ストレート・トーク 適応の時代

2019年12月2日

(写真:SOPA images/Newscom)

(写真:SOPA images/Newscom)

― いかなる機関や個人も気候変動との戦いにおいて傍観者でいることは許されない。

気候変動に直面する私たちが取り組むべき途方もない課題について考える時、私の頭に一番に思い浮かぶのは若い人たちのことです。最終的に、今日の行動から生じる成果を享受するか、その重荷を負うことになるのは若い世代だからです。

私は9歳になる孫娘のことを考えます。彼女が二十歳になる頃には、気候変動が深刻化し、さらに1億人の人々が貧困に追いやられるのを目の当たりにすることになるかもしれません。40歳を迎える頃には、1億4,000万人が気候移民となる可能性があります。安全でなくなったり生活ができなくなったりするために故郷から逃げることを余儀なくされる人々です。そして、もし彼女が90歳まで生きれば、地球の気温は3~4度上昇し、ほとんど住めない場所となってしまうかもしれないのです。

これは、私たちが行動を起こさなければの話です。私たちはこのような暗澹たる未来を回避できますし、何をすべきかもわかっていいます。排出を削減し、削減できない分は相殺し、そして新しい現実となった気候に適応するのです。いかなる個人や機関も、傍観者でいることは許されません。

 

現実を直視する

化石燃料の段階的廃止やエネルギー効率の向上、再生可能エネルギー源の導入、土地利用と農業実践の改善といった様々な緩和措置を通じて温室効果ガス排出削減の取り組みは前進を続けていますが、ペースが遅すぎます。私たちは、低炭素経済への移行を強化・加速させなければなりません。それと同時に、気候変動がすでに現実のものとなっており、何百万という人々の生活に影響を及ぼしているという点を認める必要があります。干ばつや洪水、熱波、暴風雨が以前よりも増えるなど、気象関連事象の頻度が増し、より深刻なものとなっています。

私たちは、備えがあるか否かにかかわらず、適応の時代に突入しているのです。そのことについて賢明であるべきです。適応とは敗北なのではなく、すでに起こっている現実から身を守ることなのです。正しい投資を行うことは、いわゆる「三重の配当」を生みます。つまり、将来の損失を防ぎ、イノベーションを通じた経済的利益を促進し、あらゆる人々に社会的・環境的な利益をもたらすのです。この3点目の利益については、すでに影響を受け、最も危険にさらされている人々がその恩恵を特に享受できます。建築基準を改正することにより、インフラや建物が極端な事象に対してより高い耐性を持つようになります。農業を気候変動により強いものとすることは、研究開発への投資額を増やすことを意味します。それによってイノベーションや成長、より健全なコミュニティを実現するための扉が開かれることになります。

IMFは、気候リスクに対処するための取り組みを強化しています。私たちの使命は、加盟国が健全な金融政策、財政政策、構造政策を通じてより強力な経済を構築し人々の生活を改善するのを支援することです。私たちは、気候変動がマクロ経済にとってのシステミックリスクであると考えており、IMFは調査や政策助言を通じてこの問題に深く関与しています。


緩和に加え適応も

取り組みのうち緩和に関しては、私たちはカーボンプライシングに関する業務を強化します。また、各国政府が炭素に依存するブラウン経済から脱炭素を目指すグリーン経済への移行を進める中で、ロードマップの策定を支援します。炭素税は、各国政府にとって導入可能で、最も強力かつ効率的なツールのひとつです。地球の気温上昇を摂氏2度以下に抑えるには、大排出国が炭素税を導入して2030年に1トンあたり75ドルとなるよう税率を迅速に引き上げる必要があるとIMFの最新の分析は示しています。しかし、炭素税は注意深く成長に配慮した形で導入しなければなりません。重要なのは、単に新しい税を追加するのではなく、公正かつ創造的で効率的なやり方で税制を再編することです。スウェーデンが良い例です。同国では、炭素税導入後、低・中所得世帯向けに所得移転と減税を拡大し、エネルギーコスト上昇を相殺できるようにしました。

こうした方法は他国でも採用できるものです。炭素税がもたらす税収の一部を、税負担能力が最も限られる低所得世帯に戦略的に還元するのです。税収はGDPの1~3%になると見込まれており、その一部についてはグリーン化を選択する企業や世帯の支援に充てることもできるでしょう。

私たちが炭素排出削減へ向けた取り組みを継続している一方で、ハリケーンや干ばつ、洪水といったより極端な気象の頻度が増しており、世界各地の人々がその影響を受けています。被害が最も大きいのはもともと自然災害に対して脆弱な国々であり、災害時に人命が直ちに失われるだけでなく、経済にも長い間にわたって影響が残ります。経済的損失がGDPの200%を上回ったような国もあります。例えば、2017年にハリケーン・マリアに見舞われたドミニカがそうです。

IMFの緊急融資制度は、災害に遭った低所得国を対象に迅速な支援を行うために設計されています。IMFでは、それにとどまらず、各国が気候関連課題に対処し、新技術等への投資に関するリスク評価やインセンティブ供与を行えるように、適応面の様々な分野でも取り組みを行っています。

私たちは、とりわけ非常に脆弱な国において、防災と災害復興を手助けすべく、強靭化戦略を支援しています。また、研修や技術支援を通じて、災害リスク管理と災害対応の向上へ向けた各国政府の能力構築にも貢献しています。

私たちは、気候に関する取り組みがより大きなインパクトを持つように、他の機関と協力しています。世界銀行とのパートナーシップは最も重要なもののひとつであり、その主たる例としては「気候変動政策評価」に関する協力があります。IMFと世界銀行は共同で、各国の緩和・適応計画やリスク管理戦略、資金調達の状態を精査し、必要な行動をとるために投資、政策変更、能力構築への支援が必要とされる場合には不足状況を示しています。

 

新しいフロンティア

私たちは、前進するのと同時に、自らの専門性を役立てられる場合にはいつどこへでも足を踏み入れることに前向きであるべきです。そして、私たちが取り組みを強化する分野は他にもあるのです。例えば、中央銀行とより緊密に協力できるでしょう。金融安定と物価安定の番人である中央銀行は、今や気候変動がもたらす多面的なリスクに対処すべく規制の枠組みと実践を適応させています。

多くの中央銀行と規制当局が気候リスクの開示・分類基準の改善を模索しています。それが実現すれば、金融機関や投資家は気候関連リスクのエクスポージャーをより良く評価できるようになり、また、規制当局がシステム全体に対するリスクの測定を向上させる上でも助けとなります。IMFは、「金融システムグリーン化のための中央銀行・監督機構ネットワーク」や他の基準設定機関と協力して支援を行っています。

中央銀行と規制当局には、銀行や保険会社、非金融企業が気候リスクへの自らのエクスポージャーを評価し、気候変動に関するストレステストを開発するのを支援することも求められます。そうしたストレステストは、気候変動に由来する深刻な負のショックが金融機関の支払能力や金融システムの安定性にもたらしうる影響を見極める上で役立ちます。IMFは、自ら行っている各国の金融セクターと経済の評価なども通じて、気候変動ストレステストに関する取り組みの前進を支援します。気候変動に関するストレステストにはきめ細やかな設計が求められます。なぜなら、前例がほとんどないであろうショックや政策行動の影響の評価が必要となるためです。

こうした取り組みのすべては、より多くの資金が低炭素で気候変動に強い投資に向かうようにする上で有用となるでしょう。グリーンボンドの急増は望ましい動きですが、私たちの未来を確実なものとするためには、はるかに多くのことが必要です。それは、ごく単純なことです。私たち全員が、知識やアイディアを共有し、政策を立案・実施し、新しい気候経済への移行に資金を供給するための協力に向けて一層取り組むことが求められているのです。私たちは子どもや孫たちから期待されています。