地球の気候を守る適切な政策ミックスを見い出す

2020年10月7日

写真:fotoVoyager/iStock by Getty Images

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対策が講じられなければ、気候変動は必然的に人間にも経済にも破滅的な打撃を与える可能性があるが、針路の変更は今からでも遅くはない。

地球の気温は、産業革命前の時代から現在までの間に約1℃上昇している。熱を閉じ込める温室効果ガスが大気中に蓄積しているためだ。これらのガスの排出を抑えるために強力な措置を講じなければ、地球の気温は今世紀末までにさらに2℃から5℃上昇しかねない。気温を科学者たちが安全と見なす水準に保つには、正味の炭素排出量を今世紀半ばまでに全世界で実質ゼロにする必要がある。

最新の「世界経済見通しWEO)」でIMFは、世界が新型コロナ危機からの復興を模索する中にあっても、経済政策ツールによって2050年までに排出量実質ゼロに向けた道筋をつけることができると述べている。IMFは、経済成長や雇用や所得の平等を下支えするようなかたちでそうした政策を推し進めていくことが可能だと示している。

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気候変動緩和のコストは許容可能

経済政策は、主に2つの方向から気候変動への対処に役立ちうる。エネルギー源には高排出量と低排出量のものがあるが、その構成比に影響を及ぼすという方向と、総エネルギー消費量に影響を与えるという方向だ。種々の政策の費用と効果は、それらの政策がこの異なる方向をどう利用するかによって決まる。 

例えば、炭素税によって炭素排出量の多い燃料がより高価になることから、炭素税はエネルギー消費者がより環境に配慮した燃料へと消費を移行させるインセンティブとなる。全体としてエネルギーがより高価になるため、総エネルギー消費量も減る。 

これに対して、グリーンエネルギーに対する助成金や直接公共投資など、環境に配慮したエネルギーの低価格化と充実化を目指す政策は、炭素排出量の少ないエネルギーの構成比を増加させる。しかしながらグリーンエネルギー助成金は全体としてエネルギーをより安価にするため、総エネルギー需要を刺激し続けるか、少なくともこれにより需要が削減されることはない。 

IMFの最新分析もこの直感と一致するもので、炭素税を消費者のエネルギー費用への影響を緩和する政策と組み合わせれば、経済成長や雇用に大幅な悪影響を及ぼすことなく迅速に排出量削減を実現しうることを示唆している。各国は、まず最初に環境に配慮した投資を刺激する政策を選択すべきだ。クリーンな公共交通や、再生可能エネルギーを発電に取り入れるスマートな送電網や、エネルギー効率を高めるための建物改修などへの投資である。そうしたグリーンインフラの推進により2つの目標が達成されうる。

1に、グリーンインフラはコロナ渦からの回復期の当初数年間、世界のGDPと雇用を押し上げるだろう。2に、グリーンインフラは低炭素部門の生産性を上昇させることから、民間部門のグリーンインフラ投資が促され、炭素価格上昇に適応しやすくなるだろう。IMFのモデルベース分析は、気候変動緩和のための包括的な政策戦略が、復興期の当初15年間に世界GDPを平均で約0.7%増加させ、そのおよそ半分の期間に増加させる雇用は全世界で新たに約1,200万人の就職につながる可能性を示唆している。こうした復興が確実化するにつれて事前通知した炭素価格の段階的引き上げを行えば、これは必要な炭素排出量削減を達成するための強力なツールとなる。

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実施されればそうした政策プログラムは炭素排出量を削減して気候変動を抑制し、世界経済を持続可能な軌道に乗せることになるはずだ。その実質的効果は、予想される気候変動によるGDP損失をほぼ半減させ、2050年以降は現状路線が続いた場合をはるかに上回る長期的な実質GDP成長をもたらすだろう。

移行のコスト

長期的利益をもたらし、当初の経済活動推進効果もあるものの、そうした政策では移行に伴うコストも生じる。こうした気候変動緩和戦略は、2037年から2050年に世界GDPを毎年平均で約0.7%押し下げ、2050年には、現状を変えない政策を取った場合に比べて1.1%下げることになるだろう。しかし世界のGDPが現在から2050年の間に120%成長すると予測されていることを考えれば、このコストは許容可能と思われる。この成長の足かせは、気候変動政策で例えば研究開発助成金などによってクリーンテクノロジー分野の技術開発へのインセンティブを提供すればさらに減らせる。また、環境汚染が減ることによる健康状態の向上や、交通渋滞の減少など重要な恩恵を考慮すれば、当該期間にこうした政策パッケージが経済成長に与える影響は中立となるだろう。

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政策パッケージに伴う移行期の経済成長面のコストは、国によって大きなばらつきがある。一部の先進国では経済的コストは相対的に少ないか、移行期間中ずっと成長にプラス効果が出続けることすらあるかもしれない。より早くから再生可能エネルギーに投資してきていることを考えれば、これらの国々はより簡単にその使用を増やして多額の適応コストを回避できる。経済が急成長または人口が急増している国々(特にインド)や、大半の石油産出国では、石炭や石油などの安価なエネルギー源を手放すことになるため、経済的コストは相対的に大きくなると予想される。しかし、ほとんどの国ではこうした経済成長面のコストは大きくならないと思われ、化石燃料の使用削減によって回避される気候変動のダメージや得られる健康面の恩恵に照らして検討される必要がある。

負担の軽減

カーボンプライシングによって打撃を受ける可能性が高いのは低所得世帯だ。エネルギーに支出する所得の割合が比較的大きく、炭素排出量の多い製造業や運輸業で雇用されている可能性が高いからである。各国政府は、様々な政策を用いて炭素価格の上昇が家計に及ぼす悪影響を抑えることができる。

1に、カーボンプライシングによる収入の全部または一部を現金給付によって割り戻すことが可能だ。例えば、IMFの研究で明らかになったところでは、所得分布で下位40%の世帯の消費を完全に守るためには、米国政府はカーボンプライシングから得る総収入の55%を給付する必要があるが、中国政府が給付する必要があるのは40%となる。

2に、例えばクリーンな公共インフラなどへの公共投資を増やせば、比較的労働集約型である場合が多い低炭素部門で新たな雇用を創出して高炭素部門の雇用喪失を相殺できる可能性がある。労働者の再教育も雇用を円滑に低炭素部門へ移行させるのに役立つだろう。

各国政府は、経済成長に配慮した公正な移行を確実に実現するために迅速に行動しなければならない。

本稿は「世界経済見通し(WEO)」第3章「Mitigating Climate Change – Growth and Distribution-Friendly Strategies(気候変動を緩和する 経済成長や所得分布に配慮した戦略)」に基づいている。この章はフィリップ・バレット、クリスティアン・ボグマンス、ベンジャマン・カルトン、オィエ・チェラスン、ヨハネス・オイグスター、フロランス・ジョーモット、アディル・モハマド、イヴジニア・プーガチーヴァ、マリナ・タバレス、ジモン・ヴォーグツが担当した。

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