戦火の勇気 蔓延するコロナウイルスと新興市場国・発展途上国の政策対応

2020年6月5日

写真:CHINE NOUVELLE/SIPA/NEWSCOM

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コロナウイルス危機は他に類を見ない危機であり、新興市場国・発展途上国(以下、EMDE)では対象範囲の点でも規模の点でも他に類を見ないような政策対応が実施されている。

新興市場国・低所得国から構成されるEMDEには多くの国々が含まれるが、こうした国々は多様性に富み、リソースが乏しい国も含まれるにも関わらず、医療サービス提供を強化し、世帯や企業や金融市場向けに異例の支援を実施している。財政余地が限られているために、その対策規模は先進国よりも小さく抑えられているが、一部の国は他国への支援までも実現している。

まったく新しい世界

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界経済に猛威を振るう中で、EMDEの経済活動は過去50年に見られなかったようなペースで減速している。一部の国では貿易と資本移動が激減し、原油をはじめとする一次産品の価格が前例のないほどに下落した影響も受けている。国債格付けの引き下げも相次いでいる。

国際通貨基金(IMF)の政策トラッカーではコロナウイルスのパンデミックに対する各国の主要政策対応をまとめているが、それらの対策の中にはいくつかの共通点が見られる。

命を救い生活を守る財政政策

EMDEによる対策の中心となっているのが財政政策だ。EMDEの中には保健危機に際して多額の医療支出が必要となった国もある。とはいえ、その支出増も経済全体を支えるのに必要とされる資源に比べれば小さく見える。各国が企業や中小規模事業者向けに融資や保証や税制優遇措置を提供し、脆弱な世帯に対しては失業給付増額や公共料金支払い助成金による支援を行っている。

 

こうした新たな諸施策のための資金は、借り入れ、財政余地の縮小、既存予算内の優先順位見直し、多国籍間援助など様々な財源から調達されている。

一部の国は、既に成長が鈍化し、債務水準が高まり、保健セクターや低迷する経済を下支えするための財政余地が限られているという脆弱な状態で目下の危機に突入している。IMFの「債務持続可能性枠組み(DSF)」でも評価されていたように、全低所得国のうち約半数は危機発生前の時点でさえ債務ストレス下にあるか、債務ストレスにさらされる恐れが高いと考えられていた。こうした制約もあって、裁量的財政政策によるショック財政対策の全体的規模は先進国に比べると小さくなっている。とはいえそれでも相当な規模ではあるのだが、対GDP比で見て追加歳出や減税は新興市場国が2.8%、低所得国が1.4%だったのに対し、先進国は8.6%だった。

安定性を保つための要 通貨政策面・金融セクター政策面での支援

EMDEの中央銀行は、政策金利引き下げや流動性注入により信用環境に対するショックを軽減した。世界金融危機の初期を含め過去に資本流出圧力が発生した際と違い、大半の新興市場国は政策金利を引き上げるよりもむしろ総じて50ベーシスポイント以上引き下げた。これは、インフレ圧力が弱いことや金融政策枠組みの信頼性が概ね高まっていることに起因しているのかもしれない。

 

多くの先進国と同様に一部の新興市場国ではさらなる金利引き下げの余地がほとんどなく、国債や社債の買い付けなどの「慣例にとらわれない金融政策」による対応を実施している。

流動性や融資分類に関するものも含め規制上の制約が緩和されており、銀行がパンデミック下における支援でより大きな役割を果たせるようになった。

さらに、中国、コロンビアなどの国では、一部のマクロプルーデンス政策を緩和した。マクロプルーデンス政策は、好景気の時期に起こりうる融資の過剰な増加や金融部門におけるシステミックリスクの蓄積を抑制するために導入された貸借に関する制約である。現在は、これを緩和することで危機により最も深刻な打撃を受けた個人や経済部門向けの信用供給を支えることができる。

柔軟性を保つ

EMDEの変動相場制の諸通貨は、資本流出圧力とリスク回避が強まったことを受けて下落しており、中には25%以上の安値となったケースもある。

多くの国はバッファーを活かして外国為替市場に介入し、自国の外貨準備高を引き下げて圧力の一部を相殺した。少数の国では既存の資本流入規制を緩和したが、資本流出を食い止める措置に頼る余地はごく限られている。

 

デジタル化は脆弱層保護の頼みの綱

ボリビアやインドネシアなどの国では、世帯や中小企業にかかった突発的な経済的ストレスの緩和や、キャッシュレス決済推進による感染拡大防止にデジタル技術を役立てている。他の国々、例えばコロンビアやケニアでは、デジタルサービスはインターネットアクセスの規制緩和によって、金融サービスはモバイルマネーや電子決済の利用によって、より手頃な料金でアクセスできるようにしている。ザンビアは、デジタルプラットフォームを利用して小規模農家に助成金を提供した。

供給の混乱を管理する

コロナウイルスの世界的流行と都市封鎖措置の長期化によりグローバルサプライチェーンが阻害されたため、多くの国が、食糧安全保障や医療用品への継続的なアクセス確保のための手段を大半は臨時措置として講じている。例えばいくつかの国では、価格統制を導入したり、基本的な食品や医療用品の価格つり上げ禁止の規制を発令したりしている。なかには輸入規制を緩和した国もある。残念なことに、複数の国々で食料・医薬品に輸出規制が課された。

国際的な連帯 助け合いは大きな効果を発揮する

新型コロナショック対策として、国際金融セーフティネットが活用・強化されている。先進国・新興市場国の複数の主要中央銀行との間で米連邦準備制度が新たなスワップラインを設けている。

G20主導の債務返済猶予イニシアティブ、IMFをはじめとする組織からの資金援助などを通じた国際支援は、EMDEがこうした試練に立ち向かえるように後押ししている。IMF60か国以上に緊急支援を速やかに提供した。さらに、流動性需要が高まったことを受けて、IMFは最近、新型コロナ対策の一環として短期流動性枠(SLLを新設し、IMFの融資ツールキットを強化した。また、主要先進国・地域の中央銀行による大規模な流動性提供は、主として域内・国内の金融環境を対象としたものだが、新興市場国と発展途上国が直面するプレッシャーも緩和している。

その一方でEMDEも、EMDE間でも、助けを必要としているその他の国々に対しても、支援の手を差し伸べている。とりわけ各種の地域開発銀行が、民間企業に対する支援や、貿易金融や、医療用品への継続的アクセスを提供している。二国間援助の例としては、イタリアに医師団を派遣したアルバニアや、近隣諸国のみならず先進諸国にまでも医療用品を寄付しているベトナムなどがある。

EMDEは新型コロナウイルス感染症が引き起こしたショックやそれに対する市場の反応によって多大な影響を受けている。IMFの政策トラッカーによる分析は、イノベーションと国際協力によって強化された異例の政策対応が実施されていることを示している。未曽有の事態が急展開している今、世界各国は互いから学ぶことによって利益を得られる。そしてIMFは、ベストプラクティスを収集・共有し、このデータを分析に取り入れ、加盟国を引き続き支援していく所存である。

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マーティン・ミューライゼンIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。

ウラジミール・クライエフIMF戦略政策審査局マクロ政策課の課長補佐。IMFでは様々な先進国、新興市場国、低所得国を担当してきた。また、調査局でも何年にもわたり勤務し、多国間の問題を担当した。為替制度、家計の貯蓄、インフレーション・ターゲティングなど多様なテーマに関して実証面と理論面を取り上げた多くの論文や記事を執筆してきた。ハーバード大学より政治経済学・政府研究の博士号を取得。

サラ・サニアIMF戦略政策審査局のエコノミスト。現職では、IMF加盟国業務に適用されるマクロ経済方針を設計・審査している。IMFでは様々な国に関する業務を担当してきた。危機後の回復、マクロ金融政策、システミックなリスクに研究上の関心を持ち、執筆してきた。2017年から2019年にはケニア担当のエコノミストとして世界銀行で勤務した。イギリスのサウサンプトン大学で経済学の修士号・博士号を取得。

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