米国の気候アジェンダのための新たなビジョン

2021年3月10日

写真:alvarez/iStock by Getty Images

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地球温暖化による気温上昇を摂氏1.5度から2度の幅に抑えるという2015年パリ協定の目標を達成できるよう前進するためには、今後10年間で、温室効果ガスの排出を世界全体で2550%削減する必要がある。  

米国は、自らの責任を果たす意思を示している。同国は、気候計画において、2050年までのカーボンニュートラル実現を約束しており、間もなく2030年までの排出削減目標が発表されることになっている。

この計画では、エネルギー効率基準の強化やクリーン技術に対する補助金、そしてクリーンエネルギーインフラや重要技術(グリーン水素等)を対象とする10年間で2兆ドルの公的資金投入が打ち出されている。

こうした計画案は、素晴らしい出発点となるものだ。IMFの新しい研究では、気候変動に対処する上で、排出の抑制と各種政策への支持拡大に資すると考えられる特定の財政措置に光を当てている。  

IMF

炭素に価格を設定すべき理由

炭素課金の導入を例に取ろう。二酸化炭素(CO2)の排出に価格を付ける全国的な仕組み(例えば炭素税)があれば、排出目標の達成にかかる経済的なコストを大幅に引き下げることができるだろう。炭素税は、炭素集約度の高い燃料や電力の価格を上昇させることにより、エネルギー使用の削減とよりクリーンな燃料への移行に向けたインセンティブをあらゆる部門で提供することになる。また、クリーン技術への投資を促すことにも役立つだろう。カーボンプライシングは、歳入を確保し、局地的な大気汚染による死者数を減少させることにもつながり、また、管理も複雑ではない。米国政府は、例えば炭素課金を連邦ガソリン・ディーゼル税に組み込み、その対象を石炭や天然ガス、その他の石油製品にも拡大することができるだろう。

そのような政策は、排出削減の観点から非常に効果的であると考えられる。具体例を考えると、2030年までに炭素税を1トン当たり50ドルに引き上げることによって、米国のCO2排出は22%減少することになる。さらに、毎年の歳入も対GDP比で約0.7%増えることになる。

カーボンプライシングに関する機運が国際的に高まっている。最近、中国や韓国、ドイツで排出量取引制度が導入されたほか、カナダでは2030年までに炭素価格を135米ドルに引き上げようとしている。米国では、2018年以降9つの炭素税法案が議会に出されたが前進しておらず、依然としてカーボンプライシングに対する抵抗が根強い。しかし、支持を拡大するための戦略は存在する。

慎重さが求められる重要な点のひとつに、エネルギー価格に対する潜在的な影響がある。50ドルの炭素税によって、ガソリンと電力、天然ガスの価格が将来的にそれぞれ15%40%100%上昇することになると考えられるからだ。さらに、その結果生じる家計負担は、当初は逆進的なものとなる。つまり、下位20%の所得層にとっては負担が消費の1.6%に相当する一方で、上位20%にとっては0.9%にとどまることになる。しかし、それは炭素税の税収を活用して同税の影響を最も受ける人々に補償を行う前の話だ。下位40%の所得層に対する補償を行う場合でも、当該税収の25%しか必要としないと考えられる。残りの税収は、クリーンインフラ支出といったその他の生産的投資や、雇用関連で負担が重たい税の軽減に充当することができるだろう。

競争力の維持

米国の気候計画では、国境炭素調整も提案されている。このメカニズムの下では、米国と同等の炭素価格を設定していない国から輸入される一部の排出集約的な製品に対して、差を補うための課徴金が課されることになる。反対に、そのような国に米国製品を輸出する場合には、当該製品のカーボンフットプリントに関連した炭素料金の還付を受けることができる。欧州連合(EU)はこうしたメカニズムを前に進めており、他にもその検討を行っている国がある。米国でカーボンプライシングが導入される場合、提案されているより広範な炭素調整によって、少なくとも各国間でカーボンプライシングに関する調整が行われるようになるまでの間、国内の鉄鋼・アルミニウムメーカーやその他のエネルギー集約型生産者の競争力を維持することが可能となるだろう。

いかなる排出緩和戦略の下でも、クリーンエネルギーへの移行によってテクノロジーや再生可能エネルギーなどの部門で多くの機会がもたらされる一方、既存産業の一部は負の影響を被ることになる。そうした部門では、悪影響を受けやすい労働者や地域を支援するための措置が必要となる。

業界レベルでインセンティブを強化

カーボンプライシングが政治やその他の要因によって引き続き制約を受ける場合には、別の手段によって補強する必要が生じる。その際、フィーベートが有望なアプローチとなる。これは、CO2排出率の高い製品や活動に料金(フィー)を課し、CO2排出率の低い製品や活動には払戻金(リベート)を支払うというものだ。

例えば、運輸部門を対象とするフィーベートの場合、一定の炭素価格に当該自動車の1マイル当たりの排出量とフリート平均との差、さらに自動車の平均生涯走行距離をかけたものに等しい税金を新車に課すことになる。シャドープライスをCO2排出1トン当たり200ドルとするフィーベートの場合、電気自動車には5,000ドルの補助金が支給され、燃費が1ガロン当たり30マイルの自動車には1,200ドルの課徴金が課される。平均排出率が時間の経過とともに低下するのに応じて、クリーン自動車向けの補助金は減額され、高排出車向けの税金は引き上げられることになる。類似の仕組みを発電や製造業、建物、林業、農業といった他の部門にも適用することができるだろう。

複数のフィーベートを組み合わせることによって、カーボンプライシングよりも受け入れられやすくなる可能性がある。なぜなら、(炭素税がエネルギー価格の上昇に転嫁されることがないため)エネルギー価格の大幅な上昇が避けられるからだ。同時に、カーボンプライシングに伴う需要反応の助長が部分的に回避されることにもなる。例えば、燃料税の引き上げとは異なり、フィーベートは人々に運転を減らすよう促すことにはならない。実際のところ、フィーベートは規制に比べてより柔軟かつ費用対効果が高くなる傾向があり、(クリーン技術への補助金とは異なり)財政コストも回避できる。

国際協調が鍵

米国の気候計画は、主要排出国間で緩和に関する野心を高めることも目指している。国際協調は、競争力への影響や自国の緩和目標を守らない国をめぐる懸念に対して安心感をもたらす点で有用である。パリ協定における各国の約束を補完するひとつの有望なメカニズムとして、主要排出国が自国の炭素排出に最低価格を設定することに同意する国際的な最低炭素価格が考えられる。この最低価格は、先進国に対する要求を厳格化するか、低所得国に対する支援を伴うか、あるいはその両方によって、公正に設計しうる。また、価格設定が困難な国では排出に同等の影響を及ぼす代替的なアプローチを認めるべく、柔軟に適用することも可能だろう。

IMF

米国は世界第2位の排出国として、世界全体で今後10年間に必要な排出削減の実現を助けるべく断固たる行動をとることが必要となる。米国政府は、この好機を捉えて、あらゆる面で気候アジェンダを前進させうる新しいアプローチを採用すべきだ。

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イアン・パリーIMF財政局の環境財政政策の主席専門家。研究対象は、気候変動、環境およびエネルギー問題の財政分析。2010年にIMFでの勤務を始める前には、リソーシズ・フォー・ザ・フューチャーで環境経済学のAllen V. Kneeseチェアを務めていた。

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