世界金融の「氷河」 中央銀行の外貨準備通貨構成

2020年12月16日

写真:GomezDavid/iStock by Getty Images

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過去数十年間、世界各国の中央銀行が保有する外貨準備においては各通貨が概ね一定で推移してきた。こうした外貨準備の通貨構成比が変化するスピードはひいき目に見ても氷河の動きのようだ。しかし、地政学的な変化と技術革新によって、世界経済のあり様と通貨の国際的な利用状況が変わりつつある。こうした力学と新型コロナ危機の影響に伴って、中央銀行の外貨準備に起こる変化がさらに加速しうる。

現状

世界には各国が発行する約180の通貨が存在するが、貿易建値(インボイス)通貨としての利用や、輸入品の支払い、債務発行や国外投資といった国際的な取引での活用において幅広く普及しているのはごく少数だ。こうした国際通貨の代表例が米ドルとユーロで、日本円や英国ポンドなどいくつかの通貨がこれに次ぐ。危機が勃発すると多くの場合、企業や投資家がドルに安全を求める。

長年にわたり、世界各国の中央銀行の外貨準備高はこれらと同じ通貨で構成されてきた。中央銀行による外貨保有の意図が先ほど説明した国際取引を支えることである点を踏まえると、こうした通貨で外貨準備が構成されていることは驚きではない。各国政府当局は、こうした通貨を保有することで、国際収支上のニーズに対応する資金源にしたり、為替介入を行ったり、国内機関に外貨を供給したりできる。

  

外貨準備の通貨構成比の遅い変化

新しいデータセットに基づいて、新しいIMFのスタッフペーパーはここ数十年の外貨準備における通貨内訳と変化要因について、また、こうした要因がどう変わったか分析を行っている。

この分析から明らかになった重要点のひとつは、米ドル(と部分的にはユーロ)が世界的に圧倒的な地位を誇っているために、中央銀行が保有する外貨に起こった変化はどれもごく小さかったことだ。

例えば、世界経済における中国の役割がますます大きくなっているにもかかわらず、外貨建ての債務発行や国際的な為替市場といった国際取引での人民元の活用度はわずかしか高まっていない。

また、同ペーパーは金融のつながりが中央銀行保有の外貨に影響を与える主な要因のようであり、その影響が過去10年にさらに強まってきているように見えることを発見している。こうした点を踏まえると、世界の金融や貿易においてドルが圧倒的な地位を持ち続ける限り、外貨準備通貨としてもドルが他通貨を凌駕し続けるだろうと推測できる。

しかし、動きの鈍い氷河が思いがけず突然に押し寄せることが時折あるように、外貨準備の通貨構成にも予想外かつ突然の変化がさらに急ピッチで生じる可能性がある。

外貨準備通貨の未来

私たちのペーパーからは、いくつかの経済・金融のトレンドが将来的に外貨準備の通貨別構成比に影響を与えうることが読み取れる。地政学的な動向や技術の発展が経済的な考慮と同じくらい重要だと判明することになるかもしれない。その結果、今般の新型コロナ危機とあいまって、将来の変化が加速する可能性もある。次に挙げる要因が変化を引き起こしうる。

  • 国際金融における変化。10月に行われた欧州委員会の大規模な債券発行に対する力強い反応は、ドル建て債務に代わるものに潜在的な需要があることを明示している。新興市場国・発展途上国もまた、増大した資金需要を満たす一助とするために、中国のような新興市場国の債権国通貨で発行する債務を増やせる。私たちのペーパーは、新興市場国・発展途上国の外貨準備の決定要因として、どの通貨建てで公的債務が発行されるかが特に重要である点を突き止めている。これは、債務返済義務に伴うリスクを回避・軽減しようとする中央銀行の意図を反映している可能性が高い。
  • 貿易のつながりと貿易建値の慣行が変わることで、国際通貨への需要も変化するかもしれない。パンデミックと近年の貿易摩擦によって、グローバルなサプライチェーンの脆弱さが明るみに出た。現在、不可欠な供給を確実化することへの各国の関心がかつてないほど高まっている。同じ域内での製造に移行することで国際通貨への需要が減少するだろう。一方で、単一の貿易相手国に対する依存を減らすことで通貨需要も多様化するかもしれない。つい先日、アジアにおいて地域包括的経済連携(RCEP)協定(域内15か国間の自由貿易協定)が締結されたが、これは現在、外貨準備に占める割合が小さい代替的な諸通貨がさらに大きな役割を果たしていくことを示唆しているかもしれない。
  • 債務発行国の通貨にとって、寄せられる信頼に欠かせない土台となるのがその国の政策の信頼性である。新型コロナウイルスの世界的な流行によって、現在・未来の債務発行国が成長力を保持する上で健全な医療政策と経済政策を採択することの必要性が浮き彫りになった。
  • 諸通貨の国際的な利用状況は戦略的な考慮点も反映しているかもしれない。例えば、外交政策上の考慮事項や安全保障上の協力関係が影響するかたちで外貨準備の通貨別内訳が決定されるかもしれない。貿易摩擦や国際的な制裁からの影響に鑑みて、各国が外貨準備における変更を考慮したり、潜在的な発行国が通貨の国際化を図ったりするかもしれない。
  • パンデミックによって、金融や決済における技術進歩が加速した。フェイスブック社のブロックチェーンに基づく決済システム「ディエム」など民間の発行者との潜在的な競争に伴って、主要中央銀行は中央銀行デジタル通貨やクロスボーダー決済における業務を加速させている。欧州中央銀行や中国人民銀行などは中央銀行デジタル通貨の発行を検討しているが、その発行によってこれら通貨の需要が高まる可能性がある。

より優れた技術プラットフォームは、新しい通貨が現行通貨の優位性を克服する上で一助となるかもしれない。公的・民間のデジタルマネーの採用と利用に応じて、中央銀行は外貨準備とは何か、どのように外貨準備を維持するか再検討を行う必要が出てくるかもしれない。

現在、中央銀行が保有する外貨準備の構成比に大きな変化が起こる兆候はまったく見られない。しかし、過去数十年の氷河のように緩慢な変化が未来の姿を示していると考えるべきではない。世界の経済・金融の潮流を取り囲む不確実性は大きく、また地政学的な動向や技術の発展もある。したがって、将来により大きな変化が生じる余地が存在するのだ。

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マーティン・ミューライゼンIMF戦略政策審査局の前局長。同職在職時には、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導した。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括した。

アリナ・イアンクIMF戦略政策審査局の副室長で、IMFの戦略やG20IMFCとの関係性、国際通貨制度に関する業務の統括を補佐している。国際通貨制度や国際金融のセーフティネット、マクロ金融の諸問題に重点を置いて分析・オペレーション面での業務を行っている。IMFでの勤務前には、フランクリン・テンプルトン・インベストメンツにリサーチアナリストとして、また、ドレクセル大学に准教授として勤めた。ミシガン州立大学で経済学博士号を取得。

ニール・ミードIMF戦略政策審査局のシニアエコノミストで、局長補佐を務めているほか、ルーマニア担当チームの一員でもある。以前には、SDRを含め国際通貨制度の戦略的課題についての業務に取り組んだ。また、IMFのルワンダ業務を補佐した。キャリアの出発点はイングランド銀行で、金融政策業務に従事した。過去の研究は、住宅、消費のほか、金融政策の意思決定に焦点をあてている。ヨーク大学で経済学修士号を取得。

吴一群(イークン・ウー)はIMF戦略政策審査局のエコノミストで、IMFの資金とガバナンス、国際通貨制度における戦略的な課題に取り組んでいる。過去にはアジア太平洋とアフリカの様々な新興市場国・低所得国について経済サーベイランスと融資プログラムなどを担当した。また、アジア太平洋の地域課題についても業務を行った。ニューヨーク州立大学バッファロー校で経済学博士号を取得。国際マクロ経済学、貿易、成長における幅広い問題について研究を行い、論文を発表してきた。

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