すべての人に公平な機会を与える

2021年4月1日

写真:geargodz by Getty Images

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新型コロナウイルスのパンデミックは、格差の悪循環に拍車をかけている。このパターンを打破し、豊かさを実現する上で誰もが公平な機会を得られるようにするために、各国政府は、ワクチン接種を含む医療や教育などの基本的な公共サービスへのアクセスを向上させ、再分配政策を強化する必要がある。

大半の国では、そのためには歳入を増やし歳出の効率性を高めることが必要になるだろう。そうした改革は透明性と説明責任の強化で補完することが必須である。それによって政府に対する全体的な信頼を高め、より結束の強い社会づくりに寄与することができる。

新型コロナと格差

以前から存在していた格差が、新型コロナの影響を深刻化させた。基本的なサービスへのアクセスに格差があることが、健康状態に差が出る一因となっている。IMFの研究によれば、医療へのアクセスを病床数で間接的に測ったところ、医療へのアクセスが悪い国では新型コロナウイルス感染症による死亡率が、感染者数や年齢構成から予測される死亡率よりも高くなっている。同様に、IMFの分析は、相対的貧困率が高い国でも感染率と死亡率が共に高くなっていることも示している。

それと同時に新型コロナが、格差の拡大を招いている。その一例が児童の教育だ。IMFの分析では、広範な休校措置がとられたことで2020年に失われた教育機会は、先進国では学年の4分の1と試算されるところ、新興市場国や発展途上国ではその2倍だった。貧困家庭の児童はとりわけ大きな悪影響を受けている。IMFの試算によると、新興市場国や発展途上国では最大600万人の児童が2021年に学校を中退する可能性があり、生涯にわたりその悪影響を被りかねない。

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また、今般のパンデミックは最も脆弱な層に最も深刻な打撃を与えている。低技能や若年の労働者が高技能職種の労働者よりも多く失業の憂き目にあっている。同様に、不利な立場におかれている民族集団や、インフォーマルセクターの労働者もより深い痛手を負っている。そして新型コロナの影響が最も大きかったホスピタリティ産業や小売業で高い比率を占める傾向にある女性もまた、貧困国では特に、著しい悪影響を受けている。

包括的なアプローチ

格差の連鎖を断ち切るには、事前分配政策と再分配政策の両方が必要となる。前者では、政府は人々に基本的な公共サービスや良質な雇用へのアクセスを保証する。そうすることで、政府が税や所得移転によって再分配を行うよりも前に所得格差を削減することが可能になる。

教育、医療、幼児期発達への投資は、これらのサービスへのアクセス向上に、ひいては生涯にわたる機会の確保にも強力な効果を発揮しうる。例えば、各国政府が教育への歳出を対GDP比で1%増やせば、最富裕層と最貧困層の家庭の間に見られる児童の就学率格差を3分の1ほど解消できる可能性がある。歳出額を増やすことに加えて、いずれの政府も歳出の非効率性を減らすことに注力すべきだ。特に貧困国では歳出の非効率性がかなり高くなっている。

コロナ禍によって、迅速に発動可能で生活困窮家庭にライフラインを提供できる優良な社会的セーフティネットの重要性の高さが明らかになった。高額な社会支出は、十分な支援を提供し、社会の最貧困層全体を対象にしてはじめて、貧困削減に効果を発揮する。信頼性の高い個人識別番号制度を用いて社会政策用の包括的登録簿を構築して維持することは、良い投資だ。これらの要素を、電子決済や、銀行口座へのアクセスが限られている場合にはモバイルマネー給付などの効果的な分配の仕組みで補完するのが理想的だろう。

基本的な公共サービスへのアクセスを向上させるには追加資源が必要となるが、これは、国の事情に応じて、全体的な徴税能力を強化することで動員できる。多くの国では、財産税や相続税をさらに活用できるかもしれない。また、政府が個人所得税の限界税率の上限を引き上げる余地がある場合もあり、税の累進性の向上できるかもしれないが、そうでない場合には資本所得課税の抜け穴をなくすことに重点を置いてもよい。さらに各国政府は、高所得世帯の個人所得税に追加して臨時の新型コロナ復興支援税を徴収することや、法人所得に対する課税の刷新も検討可能だろう。新興市場国・発展途上国では特に、社会支出の財源を得るために、消費税による歳入増を図れる可能性がある。くわえて、低所得国による資金調達、また、各国独自の税・支出改革を国際社会が支援することが必要となるだろう。

強力な公的支援が必要

多くの雇用を生む包摂的な回復を下支えしつつ、公共サービスへのアクセスを拡大することと、所得ショックからの保護を強化することを約束する包括的な政策パッケージの策定を各国政府は検討すべきだろう。一部の国では、増税により資金調達を行って基本的なサービスへのアクセスを向上させることを市民が力強く支持してきたが、こうした支持は今般のパンデミックを受けて一層拡大する公算が大きい。米国で最近行われたある調査によれば、感染したり失業したりして自分自身が新型コロナの影響を受けた人は、より累進性の高い課税を好むようになっている。

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こうした政策を中期的な財政枠組みの中に位置づけ、透明性や説明責任を強化する措置によって補完すべきだ。歳出の効率性の顕著な改善も必要である。過去のパンデミックの経験は、失敗した場合の代償が大きいことを示している。政府に対する信頼がすぐさま失われて分断の深刻化につながる可能性があるからだ。各国政府が、必要なサービスを届け包摂的な成長を促進するために断固たる措置を講じていけば、そうした流れを阻むことができ、社会の結束を固める上でプラスに働くはずだ。

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ダビット・アマグロベリは財政局の局長補佐。過去、困難な政策監視プロジェクトや、直近ではウクライナなど、IMFが支援する危機国対象の融資プログラムの設計・審査を担当してきた。200911月にIMFでの勤務を開始する前には、母国ジョージア(グルジア)でジョージア国立銀行総裁代行や副財務大臣など要職を歴任している。こうした職務において、パリクラブの債権者との債務再編合意を交渉し、インフレーション・ターゲティングの枠組みを導入した。

ヴィトール・ガスパールは、ポルトガル国籍でIMF財政局長。IMFで勤務する前には、ポルトガル銀行で特別顧問など政策関連の要職を歴任。20112013年にはポルトガル政府の財務大臣。20072010年に欧州委員会の欧州政策顧問局長、19982004年に欧州中央銀行の調査局長を務めた。ノーバ・デ・リスボン大学で経済学博士号とポスト・ドクター学位を取得。また、ポルトガル・カトリカ大学でも学んだ。

パオロ・マウロは、IMF財政局副局長。現職以前はIMFのアフリカ局、財政局、調査局で様々な管理職を歴任。ピーターソン国際経済研究所でシニアフェローを務め、20142016年にはジョンズ・ホプキンス大学ケアリー・ビジネススクールの客員教授。「Quarterly Journal of Economics」「Journal of Monetary Economics」「Journal of Public Economics」などの学術誌にて論文を発表し、学術界や主要メディアで多数引用されている。共著に『World on the Move: Consumption Patterns in a More Equal Global Economy』、『Emerging Markets and Financial Globalization』、『Chipping Away at Public Debt』の3冊がある。

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