コロナ時代の国有企業

2020年5月7日

写真:Fotogramma-IPA-ABACA-Newscom

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今般のパンデミックは、人々の命と生活を守るにあたっての公的部門の役割を際立たせている。そうした努力の一端を担うのが国有企業である。生活に欠かせないサービスを提供する公共事業会社がそれにあたるだろうし、小規模事業者に融資を提供する公的銀行もまた然りだ。しかし国有企業の中には業績不振で、国の財政負担を増大させているものもある。そのような国有企業は、大幅な原油安に直面する国有石油会社から旅客数が落ち込んでいる国有航空会社まで多岐にわたる。

ほとんどの人が、日常的に国有企業と接している。私たちが飲む水や、消費する電力や、通勤・通学に利用するバスや地下鉄を提供しているのは、おそらく国有企業だろう。国有企業の形態や規模は様々だ。完全に国有のものもあれば、官民が共同出資しているものもある。

国際通貨基金(IMF)の「財政モニター」最新号では、この国営企業というある種の政府について掘り下げて考察している。ここ数十年で国有企業はどう進化してきたか。国有企業を最大限に活用するには、国はどうすればよいのか。国有企業は、最善の場合には国が経済的・社会的な目標を達成するのに寄与するが、最悪の場合には税金による大規模な救済措置を必要とし、経済成長の足を引っ張る。どちらに転ぶかは、結局のところ、良好なガバナンスと説明責任を確保できるか否かだ。

大規模で複雑

どの国にも国有企業がある。中国、ドイツ、インド、ロシアなど一部の国では、その数は数千に上る。

多くの国で、国有企業は大きな役割を果たしている。例えば、新興市場国や発展途上国では、国有企業がインフラ投資全体の55%を担っている。

国有企業の中には、世界中で事業を行う多国籍企業もある。世界最大規模の企業2,000社の中で国有企業が占める割合はここ20年で倍増し、20%となっている。この増加を牽引しているのは新興市場国の国有企業で、その資産規模は45兆ドルと、世界GDPの半分に相当する。

IMF 

 

 

政府と国有企業の関係は、必ずしも単純明快ではない。政府は、特定の目標を達成したり役割を担わせたりするために国有企業を設立する。例えば、水や電力、そして民間部門では収益性がないと判断されるような交通ルートの提供などがそれにあたる。しかしながら、こうした国有企業が果たすべき役割のために適切な資金投入がなされないことが多く、人々の生活に影響が出る。多くの発展途上国で国有企業がその目標を果たせておらず、20億人以上が今なお安全な水を入手できず、8億人以上が信頼性のある電力供給を受けられずにいる。

もうひとつの例は公的銀行だ。ブラジル、カナダ、ドイツ、インドなどの政府は、自国の公的銀行に対して、現在のパンデミックの影響緩和のための支援を求めている。しかし、公的銀行の多くはその主たる目標である経済発展の促進における実績に乏しく、過剰なリスクをとりかねない。そしてそうなれば、国の経済や国民は危機にさらされやすくなってしまう。

また、政府は国有企業を効果的に監視するのに苦労している。多くの政府にその能力が不足しているのだ。公営の銀行や企業の活動が透明性に欠けることが、説明責任と監督の面で引き続き障害となっている。これは、多額の隠れ債務の累積につながりかねない。そうなれば、時にはGDP10%以上の税金を使って、政府がそれらの銀行や企業を救済することを余儀なくされるかもしれないのだ。

そうしたケースでは、国有企業が民間部門の同業他社に比べて業績が悪い傾向にある。IMFが調べた109か国の約100万社のサンプルを調べたところ、国有企業の生産性は民間企業と比べて平均で3分の1低いことがわかった。このパフォーマンスの悪さの一因は、ガバナンス不足だ。汚職が少ないとされる国の国有企業の生産性は、汚職が深刻とされる国の国有企業の3倍以上なのである。

また、国有企業の国際化により、国有企業は民間企業に対して不当な競争優位を持つとの懸念も高まっている。国有企業は、低利融資や税制上の優遇措置など政府の支援を受けているからだ。国内市場には長らくこの懸念があったが、近年ではそれが国境を超えて影響を及ぼしており、保護貿易政策を煽りかねなくなっている。

税金投入に見合うだけの価値

政府に求められることが増えており、また膨らんだ公的債務も問題になっている局面では、国有企業の基本原則は公的資源を無駄にしないことだ。国が国有企業のパフォーマンスを改善するにはどうすればよいかについて、主に4つの提言をする。

  1. その国有企業が未だに必要なのか、そして税金投入に見合うだけの価値を生み出しているのか、政府は定期的に評価すべきだ。例えば、ドイツでは2年ごとに評価を実施している。製造業のように競争の激しい業種では、国有企業の存在を正当化するのは難しい。通常は民間企業の方がより効率的に財やサービスを提供できるからだ。
  2. 国は、経営者が業績を上げ、政府機関が適正に各企業を監督するよう促す適切なインセンティブを作り出す必要がある。説明責任を強化し、汚職を減らすためには、国有企業の活動の完全な透明性が最重要だ。国有企業を予算と債務の目標に組み込むことも、財政規律を維持するインセンティブを強めるだろう。こうした慣行の多くの部分が、ニュージーランドなどでは実践されている。
  3. また政府は、国有企業に対する適正な出資を確保し、国有企業が自らに課された経済的、社会的任務を果たせるようにする必要がある。スウェーデンはこれを実践している。これは、危機対応においても、開発目標の推進においても非常に重要だ。危機対応という点でいえば、適正な出資により、公的銀行や公共事業会社が十分な資源を有して、このパンデミックの間も補助金付き融資や、水や電力を提供していくことができる。
  4. 国有企業にとっても民間企業にとっても公正な競争環境の整備は、生産性を向上させ、保護貿易主義を回避することで好影響をもたらすだろう。オーストラリアやEUなど一部の国では既に、国有企業に対する優遇措置を制限している。全世界的には、進むべき方向として考えられるのは、国有企業の国際的な振る舞いに関する原則について合意形成することだ。

上手くいかなかった場合のリスクは大きい。ガバナンスが良好で、財政的に健全な国有企業は、今般のパンデミックのような危機との闘いに一役買うことができるし、開発目標の推進にも貢献できる。しかしながら、こうした面で結果を出すには、多くの国有企業をさらに改革していく必要がある。それができなければ、社会的、経済的な代償は大きなものになりかねないのである。

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ヴィトール・ガスパールは、ポルトガル国籍でIMF財政局長。IMFで勤務する前には、ポルトガル銀行で特別顧問など政策関連の要職を歴任。20112013年にはポルトガル政府の財務大臣。20072010年に欧州委員会の欧州政策顧問局長、19982004年に欧州中央銀行の調査局長を務めた。ノーバ・デ・リスボン大学で経済学博士号とポスト・ドクター学位を取得。また、ポルトガル・カトリカ大学でも学んだ。

パウロ・メダスIMF財政局課長補佐。現職以前はIMFの欧州局、西半球局で様々な職務を担った。20082011年にはIMFのブラジル駐在代表を務めた。また、これまでに訪問団代表として複数の国々を訪問している。研究関心分野はガバナンスと腐敗、財政危機、天然資源管理。近年刊行された『Brazil: Boom, Bust, and the Road to Recovery』の共著者の1人であった。

ジョン・ラリエは、IMF財政局のシニアエコノミスト。以前には欧州局で勤務しルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン担当チームに参加したほか、財務局にも務めた。国有企業、公的年金、財政規則など、財政リスクに関する研究を行ってきた。IMF以前は米国財務省で勤務。ジョン・ホプキンス大学高等国際研究大学院で修士号を取得。公認会計士としての勤務経験も持つ。

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