先進国経済の成長促進に資する移民

2020年6月19日

写真:CHINE NOUVELLE/SIPA/Newscom

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近年、移民をめぐって激しい政治的議論が交わされてきた。多くの人は外国からの移民を肯定的にとらえている一方で、誤解や懸念も見られる。例えば、一部の人は移民が各国の経済にとって負担になると考えている。

20204月「世界経済見通し」の第4では、移民が受入国に与える経済的影響に注目した私たちの最新研究を紹介している。そこでは、移民によって一般的に受入国の経済成長と生産性が高まることが明らかになっている。

ところが、今回のパンデミックによって、移民が突然ストップしてしまっている。「大封鎖」は一時的だとしても、パンデミックは広く見られる躊躇の思いや開放性に対する疑念に拍車をかけ、各国の移民受け入れへ向けた意欲に長期的な影響を及ぼす可能性がある。受入国で移民が減少し失業が増大すれば、貧困国を中心として、移民労働者による母国への送金に大きく依存している移民送出国が打撃を被ることになるだろう。

移民の趨勢

移民を出生国以外に居住する者と定義すると、その数は2019年に世界全体で27,000万人に上った。1990年以降、移民人口は12,000万人増加している。しかし、世界人口に占める移民の割合は過去60年にわたって3%付近で推移している。

注目すべきは、先進国の全人口に占める移民の割合は7%から12%に増えているのに対して、新興市場国・発展途上国では移民の割合が2%前後にとどまっていることである。

移民は、出身地域内で移り住むことが多い。しかし、国際移民のかなりの部分が、南アジアから中東へといったように、長距離の移動を伴うものとなっており、特に新興市場国・発展途上国から先進国への移民が見られる。

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それとは対照的に、難民の移住はより局地的な現象となっている。というのも、脆弱な人々が急遽わずかな資金を手に自宅を離れ、自国から近い安全な土地へと移動する場合がほとんどだからだ。そのため、新興市場国と発展途上国は、難民の発生国であると同時に、主な目的地ともなっている。

押し出し要因と引き付け要因

国外移住のコストは非常に高く、移民が人口のごく一部に限られるのはそのためである。移住コストには地理的・言語的障壁も含まれる。移民の流れに見られる違いの大部分はこの2種類の障壁によって説明できる。

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人々が移民する主な理由は、移民の送出国と受入国の間にある所得格差である。豊かな国ほど、人口構成が若い国の出身者を中心に、より多くの移民を引き付ける。1人あたり所得が低い国ほど、他国へ移住する人が多くなる。ただし、過度に貧しい場合は別である。私たちの研究では、移民送出国の1人あたり所得が7,000ドルを下回ると、所得が低い国ほど先進国への移民も少なくなることがわかった。このことは、人々が移住費用を賄うのに必要な資金を欠いており、貧困の罠に陥っていることを示唆している。  

新興市場国と発展途上国の間の移住は主に戦争によって説明される。これは、難民の流出入における地理的近接性の重要性を裏付けるものである。最後に、将来の移民圧力の分析にとって重要な点として、移民送出国の人口規模が移民の流出を促す主要な要因となる。

経済への影響

私たちの分析では、先進国への移民全体(大半は経済的理由によるもの)が及ぼす影響と、新興市場国・発展途上国への難民の移住が及ぼす影響を分けて考えた。

この分析からは、先進国では移民が短中期的にGDPと生産性を押し上げることがわかった。特に、流入移民数が総雇用者数に対する比率で1ポイント増えると、5年目までにGDPをほぼ1%押し上げることが明らかになっている。

それは、国内労働者と移民労働者が労働市場に多様な技能をもたらし、それが相互に補完し合って生産性を高めるからである。さらに、私たちが行ったシミュレーションでは、移民によってもたらされる生産性の伸びが小さい場合でも、国内労働者の平均所得にとって有益となることが示された。

しかし、生産性に関するプラスの影響は、難民が新興市場国や発展途上国に移住する場合には見られない。このことは、こうした移住者が現地の労働市場に参入する際に直面する困難を反映している。

将来の移民圧力

新興市場国や発展途上国(特にサブサハラアフリカ)の人口は、今後30年にわたって増え続けることになり、先進国への移民圧力が上昇する可能性が高い。例えば、下の図からは2020年から2050年にかけてアフリカと中東から欧州への移民圧力が高まることが読み取れる。しかし、世界的に見れば、移民圧力は世界人口の3%程度とほぼ一定で推移することになる。

新興市場国・発展途上国においては、所得の増加に伴い移民圧力が低下すると見られる。しかしすでに述べたとおり、サブサハラアフリカ諸国のようにより貧しい国については、必ずしもそれは当てはまらない。所得が伸びることで(低水準であることは変わらないが)、移民が可能になる人が増えるからである。

(代替シナリオとして検討される)その他の圧力も移民に影響を与えることになる。例えば、気候変動によって、新興市場国・発展途上国における国内移民や域内移民が大幅に増加すると見られている。他方、私たちの研究結果からは、先進国への移民に対する気候変動の影響は新興市場国・発展途上国に比べて明確ではないことが示唆されている。より貧しい国の多くで所得が低下することにより、出身地域に留め置かれる人が増える可能性があるからだ。

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利益の拡大を図る

移民は受入国に大きな利益をもたらし、移民者にはより良い暮らしの機会を提供する。しかし、特定の市場セグメントに属する国内労働者が少なくとも一時的には経済面で損害を被る可能性があり、分配の課題も生じかねない。そのため、労働市場で困難に直面するそうした国内労働者の所得と再訓練を支援すべく、財政政策や労働市場政策を活用する必要がある。

さらに、語学研修や職業資格認定の簡素化といった、移民の統合につながる積極的な労働市場政策や移民政策も、移民が受入国にもたらす効果を一層高める上で役に立つ。

最後に、難民の移住に伴って生じる課題に対処する上では、国際的な政策協調が必要となる。難民の受け入れや統合にかかる費用を新興市場国・発展途上国と分担することもその一例である。

本稿は「世界経済見通し」第4章「The Macroeconomic Effects of Global Migration(世界における移民のマクロ経済的影響)」に基づいている。この章は、フィリップ・エングラー、本條桂子、マルゴー・マクドナルド、ロベルト・ピアッツァ(責任者)、ゲーレン・シャーがフロレンス・ジョーモットの指導の下に担当した。

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フィリップ・エングラーIMF調査局多国間政策監視課のエコノミスト。以前にはドイツ経済研究所(BIW)やベルリン自由大学に勤務。開放マクロ経済学や財政政策を中心に研究。

マルゴー・マクドナルドIMF調査局多国間政策監視課のエコノミスト。以前はアフリカ局でIMFプログラム対象国や対外セクター問題に関する業務に従事。研究分野は国際マクロ経済学、国際金融など。最近は金融政策や銀行業務、貿易による国際的な波及効果を中心に研究。クィーンズ大学で経済学博士号を取得。

ロベルト・ピアッツァIMF調査局多国間政策監視課のエコノミスト。以前にはIMFの金融資本市場局や中東中央アジア局、また、イタリア銀行に勤務。ミネソタ大学で経済学博士号を取得。研究分野は成長理論、金融政策、国際マクロ経済学など。

ゲーレン・シャーIMF調査局多国間政策監視課のエコノミスト。以前は西半球局や金融資本市場局に勤務。イングランド銀行のリサーチ・エコノミストも務めた。応用計量経済学やリスク計測を中心に研究。

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