新興市場国の新型コロナ対応 伝統的政策とそれを超えて

2020年8月11日

写真:Kham/Reuters/Newscom

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新興市場国の経済は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によって世界金融危機を大きく上回る影響を受けている。しかし、過去の危機とは異なり、新興市場国でも先進国同様に断固たる対応がとられている。とはいえ、伝統的な政策は限界に達しつつあり、また、非伝統的な政策にはリスクがないわけではない。

続く感染拡大

新興市場国では新型コロナウイルスが引き続き猛威を振るうと見られ、人々や経済にリスクをもたらしている(新興市場国のリストについては図参照)。中国やウルグアイ、ベトナムといった国々ではどうにかウイルスを封じ込めているが、ブラジルやインド、南アフリカのような国々は依然として感染増加への対処を強いられている。

新興市場国は複数のショックに見舞われており、経済への影響は一層深刻となっている。国内の感染拡大防止措置の影響に加えて、外需の落ち込みが見られる。特に、旅行の減少により観光依存国が、また、一次産品価格の低下により石油輸出国が大きな影響を受けている。世界貿易と原油価格がそれぞれ10%40%以上落ち込むと予測される中で、新興市場国は苦戦を強いられる可能性が高い。3月に見られた非常に変動が激しい市場環境に比べれば、資本流出は安定化し、ソブリンスプレッドは縮小しているにもかかわらずだ。

6月に公表されたIMFの最新の「世界経済見通し(WEO)改訂見通し」において、新興市場国は今年、3.2%のマイナス成長になると予測されているのは驚きではない。これは、新興市場国にとって、過去最大の落ち込みとなるものである。世界金融危機と比較してみると、新興市場国の成長は当時もかなりの打撃を受けたものの、底を打った2009年でも2.6%のプラス成長を維持していた。

断固たる政策対応

異例の政策支援がなければ、危機は一層深刻化したと考えられる。確かなのは、先進国における断固たる政策行動が市場環境の好転をもたらし、それによって新興市場国では4月から5月にかけて対外資金調達の再開が可能になったということだ。その結果、今年はこれまでに債券発行が過去最高水準となっており、その額は6月末現在で1,240億ドルに達している。しかし、すべての国で状況が改善しているわけではない。燃料輸出国やフロンティア国、高債務国では、より大きな金融ショックに見舞われており、借入コストを押し上げるか、より深刻な場合には市場でのさらなる資金調達が不可能となっている。

先進国による政策支援は、新興市場国の政策担当者に経済的打撃を和らげるための若干の余地をもたらした。過去の危機においては、新興市場国は資本の急激な流出と為替レート下落によるインフレ効果を回避すべく、政策を引き締める傾向があった。ところが現在の危機においては、新興市場国の政策反応は先進国とより一致したものとなっている(IMF政策トラッカーを参照)。新興市場国の多くが、外貨準備バッファーの活用をこれまでよりも抑制し、より大幅な為替レートの調整を許容している。それと同時に、多くの国で市場機能を確保するために必要に応じて流動性が注入されている。ポーランドやインドネシアなどの国々では、信用を下支えすべくマクロプルーデンス政策がさらに緩和されている。

IMF

先進国と同様に、タイやメキシコ、南アフリカをはじめとする多くの新興市場国でも、今回の危機において金融政策が緩和されている。政策金利をさらに引き下げる余地が限られ、また、市場環境が厳しいために、非伝統的な金融政策措置が初めて導入されたケースもいくつかある。そうした措置には、国債・社債の買い入れも含まれるが、主要先進国に比べればその額は今のところまだ小さい。反対に、資本流出を阻止するための資本規制の実施はこれまでのところかなり限定的だ。

財政政策に関しても同様の構図が見て取れる。新興市場国は、保健危機に対処し、人々と企業を支援し、経済ショックを相殺するために、財政スタンスを緩和している。こうした取り組みは、先進国よりは小規模であるものの、世界金融危機時と比べれば顕著に拡大している。

伝統的政策から非伝統的な政策へ

こうした措置にもかかわらず、新興市場国の見通しは不確実性が大きく依然不透明である。数あるリスクのうち、最重要なのは保健危機がさらに長期化する可能性であり、そうなればより多くの人命が損なわれ経済に悲惨な結果をもたらすことになりかねない。景気後退が深刻化する場合、対応には困難を伴うだろう。というのも、多くの新興市場国では、危機発生時点ですでに従来型の財政・金融・対外政策支援の余地が限られていたからだ。しかも、政策余地の大半はこの数か月間に実施された措置によってすでに利用されてしまっている。

政策余地の減少に伴い、一部の国はより非伝統的な政策に頼らざるを得なくなる可能性がある。こうした政策の例としては、価格統制や貿易制限、より非伝統的な金融政策や信用・金融規制の緩和を挙げられる。こうした措置は一部の先進国や低所得国でも実施されているが、中には特に大規模に活用される場合に大きなコストを伴うものがある。例えば、輸出制限は多国間貿易体制を深刻に歪める可能性があり、価格統制は製品がそれを最も必要とする人に届くのを妨げることになりかねない。

その他の非伝統的政策の有効性は、諸制度の信頼性に左右されることになる。例えば、その国に信頼に足る金融政策の実績があるかといった点である。私たちは現在の危機の輪郭をつかもうとしている最中であり、こうした措置のリスクと便益を慎重かつ適切に分析するための時間はほとんどない。

トンネルの出口はまだ先

新興市場国は危機の第一段階を比較的うまく切り抜けたが、次の段階はより多くの困難を伴う可能性がある。ウイルスは依然存在しており、金融環境は脆弱なままで、政策余地は少ない。債務持続可能性に関して高いリスクを抱えている国は特にそうである。そうした国はかなり多い。新興市場国のうち約3分の1が、危機発生時点ですでに債務水準が高く、裁量的財政政策を追加で実施するための余地がないか、あるいはそうした余地が重大なリスクにさらされていると評価されている。

IMF

危機の進展に応じて、流動性の問題が支払能力に関する懸念へと化す高いリスクも存在する。いくつかの新興市場国では、ソブリン債をめぐる緊張に加えて、社債のデフォルトリスクも警戒すべき高水準にある。さらに、危機によって貧しい人がより大きな影響を受けており、格差の拡大が多くの国で政策課題を増幅させることになる。

こうした複雑な課題に応えるには、多面的な政策対応が必要となる。第一に、より持続的で包摂的な成長を実現するように国内政策を策定する必要がある。第二に、市場アクセスが依然として不安定な場合には、二国間・多国間融資機関による支援を拡大することが求められる。IMFでは、これまでに22の新興市場国に対して約720億ドル(520SDR)の資金支援を提供している。最後に、債務が持続不可能であると判明している国については、民間部門を含む債権者の間で広範な負担分担を追求することにより、問題を迅速かつ持続的に解決することが必要となる。第二および第三の政策観点については、本稿に続いて、IMF融資と債務問題解決におけるIMFの役割に関する2つのブログ記事で分析する予定である。

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マーティン・ミューライゼンIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。

トリッグヴィ・グズムンドソンIMF戦略政策審査局のエコノミストで、マクロ経済政策問題を担当している。以前には、IMFロンドン事務所で世界金融市場を担当したほか、欧州局と金融資本市場局にも勤務した。主な研究分野は様々なマクロ金融問題。IMFに勤務する前は、中央銀行やヘッジファンド、投資銀行でポストを歴任。ロンドンスクール・オブ・エコノミクスで博士号を取得。

エレーヌ・ポワルソン・ウォードIMF戦略政策審査局の課長補佐として、財政余地や非伝統的金融政策、波及効果を含むマクロ政策問題に関する業務を統括している。以前には、欧州局でフランスとドイツを担当したほか、アジア太平洋局でインドとマレーシアの担当を務めた。主な研究分野は対外債務と成長、為替制度選択、金融グローバル化、成長と金融波及効果、多様な政策手段による対外ボラティリティ管理。

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