より強靭な欧州をめざして

2020年7月13日

写真:Maria Dimitrova Arias/iStock by Getty Images

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欧州は、世界の他地域同様に、長引く危機に直面している。強制であるにせよ任意であるにせよ、社会的距離確保の要素は、このパンデミック(感染症大流行)が続く限り付き合っていかざるをえないものだろう。それが依然として続くサプライチェーンの途絶や他の問題と相まって、すでに困難な状況を長引かせている。欧州の実質GDPだが、先月発表したIMF最新予測に基づき、2020年に9.3%縮小した後、2021年に5.7%成長し、2022年になってようやく2019年水準まで回復すると私たちは現在、見込んでいる。新型コロナウイルス感染症の有効な治療法やワクチンが見つかった場合には回復が早まるかもしれない。一方、感染流行の大きな波に新たに見舞われた場合にはその逆になるだろう。

IMF

一部の欧州諸国では、回復への道のりが他の欧州諸国よりも険しいものになると思われる。製品市場や労働市場に硬直性が根深く存在した状態で今般の危機に突入して潜在成長力を発揮できずにいる国もあれば、国境をまたぐサプライチェーンに密接に統合されている諸産業に依存していているがために、そうしたリンクの断絶に対する脆弱性が非常に高くなっている国もある。ユーロ圏の大国のいくつかでは、成長が緩慢であると同時に公的債務が高水準で財政余力が限られており、ショックを緩和する能力が制約されている。当初の状態が著しく異なるため、欧州各国の回復は必然的にとても不揃いなものとなるだろう。

欧州の高債務国は社会的影響を真正面から受けることになる。こうした国の複数において、何十年にもわたり、難しい局面で公的債務負担が徐々に増え、好調時には安定するものの減りはしないという状況が見られている。この階段状に債務が増えていくパターンは、原因が制度的硬直性であれ政治的意思の不足であれ、構造的欠陥への対処が不十分だったことの表れだ。その結果、若年層を中心に失業率が高く、国外移住が多く見られる。また、課税の累進性が低くなる傾向にある。しかし、年金は概ね守られている。新型コロナウイルスによって、高齢者の保護が必要になったが、若者がその負担の大半を背負うことになる。この感染症流行前から困難だった人口動態の状況が一層複雑化している。

変容する欧州のための財政政策

こうした背景の中、政策(特に国レベルの財政政策)を、長期にわたる危機に備えて、再調整し始める必要がある。パンデミックの当初、都市封鎖は人命を救うために極めて重要なツールだった。経済が短いながらも極度の混乱状態を生き延び、その後は素早く立ち直って活動を再開するのを後押しするため、財政政策は急激に緩和された。数か月が経過したが、財政支援は当初と変わらず非常に重要だ。しかし混乱が長引くにつれ、資源は不足してくるだろう。したがって今こそ先を見越して考え、将来の納税者に不当な負担をかけることなく限られた財政余地をどう使うのが最善なのか再評価すべきだ。高債務国では、スランプが長くなればなるほど、企業や家計への支援の対象を慎重に絞り込むことが必要になる。

政策当局者は、危機収束後の経済が2019年時点の経済とは様変わりする可能性も認識しておかなくてはならない。私たちは今、痛みを伴う恒久的な変化の真っただ中にあり、またその変化を必要としていることが明確になってきている。新型コロナウイルスによって、自然に勝るものがまだ存在しないこと、環境破壊を阻止しなければならないこと、強靭性への投資が良策であることを私たちは再認識させられた。また、慎重を期すならば、数年にわたり新型コロナが流行し続け、将来的にも別の感染症が流行しうると考える必要がある。欧州は、環境に配慮した新しい経済、社会的距離確保が長引いたとしても効率的に機能できる経済を目指して努力しなければならない。完全に実現するには何年もかかるかもしれないが、変革は今から育んでいく必要がある。私たちは、単に以前の状態に戻ることなどできないのだ。

変化はすでに進んでおり、勝者と敗者が生まれている。デジタル化は強靭性を守る重要な防波堤であることが明らかになってきているが、同時に分断線にもなっている。欧州全域でも他地域でも、無数の従業員が遠隔勤務に、学生が遠隔学習に、医師や患者が遠隔医療に、企業がオンライン営業や宅配に適応している。その一方で、締め出されている人も無数に存在するのだ。ホスピタリティ産業や旅行業など対人接触の多い活動の多くは、回復に何年もかかる可能性がある。石炭火力発電や炭素を排出する車両など一部の生産活動は、衰退の一途をたどることになるかもしれない。繰り返しになるが、他より大きな打撃を受ける国が出てくると思われ、格差は国内でも国家間でも拡大するだろう。新しい日常がどのようなものになるのか、完全に想像することはまだ不可能かもしれないが、変化はすでに始まっているのだ。

最も脆弱な層を保護しつつ必要とされる資源の再配分を進めるために、公的資金を投じなければならない。労働市場や製品市場では、労働者を雇用主に結び付ける短時間労働制を一時的に維持することも含め、柔軟性を重視すべきだ。企業部門では、支援制度は確固たる事業計画を有する企業による活用を奨励し、破綻に向かっている企業による利用はやめさせるインセンティブを組み込んだものでなくてはならない。流動性ニーズが支払い能力ニーズになるにつれ、国家援助には資本注入を含めることが必要となるかもしれない。欧州の様々な取り組みはすでにその方向で進んでいる。環境にやさしい民間投資の回復に向けた下地を作るには、カーボンプライシングを明確にすることも重要になる。最後の点として、グリーン化、デジタル化、および強靭性の他側面に重点を置きながら、公共投資が取り組みを先導できるし、そうすべきである。

国々の間で状況に大きな差異が生じつつあることを考えれば、欧州連合(EU)共同で財政措置を講じることには確固たる理由がある。回復を支えるには引き続き相当な財政資源が必要になる。EU資金をパンデミックによって最も深刻な打撃を受けた国、財政余力の少ない国、所得水準の低い国、環境被害の大きい国に集中させることにより、「次世代EU」の政策パッケージは単一市場全体の成果を改善するだろう。しかし、そのためには、この政策パッケージが構造改革や慎重な財政政策の代替策としてではなく、改善の促進剤としての役割を果たすことが極めて重要だ。EUの共同支援の規模には根本的な限界があるため、債務負担の持続可能性を保つ責任はあくまでも引き続き国レベルで持つことになる。借入コストが低いとしても、いずれの国も先行して行う刺激策と信頼性のある中期的政策計画とを組み合わせる必要がある。

金融安定性と信用供給の維持

重大危機の最中でもその後でも、非常に緩和的な金融政策を維持する必要がある。危機に関連した需要不足によりインフレ見通しがさらに悪化する中で、中央銀行は相当の刺激策を実施し続け、金融市場が流動性を保てるようにしなければならない。実務上、政策金利を当面、極めて低い水準に保つことをこれは意味する。また、債券スプレッドや債券発行量にそれとなく目を向けた純資産買入によって、低金利政策を支えなければならないだろう。しかしストレスのかかる時期を過ぎたら、振り返りを行うべきだ。物価目標を達成できぬままに何年も経過していることや、金融政策と財政政策を適切に区別するにはどうすれば良いのか、貯蓄が投資を上回るペースで世界的に均衡実質金利が下がっていること、金融手段の選択などについて熟考する必要があるのだ。欧州中央銀行の戦略見直しは依然として極めて重要である。

最後になるが、これからの時期にもうひとつ重要な優先課題となるのは、銀行信用の経済への供給を中断させないことだ。効率的な貯蓄配分が崩れると危機が長引く傾向にあることは、歴史が教えてくれている。今のところ、欧州の銀行の大半は融資の拡大に必要な資本と流動性を有している。しかし、この危機が続くにつれて、さらに多くの債務不履行が発生し、銀行のバッファーや融資能力が損なわれかねない。したがって、この危機のフィードバック・ループとしてひとつ考えられるのは、単に時間かもしれない。パンデミックが長引けば長引くほど、信用の途絶は拡大し、パンデミック収束後の回復が遅れる。監督当局が銀行を来たる試練に備えさせることが不可欠だ。しっかりとした融資基準を維持し、損失のために引当金を十分かつ透明性をもって用意し、不良債権処理を積極的に行って価値を保たなければならない。場合によっては銀行の資本増強が必要となることもあるだろう。

政策ミックスの精度向上

多くの難題が待ち受けていることを考えると、この巨大危機に対処するためには今後、一層精度を高めたアプローチで臨むことが求められる。財政政策や金融政策を一斉に放つことに当初の重点が置かれたのは適切だった。しかし時間の経過とともに、政策当局者はより長期的な問題についてもよく考えなくてはならなくなる。借入コストの低さによりトレードオフが部分的に緩和されているとしても、責任ある政策立案は目下の緊急課題と若年層納税者や新世代の将来負担を秤にかけて検討しなければならない。決意を新たに困難な改革を推し進めていくべきだ。

最も重要な政策目標はひとつではなく、ふたつ存在する。人命を今救うことと、長期的にはグリーンで安全な経済を備えた欧州が出現するようにすることだ。この未来の欧州では、将来世代の公正な繁栄が可能であるべきなのだ。

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ポール・トムセン201411月からIMFの欧州局長を務めている。デンマーク国籍。44か国の国別サーベイランス、欧州中央銀行などEU機関との政策対話、IMFが支援するプログラムのための議論を統括している。また、欧州におけるIMFの広報活動、欧州政府高官との対応も担当している。現職の前には、世界金融危機、そして、その後のユーロ圏危機の影響を受けた欧州諸国に対するIMFプログラムを主に担当した。それ以前には、1987年から2008年にかけて中東欧諸国を担当し続け、同地域について幅広い知見を得た。IMF代表団団長として域内の複数国を担当し、1998年金融危機時にロシア課長を務め、2001年から2004年にはモスクワでロシア駐在代表事務所長の役を担った。

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