クロスボーダー決済の大きな前進

2020年10月20日

写真:metamorworks iStock by Getty

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コーヒーを買う時、私たちはスマートフォンの画面をスワイプしたりタップしたり、あるいは画面上に手をかざしたりする。間もなく、まばたきでもコーヒーが買えるようになるかもしれない。いずれにしろ、代金の支払いは素早く簡単に行えるのだ。しかし、輸入品の代金を支払ったり国外送金を行ったりする時には、フォームに記入し、何日も待つことが多く、高い手数料もかかる。

クロスボーダー決済の改善はなかなか進んでこなかったが、ここへ来て一気に飛躍しようとしている。歴史の進展とはそういうものだ。小さな一歩の積み重ねが、ある時に突然躍進につながる。新しいテクノロジーの登場と、政策担当者が決意を新たにしていることとが合わさって、大幅な進歩が可能となっている。他方で、世帯や企業はより良いサービスを期待し、またそれを必要とするようになっている。

これは大きな賭けだ。クロスボーダー決済に関する変更は、国際通貨制度の安定性や金融包摂、貿易・金融市場の効率性に影響を与える。同時に、改革が行われれば、イノベーションや、とりわけコロナ禍の後で大きく必要とされる成長を促す可能性がある。ただし、世界がともに取り組んで初めて、飛躍は可能となる。

そして実際に、世界は異例とも言える形で協力を進めてきた。金融安定理事会(FSB)が国際通貨基金(IMF)を含む広範な機関とともにクロスボーダー決済を決定的に強化するためのロードマップを主導しており、このほどG20によってそれが承認された。これは、報告書を新たに追加するものではなく、個別の機関が実施責任を負うことになる具体的な改革や実践的なステップ、中間目標を示すものである。それと同時に、IMFは今般、国境を越えて利用可能な新しい形態のデジタル通貨がマクロ経済と金融に与える影響を扱ったスタッフペーパーを公表した。こうした文書は、行く手に控える課題に留意した上で、今後の道筋を明確に示している。改革が実施された場合、クロスボーダー決済のコストが下がり、スピードが上がり、透明性が高まり、利用できる範囲が広がることとなり、大きな変化がもたらされる可能性がある。

次のステップ

ここまで到達できたのは国際協調があったからだが、G20ロードマップを実行に移し、さらにその先を行くことも考えるのであれば、国際協調がますます重要となるだろう。具体的には、クロスボーダー決済の改善が効果的かつ持続可能で、安全で、公平なものとなるように、4つの広い分野で協力が必要となる。

第一に、クロスボーダー決済のソリューションはすべての国を念頭に置いて設計・追求しなければならない。実施能力や既存インフラ、金融セクターの発展度に関して、各国間には大きな差がある。また、国が異なれば利用者も異なる。その中には、流動性の低い市場で事業を行う大企業もあれば、コスト意識の強い中小企業もある。そして、10億人の人々が国外送金のやりとりをしている(その平均コストは7%で、依然として国連の持続可能な開発目標で定められた目標値の倍となっている)。

こうしたニーズの多様性に鑑みて、G20ロードマップは適度な柔軟性を有している。一部のソリューションには、金融包摂に不可欠な信頼に足るデジタルIDの整備といった既存システムの改善が含まれる。また、まだ予備検討段階のもので、今日電子メールを送るように国境を越えてデジタル通貨を自由にやりとりできるような世界を考慮に入れるソリューションもある。こうしたあらゆるソリューションを先入観なく追求し、議論し、テストし、そして場合によっては切り捨てることが非常に重要である。

第二に、各国の現状維持バイアスを克服し、ソリューションが広く適用されるようにするために、協力が不可欠である。簡単な例として、各国の決済システムの稼働時間が挙げられる。稼働時間を二国間で重なるように延長して初めて、クロスボーダー取引の即時決済が可能となるのだ。いずれの国も単独行動は望まないだろう。そうだとしても、双方の国のシステム間で対話を行う必要がある。しかし、相互運用性は当たり前のものではない。それには、技術や設計、法規制に関する基本的な基準が必要となる。協力することによって、そうした基準が広範なコミュニティのニーズを満たすものとなり、IMFはそのようなコミュニティをまとめる一助となりうる。

第三に、中央銀行や規制当局、財務省、独占禁止機関、データ保護機関、国際機関といった関連主体すべての経験や視点を参考にしたソリューションを構築することがきわめて重要だ。金融安定理事会の報告書はこの点で模範となるものであった。さらに、公的部門と民間部門も互いの強みを認めつつ協力しなければならない。民間企業はイノベーションや利用者とのやりとりを得意とし、公的部門は規制や監督、そして最終的にはシステムへの信頼性の付与を強みとしている。可能な場合には、官民共同のソリューションを模索する必要がある。

最後に、ある国の政策が他の国に与えうるマクロ金融的な影響を認識することも協力の一部だ。例えば、主要な準備通貨で発行される新しい形態のデジタル通貨は、国内の決済とクロスボーダー決済の両方を改善する可能性がある。しかしそうしたデジタル通貨は、外国、特にインフレ率が高く為替レートの変動が大きい国の住民に対して、自国通貨を放棄する気を起こさせることにもなりかねない。また、デジタル通貨はこうした国で銀行の取り付け騒ぎを潜在的に助長する可能性もある。他方、発行国では資本流入と中央銀行のバランスシートの変動が大きくなりかねない。さらに、多くの国が採用している資本勘定規制について、デジタル通貨によってそれが迂回されないように再設計が可能かどうかも不明である。最後に、デジタル通貨の利用によって金融の健全性に重大なリスクが生じる可能性もある。私たちの最新のペーパーでは、こうしたシナリオ等に詳しく触れている。

グローバルなつながり

金融政策や金融安定性、資本フロー、外貨準備といったすべてがクロスボーダー決済の変化から影響を被る可能性があり、国際通貨制度にも含意がある。IMFの創設国はこうしたつながりを理解していた。そのことは、IMF協定に掲げられている「多国間決済システム確立の支援」というビジョンにある程度表れている。

今日、IMFはこの分野で引き続き積極的な役割を果たしており、他の国際機関と協力して取り組んでいる。IMFには全世界の国々がほぼすべて加盟しており、デジタル革命がどの国の人々にとっても利益となるように貢献しうる。そして、IMFの世界的な視点は、波及効果を把握し、政策上の根本的なジレンマに対処するための共通のフォーラムを提供する一助となる。この前途有望な道を皆でともに進みたい。

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クリスタリナ・ゲオルギエバ

トビアス・エイドリアンIMF金融顧問兼金融資本市場局長。IMFの金融部門サーベイランスや金融政策・マクロプルーデンス政策、金融規制、債務管理、資本市場に関する業務を統括。また、加盟国で実施するIMFの能力開発活動も統括。ニューヨーク連銀上級副総裁と調査統計グループ副グループ長を経て現職。プリンストン大学およびニューヨーク大学で教鞭をとった経験があるほか、「American Economic Review」「Journal of Finance」「Journal of Financial Economics」「Review of Financial Studies」等学術誌への掲載多数。マサチューセッツ工科大学博士、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、フランクフルト大学ディプロマ、パリ・ドフィーヌ大学修士。バート・ホンブルクのフンボルト高校卒業(文学・数学専攻)。

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