岐路に立つ商業不動産部門

2021年3月29日

写真:andipantz by Getty Images

写真:andipantz by Getty Images

空室ばかりのオフィスビル。店舗の営業時間短縮。信じられないほど低いホテルの客室料金。いずれも現在の世相を表している。昨年実施されたパンデミックの蔓延防止策によって種々のビジネスが停止しオフィスが閉鎖され、商業不動産、中でも特に小売り、ホテル、オフィスのセグメントに対する需要は甚大な打撃を受けた。

即座に出た影響だけでなく、パンデミックにより商業不動産部門の見通しも不透明になっている。eコマースが好まれ従来の実店舗型の小売りに対する需要が低下したり、在宅勤務が推進されるにつれてオフィス需要が減ったりという傾向が見られるからだ。IMF最近の分析によれば、こうした傾向は商業不動産市場を混乱させる可能性があり、金融安定性をも脅かしかねない。

IMF

金融安定性とのつながり

商業不動産部門は、より幅広い金融の安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。同部門は、規模が大きく、その価格の動きはより幅広いマクロ経済・金融の全体像を反映する傾向があり、また借入依存度が高いからだ。

多くの国で、商業不動産ローンは銀行の貸付ポートフォリオの大部分を占める。世界的に見て商業不動産部門が借入によって資金調達する際の資金提供の最大の担い手は銀行であることに変わりないものの、地域によっては、保険会社や年金基金や投資ファンドなどのノンバンクの金融仲介機関も重要な役割を果たしている。商業不動産部門への悪影響は商業不動産価格の下落圧力を生じさせ、借り手の信用度を低下させるとともに貸し手のバランスシートも圧迫する可能性がある。

価格の不均衡が目に見えて大きくなった場合、つまり、商業不動産市場の価格が経済のファンダメンタルズによって示唆される価格、すなわち「適正価格」から乖離した場合には、価格下落のリスクが高まる。IMF最近の分析では、こうした価格の不均衡は先行きのGDP成長率の下方リスクを増大させることを示している。例えば、還元利回りがその歴史的トレンドから50ベーシスポイント低下した場合(不均衡の一般的な指標)、GDP成長率の下方リスクが短期的には4四半期にわたり累計で1.4%ポイント高まり、中期的には12四半期にわたり累計で2.5%ポイント高まる可能性がある。

IMF

コロナ禍の多くの犠牲

パンデミックの影響を見ると、IMFの分析では価格の不均衡が増加したことも明らかになっている。しかしながら、過去の同様の状況とは異なり、今回の不均衡は過度なレバレッジの蓄積から生じているのではなく、むしろ営業収益と商業不動産の全体需要の両方が急激に落ち込んだことから生じている。

景気が勢いを取り戻すにつれて、この不均衡は解消される可能性が高い。それでもなお、社会における選好の変化による商業不動産市場の潜在的構造変化は、商業不動産部門にとって課題となるだろう。例えば、消費者や企業の選好の変化により商業用物件の空室率が永続的に5%ポイント上昇した場合、5年後には適正価格の15%下落につながる可能性がある。

しかし留意しなければならないのは、商業不動産部門の見通しには非常に大きな不確実性があり、価格の不均衡を決定的に評価することは極めて難しいということである。

IMF

金融安定性リスクに対処するために政策当局が果たすべき役割

低金利や緩和的金融環境は非金融企業が信用にアクセスしつづけるのを助け、従って緒に就いたばかりの商業不動産部門の回復にとっても役立つ。だがこうした緩和的金融環境が過剰なリスクテイクを促して価格の不均衡に寄与してしまった場合には、政策当局はマクロプルーデンス政策ツールキットに頼ることができるだろう。

融資における担保掛け目や元利返済金の制限などのツールを使ってこうした脆弱性に対処することが可能だ。また政策当局は、マクロプルーデンス政策の適用範囲を幅広くして、商業不動産市場においてますます重要な資金供給の担い手となっているノンバンク金融機関も含めることも検討しうるだろう。最後に、銀行部門の健全性維持に確実を期すには、商業不動産への貸し出しに対応する資本バッファーが十分であるか判断する上でストレステスト活用が役立つと思われる。

*****


アンドレア・デギは、IMF金融資本市場局国際金融安定性分析課の金融セクターエキスパート。以前には、欧州中央銀行(ECB)のマクロプルーデンス政策・金融安定性局とドイツ連邦銀行の調査局に勤務した。システミックリスク、金融仲介、不動産市場、金融政策の様々なトピックを研究してきた。シエナ大学、フィレンツェ大学、ピサ大学より経済学の共同博士号を取得。

ファビオ・マッシモ・ナタルッチは金融資本市場局副局長。国際金融安定性リスクに関するIMFの評価を示す「国際金融安定性報告書(GFSR)」の責任者を務めている。米連邦準備制度理事会(FRB)金融政策局上級局長補を経て現職。201610月から20176月まで米財務省国際金融安定・規制担当次官補代理。ニューヨーク大学経済学博士。

IMFコミュニケーション局
メディア・リレーションズ

プレスオフィサー:

電話:+1 202 623-7100Eメール: MEDIA@IMF.org