先進国内で広がる地域間格差

写真:Nancy Wiechec/Newscom

写真:Nancy Wiechec/Newscom

2019年10月9日

同じ国の中であっても地域間で景気動向に大きな差が見られることがあり、時としてその差は各国間の差よりも大きくなりうる。

例えば、米国の1人あたり実質GDPの平均は、スロバキアの平均値を約90%上回っている。だが同時に、米国内で見ると、ニューヨーク州の1人あたりGDPはミシシッピ州よりも100%高いのだ。

このような大きな差がいつまでもなくならないのは、取り残されている地域や人々が存在し、誰もが恩恵を受けられる包摂的な経済成長が阻害されていることの表れだと心配する声が多い。景気動向の悪い地域があれば、不満が高まり社会に対する信頼や社会的一体性が崩れるおそれがある。

最新の「世界経済見通し(WEO」の第2章では、先進国の景気動向が良好な地域と不調な地域に注目したところ、多くの場合、両者の格差が拡大してきていることがわかった。また、各地域の労働市場が貿易やテクノロジーのショックにどう反応しているかについても着目し、国外市場からの輸入品との競争拡大と、自動化に対してより脆弱な地域における機械設備のコスト低下からこの点を考察した。研究結果は、影響が尾を引くのはテクノロジーのショックのみであることを示唆している。景気動向の悪い地域で特にこの傾向が見られる。

地域格差を測定する

地域間格差を測定するひとつの方法は、90/10比を計算することだ。同じ国の中で上位10%の地域(つまり90パーセンタイル)の1人あたり実質GDPを下位10%の地域の1人あたり実質GDPで割るのである。イタリアの場合、この90/10比は約2であるが、これは1人あたりGDPで比較すると、豊かなトレント県はシチリアの約2倍ということを意味する。それとは対照的に、日本の90/10比は1.35と小さい。

先進国における地域間の不均衡は1980年代後半からじわじわと拡大してきており、それ以前の30年間に明らかに縮小した格差の一部は元に戻ってしまった。米国を含む先進国の各国内における90/10比は現在約1.7であり、90パーセンタイルの地域は10パーセンタイルの地域より平均で70%豊かであることを示している。とは言え、所得のばらつきは地域間よりも地域内の方がはるかに大きい傾向にある。

また不均衡の拡大は、先進国内のより貧しい地域がもはや以前と同じスピードで豊かな地域に追いついてはいないことを意味する。

出所:OECD地域別データベース、IMF職員による試算。

大きな差

今回のWEO2章では、ある地域の2000年当初の1人あたり実質GDPがその国の中央値の地域を下回っていることと、2000年から2016年まで当該地域の平均成長率が国全体の平均成長率を下回っていることという2条件を満たしている場合、その地域が他地域よりも「遅れている」と分類している。

しかし、差がついているのはGDPだけではないのだ。平均的に言って、遅れている地域の人々は健康状態も悪く、乳児死亡率がより高く、平均余命もより短い。また、大学教育を受けた労働者の割合も、25歳から54歳のいわゆる働き盛りの人の割合もより低く、失業率はより高く、そして就業している人の割合はより低い。

このような不利な人口構成を反映して、遅れている地域では、労働者1人あたりのGDPである労働生産性が部門を問わずより低い傾向にある。その度合いには幅があり、公的サービスでは5%低く、製造業、金融、専門サービスでは約15%低くなっている。

さらに、より貧しい地域は傾向として、情報技術や通信や金融のような生産性の高いサービス部門ではなく、農業や製造業に特化している。気候変動は不均衡を悪化させるおそれがある。気温上昇は農業や熱にさらされる産業の労働生産性を下げ、遅れている地域がより大きな悪影響を受ける場合が多いからだ。

出所:OECD地域別データベース、IMF職員による試算。

ショック対応

地域間の差をよりよく理解するために、IMFの研究では貿易とテクノロジーのショックが地域の失業率と移住に与える影響について分析している。

研究からわかったのは、貿易のショック、すなわち国外市場からの輸入品との競争の増加は、平均的に言って地域の失業率に大きく影響しないということだ。

全体としても、後れている地域だけを見ても同様である。貿易のショックは1年後に就業率を減らす傾向があるものの、この影響は薄れるのも早い。このような研究知見は、国際貿易が地域の経済成長に対して特に破壊的だと考える人にとっては驚きかもしれない。

しかしながら、テクノロジーとなると話は全く違ってくる。本研究によると、テクノロジーの負の影響(機械装置のコスト低下で間接的に測定)によって、自動化の影響を受けやすい地域はいずれにおいても失業率が上昇しているが、遅れている地域では特にダメージが大きいことがわかった。

出所:IMF職員による試算。

また、遅れている地域の中でも自動化が進みやすい地域では、テクノロジーのショックの後に地域を去る人の数が統計学的に有意に減少している点も私たちの研究からわかっている。これは、こうした地域の労働者がより良い雇用を求めて地域外へと転出することが他地域と比べて難しいことを示唆している。遅れている地域では、労働者がテクノロジーのショックに応じて調整を行うことが難しくなっているのだ。

人と地域に焦点を

歪みを減らし、より開放的で柔軟な市場を奨励する政策は、各地域がショックに対して失業率の上昇を最小限に抑え、労働者や資本がよりよく再配分されるようにする上で貢献するだろう。職を失った人に新たに職業訓練を提供し再雇用を早期に実現する労働政策は、遅れている地域で特に役立つ。参入障壁が低く貿易の開放性が高いオープンな製品市場は、リターンがより高い地域や企業への資本移転を促すことができる。

さらに、仕事の世界の変化に適応するための教育訓練の質向上は今回の研究報告の重要な推奨事項のひとつだが、それがもたらす恩恵は、遅れている地域の中でも失業率が高い地域で殊更大きいだろう。

最後になるが、遅れている地域に対象を限定した財政支援や、労働者の移住を容易にするプログラムなどによって地域間格差を減らすことを目標にした財政政策、また、地域ショックに対するバッファーの提供を目指す財政政策も、役割を果たすことができるだろう。しかし、こうした地域ベースの政策は、調整を妨げることなく促進するべく慎重に設計されなければならない。

 

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