金融強靭性のためのストレステスト 気候変動リスクを評価する

2020年2月5日

写真:heyfajrul/iStock by Getty Images

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気候変動がもたらしかねない大惨事に社会が備える中で、近いうちに起こるかもしれない一連の経済的なショックを見定めることが大切である。金融システム全体に波及しうる潜在的にシステミックなショックの影響を定量的に把握するひとつの方法が「ストレステスト」の実施である。国際通貨基金(IMF)、世界銀行、金融監督当局が将来的に金融危機を阻止できるよう詳細なシナリオ計画を行うために数十年にわたって活用してきた分析プロセスで、しっかりと設計されたものである。

リスク測定

新しいIMFスタッフペーパー(英語版)で新たな重要ツールとして目につくのは、金融の気候変動への強靭性を測るストレステストである。気候変動ストレステストは、世界レベルと各国レベルの両方で、気候危機が金融システムに影響を及ぼすだろう方法を測定している。

ストレステストは、経済成長の急減速や不動産価格の急落といった最初の金融ショックがどのように金融システム内で増幅されうるかを捉える。これに含まれるのは、経済の日常的な機能と金融制度、支払能力と流動性の問題、政府と金融機関、金融機関同士それぞれの間にある関係性である。

最悪のシナリオ下においても銀行や保険会社といった金融機関が極めて重要な金融サービスの提供を継続できるかという問いにストレステストは長年、答えることに成功している。既存のストレステストの方法論に気候関連の要素を追加することで、気候変動の危険が引き金となって起こりうる様々な金融ショックに各国の政府や民間部門のリーダーたちが備えられるよう支援できるだろう。

適応を続ける

ストレステストはその有効性を保つために新たなリスクに応じて適応する必要がある。当初、ストレステストは個々の金融機関の強靭性を検証していた。2007年から2009年にかけての世界金融危機を受けて、金融システム全体に対するリスクの数量化を目指すストレステストの方法論に力点が置かれるようになった。この方法論はマクロプルーデンス的なストレステストとも呼ばれる。これまで、IMFはマクロ金融分析とシナリオ演習のためのツールも年月をかけて改善してきており、ストレステストの枠組みは、より幅広いリスクを対象に含めるようになっている。

不動産の損害から生じる物理リスク、また、世界的な低炭素経済への移行に影響する政策や技術の変化から生じる移行リスクがIMFのストレステストに組み込まれつつある。新たに洗練されたストレステストによって、こうしたリスクが金融安定性や経済成長にもたらしうる影響を評価できるようになる。

IMFは自然災害による潜在的な物理リスクを一部のストレステストですでに考慮の対象にしている。具体的には、バハマ、ジャマイカ、サモアといった小島嶼国に対してのストレステストである。自然災害は、例えば不動産の損失や観光業への打撃をもたらす大規模ハリケーンなど、悪いシナリオの引き金となるショックとして用いられてきた。資産や担保物件が破壊されたり、それらの価値が低下したりすることによって、直接損失が生じるが、これによって金融機関の企業や家計に対するエクスポージャー額が影響を受ける。例えば、2017年にハリケーン・マリアに見舞われたドミニカなど、経済的損失がGDP200%を上回ったような国もある。今後、物理リスクについてのストレステストは、頻度と規模が増す自然災害のマクロ金融的な影響をさらに捉えることになるだろう。

低炭素経済に移行するためのストレステストは新しく、急速に進化している分野である。石炭産業など再生不可能な資源に依存する産業から世界経済が移行するにつれて、ショックが顕在化するだろう。こうした企業は低炭素排出の経済の仕組みを中心にビジネスモデルを構築しておらず、金融機関はこれら企業へのエクスポージャーがあると、損失を被るかもしれない。こうしたビジネスモデルの企業は、政策措置や技術変化、消費者や投資家の行動変化に伴って、業績が悪化し、事業に混乱が生じ、資金調達コストが増加する。特に、低炭素経済への移行が(事前に何ら措置が講じられなかった結果)突然であったり、設計が不十分であったり、世界的に協調がなされていなかったりすると、リスクが現実のものとなるかもしれない。今後、移行リスクについてストレステストを開発する上で重要な次の一歩となるのは、二次的な影響を捉えることである。二次的な影響とは、資産価格の低下が投げ売りにつながり、その結果、資産価格がさらに落ち込み、悪循環と最初のショックを増幅させる仕組みが生じることである。

気候関連の要素をストレステストに加えることは、政策担当者、企業の意思決定者、投資家が気候関連リスクを予期する上で役立つだろう。そうすることで、IMFと世界銀行は、迅速かつ機動的な対応を必要とする未来の緊急事態に社会が備えられるよう支援するために、中央銀行、監督当局、シンクタンク、学界など様々な機関の職員に価値ある情報を提供する力となれるだろう。

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トビアス・エイドリアンIMF金融顧問兼金融資本市場局長。IMFの金融部門サーベイランスや金融政策・マクロプルーデンス政策、金融規制、債務管理、資本市場に関する業務を統括。また、加盟国で実施するIMFの能力開発活動も統括。ニューヨーク連銀上級副総裁と調査統計グループ副グループ長を経て現職。

プリンストン大学およびニューヨーク大学で教鞭をとった経験があるほか、「American Economic Review」「Journal of Finance」「Journal of Financial Economics」「Review of Financial Studies」等学術誌への掲載多数。マサチューセッツ工科大学博士、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、フランクフルト大学ディプロマ、パリ・ドフィーヌ大学修士。バート・ホンブルクのフンボルト高校卒業(文学・数学専攻)。

ジェームズ・モーシンクは金融資本市場局の副局長で金融セクター評価と金融資本市場局の戦略と資源管理を担当している。以前には、金融セクター評価にくわえて、国別サーベイランスの管理も担当していた。

IMFにおいて、過去26年以上にわたり、世界的なマクロ経済・マクロ金融の問題に取り組んできた。1990年代には、モンゴルにおける市場経済への移行、タイにおける金融危機、日本における銀行の問題に対応した。2000年代に入ると「世界経済見通し(WEO)」関連業務を主導する支援を行い、イギリスとアイルランドへの代表団長を務めた。また、ハンガリーとのスタンドバイ取極、ポーランドとのフレキシブル・クレジットラインを交渉した。2012年より金融資本市場局で勤務している。入局当初は同局の戦略室長とデンマークに対する金融セクター評価プログラム(FSAP)の訪問団長を務めた。2015年に同局の副局長に就任した。プリンストン大学学士、マサチューセッツ工科大学(MIT)博士。

リリアナ・シュマッカIMFのシニアエコノミスト。これまで、金融安定性、取り付け騒ぎ、銀行の業績、ストレステストに関連して広範なテーマの執筆を行ってきた。執筆した論文はIMFワーキングペーパーとして公表され、ピアレビューを受けた経済・金融の学術誌にも掲載されている。過去、グアテマラ、パラグアイ、コソボ、アルメニアの金融セクター評価プログラム(FSAP)を主導した。また、シンガポール、スウェーデン、スペイン、ラトビアのFSAPの副責任者を務めている。また、これまで多くのFSAPでストレステストを担当してきた。IMF勤務前は、ジョージワシントン大学で国際ビジネスの准教授を務めていた。シカゴ大学で経済学博士号を取得。

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