コロナ禍 母たちの緊急事態

2021年4月30日

写真:golero by Getty Images

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1年前、世界は変わった。新型コロナウイルス流行が労働者に及ぼした影響には世界中で差があるものの、子育てを抱えて、コロナ禍の新しい現実に大慌てで対応せざるをえなかった女性は多い。学校や保育所が休校・休園となり、多くの女性が退職や労働時間短縮の選択を迫られた。新しいIMFの推計でも、子育て期の女性労働者に桁外れの影響が生じており、経済全体も揺るがしている点が確認できる。つまり、仕事の世界について言えば、経済活動の停止によって最大の犠牲を強いられたグループのひとつとして、幼い子どもを持った女性を挙げられるのだ。

アメリカ、イギリス、スペインの3か国を見ると、コロナ禍が労働者にもたらした影響の差を見て取ることができる。これら3か国は世界でも新型コロナウイルスの影響が一番深刻だった国の部類に入るが、雇用減少が最も大きかったのはアメリカだ。対照的に、イギリスの労働者の労働時間が最も大幅に縮小した。一方で、スペインでは雇用減少と労働時間縮小の両方が同時に生じた。

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こうした差が最も顕著だったのはコロナ禍が勃発した当初の数か月間で、こうした差が生じた一因としては政府が講じた政策の違いが挙げられる。アメリカは失業手当の増額と支援期間延長による失業者支援を選好した一方で、イギリスとスペインは雇用維持制度を活用して労働者と雇用者の関係性を保持する選択を行った。

最大の悪影響は母に

労働者が受けた影響は各国間だけでなく男女間でも差がある。IMFの研究が示しているように、アメリカでは男性よりも女性が受けた悪影響が大きかった一方で、イギリスではその真逆だった。スペインでは男性も女性も受けた痛みは同程度だった。

こうした違いはあるが、3か国には共通点がひとつある。都市閉鎖とそれに付随する感染防止措置がもたらした悪影響は、幼い子どもがいる女性に集中したのだ。休校と遠隔学習開始によって、子どもの世話をする親の役割が増え、とりわけ母親がその責任を担った。

その結果、コロナ禍前から子育てと家事の重荷の大部分を担っていた多くの女性たちが仕事を辞めたり、労働時間を短縮したりした。

上記3か国のいずれにおいても、幼い子どものいる女性は子育てをしていない女性や男性よりも仕事を失ったり労働時間を短縮したりしている。例えばアメリカについて20204月から12月の期間を見ると、子どものうち少なくとも1人が12歳未満の女性が仕事についている確率は同様の家庭環境の男性との比較で3%ポイント下がっている。

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男女格差と所得格差の拡大

私たちの研究は、アメリカの労働市場を子細に分析し、雇用の男女格差に見られた増加全体のうち45%を子育て中の女性に生じた負荷で説明できる点を確認している。また、こうした重荷の結果、20204月から11月の間に、GDP0.4%近く減少したと推計されている。

コロナ禍は男女格差だけでなく所得格差も悪化させることになるかもしれない。さらに詳細を検討すると、子どものいる女性の中でも大卒未満の学歴や白人以外の女性はコロナ禍初期に失業したり職を去ったりしている数が多く、また、他のグループの労働者よりも仕事を再開するペースがかなり遅いことがわかる。

子育て中の女性の支援

都市封鎖と感染拡大防止措置の影響が幼い子どもがいる人々にとりわけ偏っている点を踏まえると、こうした人々が職場に戻りやすくすることを目的とした、対象を絞った施策が必要となる。

  1. 資金面での支援:子育て中の女性が職を失い、生活に困り、家族を養うことが難しい場合の支援が肝要となる。低所得の子育て世帯を対象とした税額控除、失業手当の給付期間延長、子育て支援といった措置によって、こうした支援が可能になる。
  2. 保育と学校:政府は、学校再開を予防接種優先計画の中に反映させるべきだ。母親が労働市場に参加できるようにするためには、保育所を利用できることが非常に重要だ。各国政府は学校や保育所の再開を優先事項として取り扱い、再び休校となる可能性を減らすべきだ。このためには、安全で持続可能な学校の再開を実現するために、インフラと手順への投資が必要となる。
  3. 再配分政策:子育て中の女性に限らず、一般的に女性は対人接触が必要な仕事に就いている確率が高い。コロナ禍で失われた雇用は、こうした仕事に偏っていた。そして、無くなった雇用の一部は戻ってこないだろう。したがって、各国政府は労働者の人的資本喪失を最小化させつつ、こうした人々が別の仕事を見つけられるように支援すべきだ。その手段としては、雇入助成金や、テクノロジー研修など職業訓練プログラムが挙げられる
  4. 金融利用:金融サービスを活用しやすくすることで、女性による事業の開始・維持を大きく促進できるかもしれない。このためには、金融包摂の強化を実現するために、発展途上国を中心として、金融テクノロジーの潜在能力を活かすことが必須だ。携帯電話やインターネットなど、デジタルインフラの利用可能性を平等にしたり、金融やデジタルの基礎理解を促進したりすることが女性を取り囲む状況を大きく変えうる。

コロナ禍では、女性たちが子どもの身の回りの世話をし、感染拡大防止措置の代償の多くを自ら担うことで、重要な役割を果たした。上記に概要を提示した提言の重要性は、世界経済がコロナ禍からの復興に今も取り組んでいる中で高まっている。完全な復興を実現するために、世界経済は女性が職場へと完全に戻れるようにすべきだ。

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クリスタリナ・ゲオルギエバ

ステファニア・ファブリジオは、IMF戦略政策審査局の副室長。IMFでの勤務開始前はスペインのサラマンカ大学で客員教授を務めた。研究関心分野はマクロ経済、公共財政、財政制度などで、特にマクロ経済の政策と改革が所得分配に与える影響に関連した政策課題について幅広く研究している。経済学分野の有名な学術誌に研究論文を掲載。欧州大学院(EUI)で経済学博士号を取得。

ジエゴ・ゴメスIMF戦略政策審査局のエコノミスト。IMFで勤務する前には、アルバータ大学でアルバータビジネススクールの教授を務めた。EPGE経済学大学院で経済学博士号を取得。研究関心分野はマクロ経済学、公共政策、ジェンダー、格差、リスクなどである。

マリナ・タバレスIMF調査局のエコノミスト。以前にはIMF戦略政策審査局でエコノミストとして勤務し、IMFとイギリス国際開発省が共同で行った格差に関わる業務を主導した。IMFでの勤務前にはメキシコ自治工科大学(ITAM)で助教授を務めた。純粋・応用数学研究所(IPAM)で修士号、ミネソタ大学で経済学博士号を取得。研究関心分野はマクロ経済学、公共財政、ジェンダー、格差などである。

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