デジタル時代における公的貨幣と私的貨幣の共存可能性

2021年2月19日

写真:Sefa Ozel by Getty Images

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私たちはイノベーションや多様性を重視しているが、それは貨幣についても同じである。一日のうちに、私たちはカードをスワイプしたり、携帯電話をかざしたり、マウスをクリックしたりして支払いを行う可能性がある。あるいは、多くの国で段々と見られなくなりつつあるものの、紙幣や硬貨を手渡すこともあるかもしれない。

今日の世界は、二重の貨幣システムを特徴としている。それは、中央銀行が公的に発行する貨幣と、それを土台として各種銀行や通信企業、専門の決済プロバイダーが私的に発行する貨幣から成る。このシステムは完全ではないものの、大きな利点があり、それには主に民間部門が担い手となるイノベーションや製品の多様性と、公的部門によって担保される安定性や効率性が含まれる。

一方ではイノベーションと多様性を、他方では安定性と効率性を追求しているわけだが、両者の間には関連性がある。一方を重視すれば、もう片方が疎かにならざるをえないのだ。各国、特に中央銀行が舵取りをすべきトレードオフが存在する。民間部門にどのくらい頼れるのか、あるいはどのくらい自らイノベーションを行うべきなのか。これは、選好や利用可能なテクノロジー、そして規制の効率性によって左右される部分が大きい。

したがって、新しいテクノロジーが出現する際に、今日の二重貨幣システムがどのような変化を遂げるか問うのが自然だ。中央銀行デジタル通貨と呼ばれるデジタル化された現金が登場した場合、それは民間が発行する貨幣にとって代わるのだろうか。それとも、私的貨幣の隆盛をもたらすことになるのだろうか。前者は、規制を厳格化することを通じて、常に可能である。私たちは、今日の二重貨幣システムの論理を拡張することによって、後者の可能性も依然存在すると主張している。重要なのは、中央銀行が中央銀行デジタル通貨を発行するか、あるいは民間部門に自らのデジタル通貨を発行するよう促すかという二者択一を迫られるべきではないということだ。このふたつの点は、例えば中央銀行が設計に関して一定の選択を行い、規制枠組みを更新する限りにおいて、同時に実現することが可能であり、相互に補完しうるものである。

公と私の共存

公的に発行される貨幣と民間が発行する貨幣が歴史を通して共存してきたと考えることは腑に落ちないかもしれない。より革新的で、便利で、使い勝手がよく、融通の利く私的貨幣が公的貨幣に完全にとって代わることがなかったのはなぜだろうか。

その答えは、根本にある共生関係に見て取れる。すなわち、私的貨幣はそれが紙幣であれ硬貨であれ、あるいは一部の銀行が保有する中央銀行準備金であれ、完全に安全で流動的な公的貨幣に変換する選択肢があるのだ。

固定額面価格で中央銀行通貨との引き換えが可能な私的貨幣は、安定的な価値保蔵手段となる。銀行口座に預けられている10ドルは、債務を返済するために法定通貨として受け入れられている10ドル札に交換することができる。この例は明白に見えるかもしれないが、実は複雑な仕組みによって支えられている。健全な規制・監督、預金保険や最後の貸し手といった政府の支援、そして中央銀行準備金による部分的または完全な後ろ盾である。

それだけでなく、民間が発行する貨幣は、それが中央銀行通貨と交換可能な限りにおいて、効率的な支払い手段にもなる。アンがA銀行に預けている10ドルは、ボブのB銀行の口座に送金することが可能だ。なぜなら、その途中で、両方の銀行が信頼・保有・交換できる中央銀行通貨にこの10ドルが変換されるからだ。その結果、この民間が発行する貨幣は相互運用可能なものとなる。それに伴って、競争が促進される。というのも、アンとボブが別の銀行で貨幣を保有していても互いに支払いを行えるからだ。そして、実際の貨幣の形態について、イノベーションと多様化が進むことになる。

つまり、中央銀行通貨への変換という選択肢は、銀行口座にしろ、それ以外にしろ、民間が発行する貨幣の安定性や相互運用性、イノベーション、多様性にとって極めて重要なのだ。民間貨幣のみのシステムでは、リスクが過大になると考えられる。他方、中央銀行通貨だけから成るシステムでは、重要なイノベーションの機会が失われかねない。これらふたつの形態の貨幣は、それぞれが他方に立脚しつつ今日の二重貨幣システムを形成している。このバランスが私たちに大きく役立ってきた。

デジタル時代にプレッシャーに直面することになる中央銀行通貨

では、デジタル時代を本格的に迎えようとしている中で、近い将来このシステムはどのようなものになるだろうか。中央銀行が発行するデジタル通貨が魅力的なものとなり、民間が発行する貨幣を霞ませることになるだろうか。それとも、民間部門のイノベーションは可能であり続けるだろうか。それは、各中央銀行のイノベーションを一貫して大きく進める能力と意欲に大きく左右される。技術革新や急速に進化するユーザーのニーズ、そして民間部門のイノベーションについていくのは簡単なことではない。

中央銀行デジタル通貨は、スマートフォンにも、そのオペレーティングシステム(OS)にも近いところがある。基本の部分では、中央銀行デジタル通貨は貨幣の貯蔵と移転を可能にする決済技術であり、携帯電話のプロセッサやメモリ、カメラの間でやりとりされるビット情報によく似ている。別の次元では、中央銀行デジタル通貨は貨幣の一形態であり、特定の機能と外見を有していて、OSに非常に近い。

したがって、中央銀行デジタル通貨がテクノロジーの最前線に位置し続け、有力かつ好まれるデジタルマネーとしてユーザーの財布に入れておかれるようになるために、中央銀行はむしろアップルやマイクロソフトのようになる必要があるだろう。

デジタル時代におけるイノベーションは、紙幣の偽造防止対策を更新するよりも桁違いに複雑で急速である。例えば、中央銀行デジタル通貨は当初中央のデータベースによって管理することが可能かもしれないが、技術の成熟化に伴って、分散型台帳(ネットワーク全体で共有され自動的に更新される同期化された複数の台帳)へ移行することになりうる。そして、大きな進歩があった場合には、ある台帳が別の台帳に短期間で地位を譲ることになるという可能性も考えられる。携帯電話やOSも、少なくとも年に一度の主要な新製品発表によって利益を得ている。

さらに、デジタル時代にはユーザーのニーズや期待もはるかに早く予想のつかない形で進化する可能性が高い。情報や資産が分散型台帳に移行し、換金のために同一ネットワーク上で貨幣を必要とするようになるかもしれない。貨幣はまったく新しい方法で譲渡されるようになるかもしれず、それには身近な製品に内蔵されたチップによって自動的に行われるものも含まれる。こうしたニーズは、貨幣の新たな機能を必要とする可能性があり、それに伴って頻繁なアーキテクチャの再設計と多様性が求められることになる。今日の貨幣、あるいは近い将来の貨幣もまた、その先のニーズに応えられる可能性は低い。

プレッシャーは供給サイドからも生じることになる。民間部門はイノベーションを継続するだろう。新しい電子マネーやステーブルコインの仕組みが出現し、こうした製品への需要が高まる中で、規制当局はリスク抑制に努めることになる。その際、こうした形態の貨幣と中央銀行が発行するデジタル通貨との間でどのような相互作用が生じるかという問いが必然的に生まれるだろう。これらの貨幣は別個に存在することになるのだろうか。それとも、その一部は私的貨幣と中央銀行通貨が相互に支え合う二重貨幣システムに組み込まれることになるのだろうか。

民間部門との連携は依然可能

中央銀行にとって、技術革新のペースやユーザーのニーズ、民間部門の競争についていくことは、困難を伴うだろう。しかし、中央銀行は単独でそれを行う必要はない。

第一に、中央銀行デジタル通貨は、民間部門がそれに上乗せする形でイノベーションを行うことを奨励するように設計できる。これは、アプリの開発者が携帯電話やそのOSに魅力的な機能を追加することによく似ている。活発な開発者コミュニティは、公開されているコマンド群(「アプリケーション・プログラミング・インターフェース」)にアクセスすることにより、中央銀行デジタル通貨のユーザビリティを単純なeウォレット・サービスの提供以上に拡張することができるだろう。例えば、決済の自動化を簡単にして発送された商品の受領と同時に支払いが行われるようにしたり、検索機能を構築して電話番号のみをもとに友人に送金を行えるようにしたりすることができるかもしれない。大事なのは、こうしたアドオンを念入りに調べ、安全性を完全なものにすることである。

第二に、一部の中央銀行は、中央銀行デジタル通貨の決済機能と安定性を強化しつつ、並列オペレーティングシステムのような形で、他の形態のデジタルマネーの併存を認めることも考えられる。これは、より速いイノベーションと製品選択に道を開くことになるだろう。例えば、あるデジタル通貨が、支払い自動化に対するユーザーのコントロールを強化するために、決済スピードに関しては妥協するという場合があるかもしれない。

こうした新しい形のデジタルマネーは安定した価値保蔵手段となるだろうか。答えはイエスだ。ただし、そのデジタルマネーが固定額面価格で(デジタルまたは非デジタルの)中央銀行通貨に変換できることが条件だ。それは、中央銀行通貨による十分な後ろ盾があれば可能となるだろう。

また、こうした形のデジタルマネーは効率的な支払い手段となるだろうか。この点に関しても、答えはイエスだ。決済は、同じ銀行の口座間と同様に、いかなるデジタルマネーネットワークにおいても即時に行われるからだ。そして、今日の二重システムで行われているように、アンのデジタルマネー提供者からボブのデジタルマネー提供者に対する支払いがそれに対応する中央銀行通貨の移動によって決済される限りにおいて、ネットワークは相互運用可能なものとなる。

(私たちが以前に「合成通貨」と呼んだ)こうした形のデジタルマネーは、中央銀行デジタル通貨と共存しうるものだ。そのためには、オペレーショナル・レジリエンス、消費者保護、市場行動・市場への新規参入可能性、データプライバシー、さらにはプルーデンス上の安定性といった公共政策上の目標を実現できるように、免許の仕組みと一連の規制が必要となるだろう。同時に、デジタルIDや補完的なデータ政策を通じて、金融の健全性も確保しうる。中央銀行と連携するには、高度な規制コンプライアンスが求められる。

後世に続くシステム

各国が中央銀行デジタル通貨を前に進める場合には、民間部門の力を借りる方法を検討する必要がある。今日の二重貨幣システムは、デジタル時代にも延長して活用することができるものだ。中央銀行通貨は、規制や監督、監視と合わせて、決済システムの安定性と効率性を確固たるものにする上で引き続き不可欠となる。そして、民間が発行する貨幣は、イノベーションと多様性によって、おそらく今日以上にこの土台を補完することが可能である。貨幣供給における民間部門と公的部門の関与の間には連続性があるが、その中で中央銀行が最終的にどの位置を選ぶかの決定は、国によって異なることになり、究極的には選好やテクノロジー、規制の効率性に左右される。

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トビアス・エイドリアンIMF金融顧問兼金融資本市場局長。IMFによる金融部門のサーベイランスや能力開発、金融政策・マクロプルーデンス政策、金融規制、債務管理、資本市場に関する業務を統括。ニューヨーク連銀上級副総裁と調査統計グループ副グループ長を経て現職。プリンストン大学およびニューヨーク大学で教鞭をとった経験があるほか、「American Economic Review」「Journal of Finance」等の経済学・金融の学術誌に論文を発表してきた。資本市場動向の総合的な影響に研究上の重点を置いている。マサチューセッツ工科大学博士、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、フランクフルト大学ディプロマ、パリ・ドフィーヌ大学修士。

トマソ・マンチーニ・グリフォーリIMF金融資本市場局の課長補佐で金融政策、中央銀行、フィンテックに重点的に取り組んでいる。非伝統的な金融政策、金融政策と金融安定性、波及効果、為替制度と為替介入、モデリングと予測、金融政策枠組みの発展、フィンテックとデジタル通貨に関連した所問題について政府当局に助言し、論文を発表してきた。IMF在籍前にはスイス国立銀行の調査・金融政策部門のシニアエコノミストとして、四半期に一度の金融政策決定で幹部に助言を行った。それ以前は民間部門で働き、ゴールドマン・サックス、ボストン・コンサルティング・グループ、シリコンバレーの技術スタートアップ企業に在籍した。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスとスタンフォード大学で学び、ジュネーブ高等研究所で博士号を取得。

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