気候変動緩和 EUが野心的な目標を達成するには

2020年9月24日

写真:JKITAN/ISTOCK BY GETTY IMAGES

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先週、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、野心的な提案を行った。欧州連合(EU)は、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%削減することを目指す。しかも、これは中間目標にすぎない。EUは、「欧州グリーンディール」で述べられているとおり、2050年までに気候中立(温室効果ガスの正味排出ゼロ)を実現することを最終目標としている。

こうした野心的な目標が掲げられているのは適切だが、これらは現実的で達成可能な目標でもある。気候危機を回避しようとするのであれば、気候変動の緩和は贅沢ではなく、必要不可欠である。気候専門家らは地球温暖化を産業革命前と比べて摂氏1.5度の上昇幅に抑えることができれば比較的安全だろうと考えており、そのためには2050年までに世界中で気候中立を実現する必要がある。EUはその先頭に立っているのだ。

今後の道のり

そのような大幅な排出削減を実行することは容易ではないだろう。それには、欧州経済の大きな構造転換を図り、再生可能エネルギーへの依存を高め、エネルギー効率を向上させることが必要となる。

IMF

IMFの新しい2本のペーパーでは、政策パッケージを入念に設計することによりEUがダイナミックな成長を維持しつつ排出削減目標を達成しうることが示唆されている。そのような政策は、慎重に順序付けを行うことで、新型コロナ関連の不況から景気が回復するのを下支えすることにもなるだろう。

気候に配慮した成長戦略

危機に対処すべく加盟国とEUのレベルで動員されている先例のない公的資金は、持続可能でより強靭な経済を構築するために活用されるべきである。

グリーン技術やデジタル技術への投資を優先することは、短期的にEUにおいて多くの雇用を生む成長を実現することにつながるだろう。回復が確実になれば、炭素価格を徐々に引き上げることによって、大いに必要とされる収入がもたらされるとともに、クリーン技術やエネルギー効率への投資により大きなインセンティブを与えることになる。

成長戦略には以下の要素が含まれる必要がある。

炭素価格の段階的引き上げ。世帯と企業が行動を調整し、費用対効果の高い方法で排出削減を行えるようにするためには、あらゆる排出を対象とし、時間をかけて徐々に上昇する炭素価格が最も効率的なメカニズムとなる。カーボンプライシングは、エネルギー消費を削減する上でも、よりクリーンなエネルギー源への移行を図る上でもインセンティブとなる。

EUの排出量取引制度(ETS)は、排出量の抑制に成功してきた。しかし、現在ETSの対象は発電所や大規模事業所に限定されており、それをあらゆる部門に拡大する必要がある。排出権の最低価格を徐々に引き上げる仕組みを導入することにより、価格シグナルの予見可能性を高めることができる。現在一次産品価格が低下していることも、残存する化石燃料関連の補助金や免税措置を段階的に廃止する良い機会となる。

持続可能な成長の支援に向けたカーボンプライシング収入の活用。収入は、労働税やその他の歪みをもたらす税の軽減(またはその上昇の回避)や、生産的なグリーン投資の刺激、そしてグリーンへの移行によって影響を受ける人々への支援に用いることができるだろう。私たちの研究では、財源を効率的に活用することにより、気候政策の経済的コストを短期的にも非常に低く抑えられることがわかっている。長い目で見れば、汚染減少や大気質の改善、環境破壊の回避の面で経済と健康にもたらされる利益は、あらゆる短期的コストを大きく上回ることになる。端的に言えば、行動を起こさないことの方が行動を起こすことよりもコストがはるかに大きいのである。

グリーン投資と対象を絞った非価格政策の支援。運輸や建築などだが、カーボンプライシングだけでは脱炭素化を早急に図る上で不十分な部門もある。資金調達上の制約や不完全市場、公共財の利用可能性といった特定の障害に対処するには、補完的な政策が必要不可欠となる。例えば、各国政府は電化やよりクリーンなエネルギー生成を支援するために、資本支出を電気自動車充電ステーションや送電網などのネットワークインフラに充てることができる。また、水素発電や新しい二酸化炭素回収・貯留方法といった先端技術革新の促進を支援することも可能だろう。個人や企業にとっての資金調達上の制約は、例えば建築物の省エネ改修を対象とする低利融資などを通じて緩和しうる。他にも、フィーベート(製品の排出率に応じてスライドする税金・払戻金)や基準、規制といった非価格政策が特定領域で重要な役割を果たす。

公正な移行の確保。炭素集約度の高い活動からの移行によって負の影響を最も大きく受ける世帯や労働者を支援する必要がある。グリーン転換の成功には、その公正性と公平性が不可欠だ。支援には、低所得世帯に対する直接給付や、労働者に対する訓練や就職支援も含まれうる。EUが炭素価格の対象となる部門を拡大するのに応じて、排出価格上昇の影響を最も受ける低所得加盟国も支援を必要とするようになるだろう。

国際協調を通じた「炭素リーケージ」の防止。EUは世界の排出量の10%を占めているにすぎず、地球温暖化を単独で食い止めることはできない。世界全体で排出量を削減し、「炭素リーケージ」(炭素価格が低い国への排出集約的な産業の生産移転)を防止するには、主要排出国間で炭素価格の下限に合意することが最善の方法だろう。そうした合意がない場合には、原産国に関係なく同一製品に同一の炭素価格を適用することによってリーケージを防止しうる。

現在の危機からの回復に向けた取り組みは、よりグリーンかつ持続可能で、より公正な経済への移行を加速する機会を提供している。EUはこの機会を積極的に活かしており、私たちはEUが自らの目標を達成し、低炭素経済モデルへの移行がもたらす利益を世界に対して証明することができると確信している。

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ドーラ・イアコヴァIMF欧州局の局長補。現在はスペインと欧州の気候政策を担当。過去には対イギリス、メキシコ、チリ、ノルウェーの訪問団長を務め、西半球局の地域研究課長も経験した。それ以前にはアジアと欧州の先進国と新興市場国をIMFにおいて数多く担当した。

アルフレッド・カマーIMF欧州局長。20208月に就任。IMFの欧州業務を統括している。前職は専務理事室の首席補佐官で、戦略面・業務面から専務理事に助言を行い、役員担当業務の管理を担った。また、戦略政策審査局の副局長として、IMFの戦略とサーベイランス(政策監視)方針を監督した。このほか、中東中央アジア局の副局長として域内の経済動向と金融セクターの諸問題を担当した。さらに技術支援管理室長としても技術支援業務管理について助言を行い、能力開発のための資金調達とグローバルな提携を統括した。そして、副専務理事の補佐官も務めた。また、IMFのロシア駐在代表として勤務した経験もある。IMFでの勤務開始以後、アフリカ、アジア、欧州、中東の国々を担当し、幅広い政策・戦略の課題に取り組んできた。

ジェームズ・ローフIMF財政局の局長補。最近、気候変動政策調整官という新たな役割を担うようになった。この職務において、本分野に特化した専門家のチームを統括し、気候変動に対処する財政政策についての業務アジェンダを急速に拡大させている。IMFでは過去に対ロシア、セルビアの訪問団長を務めたほか、世界金融危機とユーロ圏危機への政策対応、外貨準備の余裕度とソブリン債務再編に向けた方針の策定、ロシア、アルゼンチン、ギリシャのそれぞれで起こった危機、ポーランドとブルガリアへの赴任を経験している。IMFでの勤務前にはイギリス財務省に務めた。

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