなど、さらなる構造改革も必要です。もちろん改革は各国の事情に合わせて個別に設計されますが、この種の施策があわせて実施された場合には、G20諸国のGDP 成長率を長期的に4% 押し上げうるとIMFは試算しています。

また重要な点ですが、構造改革は成長をより強靭なものにし、また、成長の恩恵が社会により広く行き渡るようにするでしょう。

成長の勢いが失われたら、協調すべき

このようにして成長加速を支えるべく努力しつつも、各国は「もしもの場合にはどうすればよいか」と問う必要があります。

必ずや訪れる次の景気後退期が巡ってきた時、政策当局は、政策の複合効果を最大化させるためにあらゆる政策ツールを使う 必要があるかもしれません。これは、可能な限り断固とした金融緩和や財政面の景気刺激策を用いて需要を支えていくことを意味します。また、需要が力強さに欠ける場合にはこれら支援策を使って構造改革の効果を増大させることも意味します。

IMFのG20ペーパー では、経済的悪影響とその後の政策対応のシミュレーションを行っています(図2上部を参照)。考えられるひとつのケースでは、あらゆる政策ツールが使われた場合、G20諸国のGDP成長率は大幅に早く、より持続可能なかたちで回復します。

また、政策協調は国境の枠にとらわれてはなりません。IMFが行った景気後退期のシミュレーションでは、すべての国が国内で景気刺激策を決然と実施すれば、プラスの波及効果によって各国の成長が互いに強化されることを示しています。そして、もし各国が成長拡大に努めるのであれば、どの国も他国の取り組みの恩恵を受け、全体としてずっと大きな効果が得られるのです(図2下部を参照)。

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終わりに

当然のことながら、国際協力が必要なのは、起こりうる景気後退時のみではありません。現時点でも国際協力は極めて重要です。なぜならば、どの国も引き続きデリケートな局面に立っているからです。日本のことわざにあるように、「浅い川も深く渡れ」ということです。

G20諸国にとっては、川を渡ることはすなわち、見込まれている経済成長率の回復を妨げずに促す べく連携して取り組むことを意味します。

政策当局者もオープンな「福岡の精神」を取り入れることで、経済成長の障害を排除して、世界経済を持続性がより高く、誰もが恩恵を受けられる軌道に乗せるための貢献ができるでしょう。

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