未曽有の危機に立ち向かう財政政策

2020年10月13日

写真:Anson/iStock by Getty Images

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新型コロナ危機は人命、雇用、ビジネスに大打撃を与えている。各国政府はその打撃を緩和するために強力な措置を講じており、その世界総額は12兆ドルという驚異的な数字となっている。こうしたライフラインが人命や生活を救っている。だがそのコストは高くつき、景気後退による税収激減と相まって、世界の公的債務を対GDP100%近くという史上最大規模に膨れ上がらせている。

多くの労働者が未だ失業中で、小規模事業者が苦戦し、今般のパンデミックを受けて2020年には8,000万人から9,000万人が、追加的な社会扶助を提供されてもなお、絶対的貧困に陥るという状況にあっては、各国政府が例外的支援を止めるのは時期尚早だ。とはいえ予算の制約がますます厳しくなっていることを考えると、多くの国はより限られたリソースでより多くを成し遂げる必要に迫られることになる。

202010月の「財政モニター」では、各国が今般の危機対応にあたった経験を分析して、人命を救い、景気後退の影響を軽減し、成長や雇用創出を復活させるためにパンデミックの諸段階で政府に何ができるのかを考察している。

ロックダウン段階の政策

新型コロナ危機の当初から、各国政府はその影響を抑えるべくあらゆる手を尽くすことに注力してきた。危機が始まって以降に提供されてきた大規模な財政支援が、人々の保護や雇用の維持に成果を出している。

大規模な検査や追跡や広報キャンペーンなどの公衆衛生上の諸措置がウイルス感染拡大を抑制したことが景況感回復の一助となり、安全な事業再開のための環境を醸成している。

欧州諸国の大半で見られるような失業給付や賃金助成金が、雇用や生活水準の維持に役立っている。現金給付は、貧困層や非公式経済の労働者や失業した個人事業主の支援に特に有用となっている。企業に対する流動性支援によって債務不履行の急増や大量解雇の発生が阻止された。これは、雇用の大部分を占める中小企業にとって特に重要なことだ。

世界的には今般の危機に対する財政対応が空前の規模となっているが、国ごとの対応は、借入ができるかどうかや、コロナ禍に突入した時点でどれだけの公的・民間債務を抱えていたかによって決まっている。

IMF

先進国や一部の新興市場国では、中央銀行による国債購入が金利を歴史的低水準に保つのに役立ち、政府借入を下支えしている。これらの国では、危機に対する財政対応は大規模になっている。

しかし高債務の新興市場国や低所得国の多くでは、政府が借入を増やす余地が限られていたため、危機の影響が最も大きかった層への支援を拡大する能力が妨げられている。こうした政府は厳しい選択を迫られる。

IMF

復興に向けた財政ロードマップ

経済が暫定的に再開されているとはいえパンデミックの今後の成り行きに不確実性が残る中、各国政府は財政支援があまりにも拙速に終わることがないようにすべきだ。しかし財政支援は対象をより厳選すべきであり、活動が再開する中で、必要な部門間の再配分にとって障害になることは回避すべきだ。旧来の雇用の維持から再就職へと支援を徐々にシフトさせていかなければならない。例えば、賃金助成金による雇用維持制度は削減し、求職要件や新技能訓練を再導入することだ。また、存続可能性はあるものの依然として脆弱な企業が安全に再開できるよう支えていくべきでもある。金利が低く失業率が高いことを考えると、保全管理や既存プロジェクトの規模拡大を手始めに公共投資を増やすことで雇用を創出し経済成長に拍車をかけうる。

資金面で厳しい制約を抱える新興市場国や低所得国は、支出の優先順位見直しと効率改善によって、より限られたリソースでより多くを成し遂げる必要がある。国によっては公的な資金支援や債務救済が必要となるかもしれない。

また各国政府は、税務コンプライアンス向上のための施策を導入すべきであり、より富裕な層や高利益企業に対しては増税も検討すべきだ。それにより得られた税収は、社会の中でもより貧しい層が不釣り合いに大きな打撃を受ける危機に際して、衛生や社会的セーフティネットなどの重要サービスの費用を賄うのに役立つはずである。

パンデミックが制御されたあかつきには、各国政府は復興を促しつつ、多額の財政赤字や高水準の公的債務など危機がもたらす負の遺産と向き合わなければならない。

  • 財政余地はあるもののコロナ渦により大量の長期失業といった深刻な痛手を負った国の場合は、一時的な財政刺激策を講じつつ中期的には調整を計画していくべきである。
  • 債務水準が高く融資を利用しにくい国の場合も中期的には調整を図り、公共投資や低所得世帯への給付を守るよう努力していく必要がある。

パンデミック収束後のリセット

将来的には、各国は医療制度と教育への投資を優先課題としていく必要があるだろう。また社会的セーフティネットも強化して、すべての人が食料などの基本的な物資やサービスにアクセスできるよう万全を期していくべきだ。

経済が回復するにつれて、各国政府はこの機を逃さず危機以前の成長モデルと決別し、低炭素のデジタルエコノミーへの移行を加速させるべきである。カーボンプライシングがこの移行の鍵となるだろう。人々がエネルギー消費を削減し、よりクリーンな代替エネルギーへと移行することを奨励するからだ。さらにカーボンプライシングは、その一部を最も弱い立場の人々への支援に使える税収も生み出す。

各国政府が公共投資やその他の財政措置を強化して復興を促進していくにつれて、その政策の選択は長期的な影響をもたらすことになる。各国政府は、より包摂的で強靭な経済の形成や、成長や雇用も増やすグリーン政策を通じた地球温暖化抑制を、断固として推進していくべきだ。

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ヴィトール・ガスパールは、ポルトガル国籍でIMF財政局長。IMFで勤務する前には、ポルトガル銀行で特別顧問など政策関連の要職を歴任。20112013年にはポルトガル政府の財務大臣。20072010年に欧州委員会の欧州政策顧問局長、19982004年に欧州中央銀行の調査局長を務めた。ノーバ・デ・リスボン大学で経済学博士号とポスト・ドクター学位を取得。また、ポルトガル・カトリカ大学でも学んだ。

パウロ・メダスIMF財政局課長補佐。現職以前はIMFの欧州局、西半球局で様々な職務を担った。20082011年にはIMFのブラジル駐在代表を務めた。また、これまでに訪問団代表として複数の国々を訪問している。研究関心分野はガバナンスと腐敗、財政危機、天然資源管理。近年刊行された『Brazil: Boom, Bust, and the Road to Recovery』の共著者の1人であった。

ジョン・ラリエは、IMF財政局のシニアエコノミスト。以前には欧州局で勤務しルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン担当チームに参加したほか、財務局にも務めた。国有企業、公的年金、財政規則など、財政リスクに関する研究を行ってきた。IMF以前は米国財務省で勤務。ジョン・ホプキンス大学高等国際研究大学院で修士号を取得。公認会計士としての勤務経験も持つ。

エリフ・ツレはトルコ出身で、IMF財政局のエコノミスト。ユーロ圏担当チームの一員として欧州の財政問題に携わり、「財政モニター」の作成に参加している。同局では、欧州における偶発負債に起因する財政リスク、財政規則、財政連邦主義、財政ガバナンスを研究。以前は西半球局で、コーノ・スールの堅固かつ包摂的な成長の維持に関する政策や分析を担当。主な研究分野は金融セクターの不完全性とマクロ金融リンケージなど。メリーランド大学カレッジパーク校で経済学博士号を取得。

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