「大封鎖」後の経済再開 不均一で不確実な回復

2020年6月24日

写真:Michele Ursi/iStock by Getty Images

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新型コロナウイルスのパンデミックによって、各国経済は「大封鎖」に追い込まれた。それは、ウイルスを封じ込めて人命を救う上では有用だったが、大恐慌以来最悪の景気後退を引き起こすことになった。現在、75%以上の国で経済活動が再開しつつあるが、同時に多くの新興市場国・発展途上国でパンデミックは勢いを増している。いくつかの国では、景気が回復し始めている。しかし、医学的解決策がない中で、景気回復の力強さについては不確実性が大きく、部門間や各国間で影響にもばらつきが見られる。

現時点で私たちは、4月の「世界経済見通し(WEO)」における予測と比較して、2020年の景気後退がより深刻なものとなり2021年の回復ペースはより緩やかなものになると予測している。世界経済の成長率は、2020年は4月の予測を1.9%ポイント下回ってマイナス4.9%となり、2021年は部分的に回復して5.4%となると予測されている。

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これらの予測は、今回の危機に伴う世界経済への損失が2020-21年の2年間の累計で12兆ドル以上に達することを意味している。

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4月の予測からの下方修正の背景には、本年上半期の結果が予想以上に悪かったことや、本年下半期にかけて社会的距離の確保がより長期的に継続すると予想されること、そして潜在供給力がダメージを受けていることがある。

高い不確実性

今回の予測は高度の不確実性を伴っており、見通しをめぐっては上振れリスクと下振れリスクの両方がある。上振れリスクとしては、ワクチンと治療薬に関するより良いニュースや追加的な政策支援によって、経済活動の再開が早まる可能性がある。下振れリスクとしては、さらなる感染の波によって移動と支出の増加が反転し、金融環境が急速にタイト化して、債務返済に支障をきたす可能性がある。また、貿易が約12%収縮すると予測されている中で、地政学的緊張や貿易摩擦が脆弱な世界の関係性にダメージを与えかねない。

他に類を見ない回復

他に類を見ない今回の危機は、回復も他に類を見ないものとなる。

第一に、今回の危機が過去に例を見ない規模で世界的に拡大していることによって、輸出依存国では回復見通しが立たず、発展途上国と先進国の間の所得格差縮小も危険にさらされている。私たちは、2020年に先進国・地域(マイナス8%)と新興市場国・発展途上国(マイナス3%。中国を除くとマイナス5%)で同時に深刻な景気後退が見られると予測しており、2020年は95%以上の国で1人あたり所得の伸びがマイナスになると予想されている。中国を除く新興市場国・発展途上国では、GDP成長への悪影響が2020-21年の累積で先進国を上回ると見られている。

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第二に、各国で経済活動が再開する中で、景気回復にはばらつきが見られる。繰延需要が小売業等の一部の部門における支出の急増をもたらしている一方で、ホスピタリティ産業や旅行業、観光業といった対人接触の多いサービス部門は低迷したままとなっている。こうした部門に大きく依存する国は、長期にわたって深刻な影響を受ける可能性が高い。

第三に、労働市場が記録的なスピードで大打撃を受けており、特にテレワークの選択肢を持たない相対的に低所得の半熟練労働者についてそれが顕著である。観光業やホスピタリティ産業といった労働集約部門で景気が低迷し続けると見られており、労働市場の完全回復にはしばらく時間がかかり、所得格差の拡大と貧困の増大につながる可能性がある。

有用であった異例の政策支援

プラス面では、異例の政策支援が回復の追い風となっている。これは先進国について特に言えることであり、それほどではないにせよ財政余地の制約がより大きい新興市場国・発展途上国についても同じことが言える。財政支援は世界全体で今や10兆ドル以上に達しており、金融政策は政策金利引き下げや流動性供給、資産買い入れを通じて大幅に緩和されている。多くの国では、こうした措置によって生活の下支えに成功するとともに大規模な倒産を防ぎ、爪痕が長く残るのを抑え回復を後押しするのに役立っている。

このような異例の支援は、主要中央銀行によるものを中心に、実体経済の動向が厳しい中で金融環境の力強い回復も牽引している。株価が持ち直しているほか、信用スプレッドが縮小し、新興市場国・発展途上国への証券投資フローも安定化し、急落した通貨も上昇している。政策支援は、金融危機を防ぐことで実体経済の悪化を回避することに貢献している。他方で、実体経済と金融市場の乖離は過剰なリスクテイクへの懸念を高めており、無視できない脆弱性をもたらしている。

安心するのはまだ早い

多大な不確実性を踏まえ、政策担当者は引き続き警戒を怠るべきではなく、事態の推移に応じて政策を適合させなければならない。物価上昇率が低水準にとどまると予測される国を中心に、財政・金融政策の両面から大規模な支援を当面継続する必要がある。同時に、各国は財政の適切な会計処理と透明性を確保し、また、金融政策の独立性が損なわれないようにしなければならない。

各国で経済活動が再開されるとしても、保健リスクの管理が優先課題となる。そのためには、医療能力構築の継続や広範な検査、追跡、隔離、安全な距離の確保(およびマスクの着用)が必要となる。こうした措置は、ウイルスの感染拡大を防止し、新たな流行が発生しても整然とした対処が可能であると人々を安心させ、経済の混乱を最小化することに役立つ。国際社会は、医療能力が限られている国に対する資金支援と専門知識の提供を一層拡大する必要がある。ワクチンや治療薬が利用可能となった時に備えて、その十分かつ手頃な価格での生産と流通を確保するために、より多くのことを行う必要がある。

保健危機によって経済活動が著しく制約されている国では、直接影響を受けている人々が失業保険や賃金補助、現金給付を通じて所得補助を受け、影響を受けた企業を納税猶予や融資、信用保証、補助金を通じて支援する必要がある。インフォーマルセクターが大きい国では、より効果的に失業者に支援を届けるために、デジタル決済を拡大するとともに、地方政府やコミュニティ組織を通じた生活必需品(食料や医薬品など)の現物支援によってそれを補完することが必要となる。

すでに経済活動が再開し回復が進行中の国では、人々の職場復帰を奨励し、縮小する部門から需要が増大している部門へ労働者の再配分を促す方向へと政策支援を徐々に移行させることが必要となる。それは、長期失業リスクが相対的に大きい労働者を対象とする職業訓練や雇い入れ助成金に関する支出の形をとりうる。回復の下支えには、バランスシートの修復や過剰債務への対処のための行動も含まれることになる。それには、支払不能に関する強力な枠組みや、不良債権(ディストレスト・デット)の再編・処理のためのメカニズムが必要となる。

政策支援は対象を絞ったものから対象範囲がより広いものへとも徐々に移行しなければならない。政策余地に余裕がある国では、景気回復を加速し、より長期的な気候目標を支援すべく、グリーン公共投資に着手する必要がある。最も弱い立場にある人々を保護するために、しばらくの間は社会的セーフティネット支出の拡大が必要となる。

国際社会は、譲許的融資や債務救済、贈与の提供を通じて発展途上国が重要な支出を賄えるようにするとともに、金融市場の安定性や中央銀行のスワップライン、国際金融セーフティネットの発動を通じて新興市場国・発展途上国が国際流動性にアクセスできるようにしなければならない。

今回の危機によって中期的な課題も生じている。公的債務は今年、先進国でも新興市場国・発展途上国でも、対GDP比で史上最高水準に達すると予測されている。各国は、無駄な支出の削減や課税ベースの拡大、租税回避の最小化、そして一部の国では累進課税の強化を通じて、中期的な財政再建に向けた健全な財政枠組みを備えることが必要となる。

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他方で、今回の危機は、新しいグリーン技術やデジタル技術への投資や、社会的セーフティネットの拡大を通じて、より生産性が高く持続可能で公正な成長への移行を加速する機会も提供している。

真にグローバルな危機に対処するには、グローバルな協力が非常に重要となる。ルールに基づく多国間貿易制度の改善を図りつつ貿易・技術摩擦を解決するために、あらゆる努力を尽くさなければならない。IMFは、十分な国際流動性を確保し、緊急融資を提供し、G20の債務返済猶予イニシアティブを支え、この未曾有の危機において各国に助言と支援を提供するために、引き続き全力を尽くす。

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ギータ・ゴピナートIMF経済顧問兼調査局長。ハーバード大学経済学部ジョン・ズワンストラ記念国際学・経済学教授であり、現在は公職就任のため一時休職中。

国際金融とマクロ経済学を中心に研究を行い、経済学の代表的学術誌の多くに論文を発表している。為替相場、貿易と投資、国際金融危機、金融政策、債務、新興市場危機に関する研究論文を多数執筆。

最新の『Handbook of International Economics』の共同編集者であり、「American Economic Review」の共同編集者や「Review of Economic Studies」の編集長を務めた経験もある。それ以前には、全米経済研究所(NBER)にて国際金融とマクロ経済学プログラムの共同ディレクター、ボストン連邦準備銀行の客員研究員、ニューヨーク連邦準備銀行の経済諮問委員会メンバーなどを歴任した。2016年から2018年にかけてインド・ケララ州首相経済顧問。G20関連問題に関するインド財務省賢人諮問グループのメンバーも務めた。

アメリカ芸術科学アカデミーと経済学会のフェローにも選出。ワシントン大学より各分野で顕著な業績を上げた卒業生に贈られるDistinguished Alumnus Awardを受賞。2019年にフォーリン・ポリシー誌が選ぶ「世界の頭脳100」に選出された。また、2014年にはIMFにより45歳未満の優れたエコノミスト25名の1人に、2011年には世界経済フォーラムによりヤング・グローバル・リーダー(YGL)に選ばれた。インド政府が在外インド人に授与する最高の栄誉であるプラヴァシ・バラティヤ・サンマン賞を受賞。シカゴ大学ブース経営大学院の経済学助教授を経て、2005年よりハーバード大学にて教鞭を執っている。

1971年にインドで生まれ、現在はアメリカ市民と海外インド市民である。デリー大学で経済学学士号を、デリー・スクール・オブ・エコノミクスとワシントン大学の両校で修士号を取得後、2001年にプリンストン大学で経済学博士号を取得。

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