ウイルスの影響緩和と困難な選択   現時点で中国の経験から学べること

2020年3月20日

写真:Dave Tacon/Polaris/Newscom

写真:Dave Tacon/Polaris/Newscom

コロナウイルスの影響が世界経済に甚大かつ深刻な打撃を与えており、政策当局者は対応方法の模索を迫られている。適切な政策が新型コロナウイルス対策と感染症の影響緩和に効果を発揮するということは、中国のこれまでの経験が示しているが、そうした政策の中には厳しい経済的代償を伴うものもある。

困難な選択

社会距離戦略や移動制限を任意で実施するにせよ強制するにせよ、ウイルスの封じ込めを成功させるには、経済活動の停滞という代償を伴う。中国の場合、全国レベルでも地方レベルでも政策当局者が厳格な移動規制を実施した。例えば、感染流行のピーク時には多くの都市で住民に対して厳しい外出禁止令が出された。とはいえその代償は、湖北省がコロナウイルスによって受けた壊滅的影響に比べれば大したことはなかったのだ。中国の他地域からの多大な支援にもかかわらず、湖北省は中国全土への感染拡大を遅らせる努力をする中で甚大なダメージを被った。このことから明らかなのは、パンデミックが全世界規模で本格化するにつれて、各国内でも国家間でも、最も深刻な打撃を受けている地域に対してウイルス封じ込めや他地域への感染拡大減速のための支援が必要となるという点だ。

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高い代償

感染流行は、中国の人々に大きな苦しみをもたらし、現在は同様の被害が世界の他地域で続いている。それに伴う経済的損害も甚大だ。あらゆる兆候から見て、2020年第1四半期の中国経済の減速は大幅なものとなり、今年全般に深い爪痕を残すことになるだろう。

当初は経済の諸活動が立て続けに急停止し、それがあっという間に経済全体に波及して、需要と供給の両方を同時に阻害する本格的なショックと化した。これは今年1月から2月に大きく落ち込んだ工業生産や小売売上高の数値にも顕著に表れている。コロナウイルスショックは、2007年から2008年の世界金融危機と比較しても深刻だ。それは、家計、企業、金融機関、市場が同時に打撃を受けるからであり、まずは中国が、そして今、全世界がその衝撃に見舞われている。

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迅速な措置

この甚大なショックの影響を軽減するには、最も脆弱な層への支援提供が必要となる。中国の政策当局者は脆弱な世帯を支援対象としているほか、社会保障負担や公共料金支払いの免除や、フィンテック企業を通じた融資提供など、中小企業に救いの手を差し伸べるために新たな方法を探っている。その他の諸政策も助けになりうる。当局は、補助金付き融資を迅速に用意し、医療器具製造など感染流行対策にとって重要な活動の拡大を支援した。

金融の安定を守るためには、積極的かつ周知徹底した措置が必要である。この数週間でわかったのは、たとえ一時的なものであっても、保健危機は経済ショックに転じる場合があり、流動性不足や市場の混乱が増幅・永続しかねないということだ。中国では、早期に当局が介入して銀行間取引市場を支え、切迫した状況にある企業に資金援助を提供しつつ、人民元を外的圧力に適応させた。このための措置として、感染流行の影響を受けた債務者に協力するよう銀行に助言したり、中国人民銀行の提供する特別資金により中小企業向け融資を行うインセンティブを銀行に与えたり、対象銀行を絞った上で預金準備率を引き下げるなどしている。国有企業を含む大企業は、この間ずっと比較的安定した融資の恩恵にあずかっている。これは大部分、中国の大手国有銀行がこれら企業に気前よく融資を行っているからである

もちろん、救済手段の中には特有の問題を伴うものもある。例えば、幅広い債務者に対して債務返済を猶予する場合、目下の問題に的を絞った時限措置としなければ、後々金融の健全性を損なうおそれがある。また、補助金付き融資が適切に配分されない、既に生き残れない状態の企業を存続させると後に生産性向上の足かせとなりかねないなどの問題もある。当然ながら、可能な場合には、しっかりと対象を絞った措置を講じることが最善だ。

まだ終わりではない

中国では、大企業の大半が事業再開を発表し、現地従業員の多くが職場に戻るなど、経済正常化の兆候が見られてきており心強い。しかし、大きなリスクが残っており、国内・国際移動を再開した後の新規感染者の再増加もこれに含まれる。たとえ中国国内で新たな感染流行が発生しなくとも、現在進行中のパンデミックが経済的リスクを生じさせている。例えば、さらに多くの国が感染流行に直面して世界金融市場が揺れ動く中で、消費者や企業が慎重な姿勢を崩さず、まさに中国の経済活動が再開しようとしている時に中国製品に対する世界の需要を落ち込ませるかもしれない。したがって、中国の政策当局者は、必要とあらば経済成長や金融安定性を下支えすべく備えておかねばならないと思われる。感染流行が全世界的なものとなっていることを踏まえると、こうした取り組みの多くは、国際的に協調して実施された時に最大の効果を発揮するだろう。

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ヘルゲ・バーガーIMFアジア太平洋局の局長補。中国を訪問するIMF代表団の団長も務める。ベルリン自由大学で通貨経済学を教える非常勤教授でもある。ドイツのミュンヘンで教育を受け、経済学の博士号と大学教授資格を取得した。以前には、ジョン・フォスター・ダラス記念非常勤講師としてプリンストン大学で教鞭をとり、ミュンヘンに本拠地を置くCESifoネットワークの調整を研究ディレクターとして支援した。また、ベルリン自由大学で終身在職権を持った専任教授としても務めた。

ケネス・カンIMFアジア太平洋局の副局長。中国、香港、韓国、モンゴルなど北東アジアを担当する。以前にはイタリア、日本、オランダ、ユーロ圏など幅広い国々を担当した。2003年から2006年にはIMFの韓国駐在代表を務めている。ハーバード大学で博士号、イェール大学で学士号を取得。

李昌鏞(イ・チャンヨン)IMFアジア太平洋局長。IMFでの勤務前にはアジア開発銀行でチーフエコノミストを務めた。アジア開発銀行では、経済動向や開発トレンドについての情報発信を担当するとともに経済調査局を統括した。韓国の大統領直属G20首脳会議準備委員会企画調整団長も務めた。金融委員会への任命前には、ソウル大学の経済学教授、ロチェスター大学の准教授。また、青瓦台(大統領府)、財政経済部、韓国銀行、証券保管振替機構、韓国開発研究院などで、韓国政府の政策アドバイザーとして活躍。主要な関心分野はマクロ経済学、金融経済学、韓国経済。こうした分野で幅広く論文を発表してきた。ハーバード大学で経済学博士号を取得。ソウル大学で経済学士号取得。

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