より低く、より長く 脆弱性の拡大が成長持続へのリスク

写真:共同/Newscom

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2019年10月16日

世界の経済活動は弱含みで、2019年当初の予想に比べ、金利水準はより低く、また低金利状態はより長く続くと市場は見ている。金融環境の緩和はさらに進み、これが景気後退リスクを抑え短期的には世界経済を下支えしている。しかし、緩和的な金融環境にはコストも伴う。より高い収益を求めて投資家がより高いリスクを取りにいく結果、中期的に見れば金融システムの不安定化と成長低下のリスクはかえって高まっている。

「国際金融安定性報告書(GFSR)」最新号ではいくつかの主要国における企業部門とノンバンク金融部門の脆弱性の高まりに焦点を当てている。こうした脆弱性は他の弱点ともあいまって、貿易摩擦の激化や合意なきブレグジットなどのショックの影響を増幅し、経済成長の低下をもたらす恐れがある。

この状況は政策当局にとってはジレンマだ。一方では経済見通しの悪化に対応するために金融面の緩和を維持したい反面、他方では緩和がもたらす脆弱性の蓄積も避けたい。本報告書ではこうした状況に対応するための政策提言を行っており、具体的にはノンバンク金融機関を対象としたマクロプルーデンス施策の開発と適用などを推奨している。

環境の転変

4月版の「国際金融安定性報告書」の公表以降、国際金融市場は貿易摩擦を巡る状況の転変と政策面での不確実性の影響にさらされてきた。企業マインドの悪化、経済活動の低下、先行きの見通しの悪化に促され、欧州中央銀行や米連邦準備制度を含む世界の多くの中央銀行が緩和方向に政策の舵を切った。

こうした中央銀行の行動とメッセージを投資家は金融政策の転換の印と受け止めた。GDPで見て約7割の国において中央銀行は金融政策を緩和した。この転換に伴い、長期金利が大幅に低下し、主要国のいくつかでは金利が大幅なマイナスとなっている。驚くべきことに、利回りがマイナスの公社債の残高は15兆ドルにまで増加している

 出所: Bloomberg Finance L.P., IMF職員による試算。

この結果生じているのは、金融環境の一層の緩和と共に、脆弱性の蓄積であり、なかでも企業部門とノンバンク金融機関にその傾向が顕著である。

出所: IMF職員による試算。

主要国のうち8か国では企業債務が増加する中、債務返済能力が低下している。大幅な経済活動の低下、具体的には2007年から2008年の国際金融危機時と比べて半分程度、経済が落ち込んだ場合に生じる影響のシミュレーションを行った結果はかなり深刻なものである。このシナリオ下では営業利益で利払いを賄えない企業の債務は総額19兆ドルにも及ぶこととなると予測される。我々が有リスク企業債務(corporate debt-at-risk)と名付けたこの負債の額は対象国(米国、中国、いくつかの欧州諸国を含む)の総企業債務の40%近くに及ぶ。

出所: 国際決済銀行 (BIS), Bureau van Dijk Orbis, Haver Analytics, S&P Global Market Intelligence, WIND Information

ノンバンク金融機関でも脆弱性は高まっている。4月来の悪化に伴い、システム上重要な金融部門を有する国の8割(GDPで見て)で高い脆弱性が見られ、この割合は国際金融危機の最悪期にも匹敵するレベルである。

極端な低金利の結果、保険会社、年金基金、資産運用業者などの機関投資家は目標とする収益率を確保するために利回り追求行動を強め、よりリスクが高く流動性が低い証券への投資を増やしている。具体的には、年金基金ではプライベート・エクイティや不動産のような代替的な資産クラスへの投資を拡大が見られる。

このような行動からは、いくつかの結果が懸念される。投資ファンドが似たような運用を行うと市場の下落局面で売りが一斉に出て下げを増幅する、あるいは年金基金資産の流動性が低下すると伝統的に果たしてきた市場安定化機能が発揮できなくなるといった現象が心配される。さらに、保険会社による対外投資はショックの市場間の波及を助長する恐れがある。

出所: Bloomberg Finance L.P.

新興市場国、フロンティア市場国の対外債務は増加傾向にある。先進国の金利低下を受け、相対的に有利な投資対象と見られるこれら諸国に先進国からの資本流入が続いているからである。対外債務の対輸出額比は、新興国の中央値で見て、2008年の100%から160%にまで上昇している。金融環境の突然のタイト化と借入コストの上昇が起きればこれらの国は債務返済が困難になりかねない。

出所: Bloomberg Finance L.P., 国際金融協会 (IIF), IMF 世界経済見通し

不均衡の拡大

いくつかの市場は買い進まれすぎており、これが金融不安定化のリスクにつながっている。米国と日本では株価が割高となっているように思われる。主要な債券市場では信用リスクの対価としてのクレジットスプレッドがファンダメンタルズから見て縮小しすぎていると考えられる。

出所: Bloomberg Finance, Haver Analytics, S&P Global Market Intelligence, Thomson Reuters I/B/E/S, IMF職員による試算。

金融環境が突然大幅にタイト化した場合、こうした脆弱性が露呈し、資産価格の急落につながる恐れがある。政策当局としてどのような対応をとるべきだろうか。本報告書で示した脆弱性に対処するためには具体的には以下の施策が必要である。

  • 有リスク企業債務:金融監督とマクロプルーデンス上の監視を厳格化する。具体的には特定のリスクに焦点を当てた銀行のストレステストを実施し、レバレッジの高い企業に対する健全性確保のための施策を導入する。
  • 機関投資家:監視を強め、ディスクロージャーを充実する。これによりレバレッジの引き下げなどバランスシート上の不均衡の是正を目指す。
  • 新興市場国とフロンティア市場国:慎重な政府債務管理の枠組みと運用の充実を図る。

要すれば、景気循環末期でこれだけ金融環境が緩く、脆弱性が積み上がっている中では、中期的な成長へのリスクを低減させるために当局は速やかに行動を起こす必要がある。現状は圧倒的に不確実性が高い状況だが、賢明な政策選択を早急に行うことで最悪の結果を避けることができる。

 

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