罪悪感、ジェンダー、包摂的な景気回復 日本に学ぶ教訓

2020年9月15日

写真:Joy10000Lightpower/iStock by Getty Images

写真:Joy10000Lightpower/iStock by Getty Images

新型コロナウイルスに伴い、日本では今年4月から1か月半にわたる緊急事態宣言のもと外出自粛が行われたが、女性が男性よりも大きな負担を背負う結果となった。男性と女性の間には「罪悪感の差」が存在し、女性はキャリアを犠牲にしないといけないと感じやすいことが大きな理由となっている。

12月から4月の間に100万人近くの女性が離職したが、その大半が期間限定雇用やパートタイムの非正規社員だった。

保育園や学校の休業などにより大規模な混乱が生じた中で、IMFワーキングペーパーの研究が普遍的な真実を見い出す貢献をしている。女性の方が男性よりも大きな責任を背負い、理想的な親でも、理想的な労働者でもいられないことに強い罪悪感を感じるのだ。

もし労働市場に仕事と家庭の両立を支える態勢が整っていたならば、コロナ禍が続く中で男性も女性も子どもをサポートし、負担を分担できた可能性がある。また、感染症流行が収束した後のニューノーマルにおいて、女性の雇用やキャリアを推進する上でも、ワークライフバランスと男女格差の改善を促進する諸政策が不可欠になるだろう。

包摂的な景気回復に向けた取り組み

ワーキングペーパーの調査結果は、誰もが実感できる包摂的な景気回復を計画する上で、ますますその重要性を増している。雇用のどのような側面がワークライフバランスを改善するのだろうか。こうした雇用の賃金はどれくらいであるべきだろうか。こうした問いに答える上で、より高い賃金を稼ぐか、家庭でより多くの時間を過ごすかという両立困難な問題について男性と女性がどのような妥協を受け入れるか調査を行った。

20-59歳の日本人男女1,000人超を対象として実験を行い、その結果を分析した。この実験では、残業、雇用の安定性、部門異動のリスク、転居を伴う転勤のリスクなどワークライフバランスに影響を与える雇用の性質について異なる水準を設定して被験者の選好を調査した。

第一に、女性は男性よりも「仕事と生活を両立させやすいのであれば給与の相当額を犠牲にしても構わない」という意思を強く持っていることが判明した。

例えば、ある年齢層・給与層の子供のいる女性をモデルケースとした試算では、転居のリスクを避けるために犠牲にしても良い年収は男性よりも3,000ドルほど大きかった。また、同じ層の女性たちが月45時間以上の残業を避けるために失っても良いと考える金額は男性よりも約6,500ドル高いと推計される。一方で、男性のケースでは子どもがいる場合よりも子どもがいない場合に、賃金を犠牲にしてもワークライフバランスの向上を選ぶ意思が強いことが示唆された。

IMF

罪悪感の差

より良いワークライフバランスのために支払う代価に見られる男女差は、女性が男性よりも罪悪感を感じやすいことで部分的に説明できる。仕事のために、学校行事など子ども関係の活動を欠席することだけでなく、料理や親の介護を行えないことについても女性は男性よりも大きな罪悪感を示していた。

こうした罪悪感が選択に影響を及ぼすことになる。全体的に見て、罪悪感の強さとワークライフバランスのために払う代償の間には相関性が見られる。例えば、こうした罪悪感は残業を避けるために収入を犠牲にする意思の強さとなって表れる。我々の試算では、子どもの行事への参加や親の介護ができないことに強い罪悪感を覚える女性は、月45時間以上の残業を避けるためであれば年収のうち12,000ドルを失っても良いと考えている。

政策的な意味合い

この分析は、長時間労働で有名な日本におけるワークライフバランスの政策議論に資する。経済協力開発機構(OECD)による最近の指数を見ると、ワークライフバランスのランキングで日本は40か国中35位に位置している。かつて日本では、大半の女性が結婚後、家族のために退職し、世帯の稼ぎ手は夫だけだった。日本の労働文化には、こうした時代の要素が多くの側面で残っている。多くの場合、日本の労働規範の中で男性は残業を行ったり、会社のニーズに応じて転勤する必要があった。しかし、1990年代以降、高齢化が進み、賃金が伸び悩んだため、女性の労働参加が促進され、政策当局はより柔軟な労働制度を求める声に応えるプレッシャーにさらされることになった。近年では、日本の政策当局は女性の活躍を推進する経済的な重要性を認識し、男女平等を政策上の優先事項とした。しかし、本ワーキングペーパーが明示している諸問題などを背景に、その実現は困難なものになっている。

今回の調査結果には複数の政策的含意が存在する。

第一に、限定正社員という雇用契約をさらに活用するという日本の政策提案の正当性を肯定するように思える。限定正社員の雇用契約では、従来型の終身雇用で働く労働者に見られる残業時間や転勤義務に制限が課される。こうした雇用形態の選択肢が広く活用されることで、非正規の雇用契約で働く人々の生産性が高まり、それに伴ってこうした人々の賃金も向上するだろう。この雇用形態は男女を問わず有益だが、子どもを持つ女性労働者にとって特に魅力的かもしれない。というのも、こうした働く母親たちの大半が相対的に低い賃金で雇用も不安定な非正規雇用に従事しているからだ。

第二に、罪悪感の感じ方に男女差がある点に政策当局が敏感になる必要がある。限定正社員という雇用契約が職場における男女格差をさらに固定化したり、女性にとっての新たなガラスの天井を生み出さないように注意するべきだ。

最後に、異なる雇用形態へと変更できることが重要だ。例えば、労働者が人生の段階に応じて雇用契約を変えられることだ。子どもが小さい間は、限定正社員の雇用契約を選択するが、子どもに手が掛からなくなってから正社員契約を希望する場合などが想定される。

未来のために強靭性を構築する

今般の感染症流行とテレワークの普及によって、日本の「サラリーマン」に対する長年のステレオタイプが揺らいできている。今回の調査研究によって、日本独自の労働文化の中でも、働く男女が仕事と家庭の合理的なバランスを模索しているという証拠が確認できた。適切な政策が講じられれば、現在の危機は、女性の活躍を促進したり、平等推進のためになるワークライフバランスを実現する触媒になりえるかもしれない。より強靭な社会を築きたいのであれば、男女平等は最優先事項であるべきだ。

*****

青柳智恵IMFアフリカ局のエコノミスト。以前にはIMF統計局、また、東京にあるIMFアジア太平洋地域事務所(OAP)でエコノミストとして勤務した。研究の中心テーマはジェンダー平等と構造改革。IMFでの勤務前には、野村アセットマネジメントの証券アナリスト、エコノミストであった。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で国際開発学士号を取得。また、東京の政策研究大学院大学(GRIPS)で経済学の修士号と博士号を取得。

IMFコミュニケーション局
メディア・リレーションズ

プレスオフィサー:

電話:+1 202 623-7100Eメール: MEDIA@IMF.org