新型コロナとの戦い 銀行監督当局の対応

2020年6月16日

写真:ipopba/iStock by Getty Images

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新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)が引き起こした巨大なマクロ金融ショックは、今も世界経済に深刻な打撃を与えており、銀行も借り手も厳しい状況に置かれている。監督当局自体もかつてない試練に直面している。銀行システムが実体経済を支えつつ、金融の安定性を維持できるように、断固たる措置を求められているのだ。本ブログ記事では銀行監督当局がこのような未知の状況に対応するのを支援するとともに、国際基準に適合しない政策措置に対して慎重になるよう呼びかけるため、国際通貨基金(IMF)と世界銀行が共同でまとめた9項目の提言を示す。これは公衆衛生と経済の危機が金融危機に発展するのを防ぐうえで、きわめて重要な意味を持つ。

銀行部門はパンデミックに影響を受けた借り手を支援し、実体経済部門への信用の流れを維持するとともに、金融の安定性を保つことで、パンデミックが引き起こした類例のないマクロ経済と金融のショックを緩和するという重要な役割を果たす。G20が実施した金融規制改革により、世界の銀行システムの基盤は現在、2008年の金融危機のときよりはるかに強固になっている。それでも深刻な流動性危機によって構造的な支払能力の問題が生じれば、債務不履行が増え、銀行システムへの圧力は増大するだろう。経済と金融環境をさらなるマイナスのショックが襲うかもしれない。ショックの最終的な持続期間や影響の大きさは依然として不確実であり、それが銀行監督当局にとって問題をきわめて難しくしている。

IMFと世界銀行は、加盟国が金融部門の安定性を守り、金融を発展させるのを支援するため、長年にわたり重要な戦略的パートナーシップを組んできた。この協力体制の重要性は、かつてないほど高まっている。

銀行の監督と規制は、両機関が幅広い経験を積んできた分野だ。全世界の加盟国におけるIMFと世界銀行の活動から得られた知見、そして共同の「金融セクター評価プログラム(FSAP)」をもとに、両機関は共同で「IMF世界銀行スタッフ・ポジション・ノート」を発表した。ここには各国の銀行監督当局が現下の未知の状況を切り抜けるのを支援するうえで指針となる、提言9項目が示されている。

政策当局者のこれまでの対応

パンデミックの影響を受けた借り手を迅速に救済し、金融システムに十分な流動性を維持するため、多くの国の政策当局は債務返済の繰り延べ、景気刺激策、信用保証などの支援策を実施してきた。

監督当局はこうした政策対応において重要な役割を果たしてきた。多くの監督当局が基準設定機関の方針に基づき、金融部門でさまざまな介入を実施してきた。具体的には、利用可能な銀行資本や流動性バッファーの活用、規制上の扱いの明確化、バランスシートの透明性向上、銀行や決済システムの運営と事業の継続性維持などの対策を実施してきた。

監督当局が留意すべき事項

IMFと世界銀行は、実体経済の差し迫ったニーズを支えつつ、金融の安定性を確保するための継続的取り組みを提言9項目にまとめた。そこでは各国の監督当局に、規制、監督、会計の枠組みにあらかじめ組み込まれた柔軟性を活かす一方、国際的に合意された最低限の規制基準や監督原則を尊重するよう求めている。そのような原則を放棄すれば将来のリスクの種をまくことになり、それは中期的に銀行システムの安定性や健全性を損なう可能性がある。

とりわけ警戒が必要なのは、国際的に合意された枠組みに適合しない対策だ。発展途上国の中には、政策バッファーが限られている、政策の実施能力が低い、規制の枠組みが未熟であるといった理由から、政策の選択肢が限られている国もある。こうした国々が今回の提言に合致しない政策対応に頼りがちな理由はここにある。それは途上国が苦労して獲得した、金融の安定化につながる規制や監督の仕組みを危険にさらす恐れがある。いまだかつて銀行監督当局の役割がこれほど重要だったことはない

IMF

提言が金融システムの健全性維持にどう役立つか

患者の血圧が上昇したとき、医療的に許容される血圧の範囲を引き上げれば、病院のモニターの警報が鳴ることは防げるかもしれないが、それによって患者が危険な状態を脱するわけではない。同じように、銀行部門の「バイタルサイン(資本、流動性、資産内容)」の定義や測定方法を変えても、銀行システムの健全さは保てない。

たとえば一部の国は、パンデミックが始まる前には問題のなかった債権について、資産区分や引当金の要件を凍結する、あるいは支払期限より遅れた日数の条件を緩和するなど不良債権の定義を変更するといった動きがある。このような方法には、融資ポートフォリオの一部が構造的影響を受けたり、パフォーマンスが悪化したりしたときに、バイタルサインが見逃されるリスクがある。一時的措置はパンデミックの影響を明確に見通せるようになるまで時間を稼ぐのに役立つかもしれないが、提言4は監督当局に対し、銀行が引き続き確立された基準に従って資産内容を評価し、時間の経過とともに十分な引当金を積むような対応を求めている。それによって銀行のバイタルサインが適切に把握され、経営陣の適切な行動を促すとともに、必要な場合には監督当局が早期に介入できる。資産区分や引き当てについて明確な指針を示すこと、評価基準の設計が適切で、時期と対象が明確であることも、持続性のある回復の素地を整えるうえで重要だ。

提言は各国に対し、制度的枠組みに備わった柔軟性を活かしつつ、最低基準を順守するよう促している。それによって銀行システムの健全性にかかわるバイタルサインが透明性をもって維持、監督されることを目指している。これはパンデミックの甚大な経済的コストをさらに膨らませるような、深刻な金融危機が発生するリスクを抑えるのに役立つだろう。

IMFと世界銀行は加盟国に協力し、支援するという共通の立場をとってきた。ここに示した提言は、今回のパンデミックの下で、さらには同じように重要な回復への道のりにおいて、金融の健全性を維持するための政策の立案、監視、強化を支援するものだ。

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トビアス・エイドリアンIMF金融顧問兼金融資本市場局長。IMFの金融部門サーベイランスや金融政策・マクロプルーデンス政策、金融規制、債務管理、資本市場に関する業務を統括。また、加盟国で実施するIMFの能力開発活動も統括。ニューヨーク連銀上級副総裁と調査統計グループ副グループ長を経て現職。プリンストン大学およびニューヨーク大学で教鞭をとった経験があるほか、「American Economic Review」「Journal of Finance」「Journal of Financial Economics」「Review of Financial Studies」等学術誌への掲載多数。マサチューセッツ工科大学博士、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、フランクフルト大学ディプロマ、パリ・ドフィーヌ大学修士。バート・ホンブルクのフンボルト高校卒業(文学・数学専攻)。

セイラ・パザルバシオグルは世界銀行の公正成長・金融・制度(EFI)を担当する副総裁として2018101日に就任した。20157月に世界銀行グループでの勤務を開始するまで、国際通貨基金(IMF)で金融資本市場局の副局長を務め、金融規制・監督と危機管理に関する業務の責任者だった。20012月にトルコで起こった大きな銀行危機の後、同国の銀行規制・監督当局の副総裁に任命され、IMFでの勤務を開始するまで同職に就いていた。それ以前には、ロンドンの投資銀行ABN AMROで欧州新興市場国を担当するチーフエコノミストであった。

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