経済成長を再び

2021年6月10日

写真:ipopba/iStock by Getty Images

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「同じ労力でもっと沢山の財やサービスを生産・消費できる」というのは、出来すぎた話のように思えるだろう。しかし、これは現実に実現可能なのだ。生産性の向上は、経済成長率と所得を押し上げるカギとなる要素のひとつで、要は労働者の生産性がいかに高まるかという問題に行き着く。

コロナ禍によって、私たちの多くが働き方や消費のし方を変えた。ここで問いかけるべきは、こうした変化が現時点と未来の両方において生産性にどのような影響を及ぼすかだ。長期的な生産性を予想するの特に現在の環境では困難だが、コロナ禍が生産性に影響を及ぼしうる経路として重要な2種類の要因が存在する。それらは「デジタル化の加速」と企業間・産業間における「労働者と資本(例:機械やデジタル技術)の再配分」だ。私たちの最新の見解書では、これら要因がどう作用するか検討している。

生産性促進

コロナ禍はeコマースやテレワークなどデジタル化と自動化の進行を加速させたが、こうしたトレンドが逆流する見込みは低いだろう。こうした変化は生産性に影響を及ぼす可能性が高い。テレビ会議やファイル共有アプリから、ドローンやデータマイニング技術にいたるまでデジタルなツールを対象に最近行われた投資が仕事の効率性を高めるかもしれない。下の図で示しているように、15か国を対象にした1995年から2016年のデータを見ると、無形資本投資の10%増加が労働生産性の約4.5%の向上と関係していることがわかる。国の統計でいう無形資本はデジタル技術などの資産のことだが、無形資本投資と労働生産性との関連性は、効率性と能力を向上させる上で無形資本が果たしている役割を反映していそうだ。

対照的に、建物や機械など有形資本の増加は比較的やや小規模な生産性向上と関係づけられている。コロナ禍が収束するにつれて、デジタル技術や特許など無形資本に投資した企業は結果的に生産性が高まるかもしれない。

IMF

しかし、こうしたプラス効果は誰にでも同じように生じるわけではないだろう。なぜなら、無形資本投資は与信の状況に敏感であり、危機の結果、金融環境がタイト化したり企業のバランスシートが悪化したりした場合、そのペースは鈍化しうる。デジタルサービス業を中心に圧倒的な地位を誇る巨大企業が危機の間、他企業よりも業績が良かったことと、上記のような動向を踏まえると、市場支配力の高まりが助長されて、長期的にはイノベーションが停滞するかもしれない。

さらには、自動化されやすい雇用の一部は二度と帰ってこない可能性があり、雇用喪失や長期的な失業という結果につながるかもしれない。また、労働者が自分の既存スキルとうまく合致しない他産業で職を探さざるをえなくなる可能性もある。デジタル化の進行は生産性向上をもたらすが、こうした点がそのマイナス面だと言えるだろう。

コロナ禍における再配分

コロナ禍の影響は業界によって大きく異なっており、資源の再配分がある程度の規模で起こっている可能性が高い。例えば、人員削減や採用の結果、企業間で労働者が移動しているだろう。こうした再配分が生じている理由だが、少なくとも(相互に関係している可能性が高い)2点を挙げられるだろう。ひとつには、企業の市場参入と市場撤退だ。ふたつ目の理由は消費者の需要の変化である。

第一に、生産性の高い企業に労働と資本が向かう流れは通常、生産性を高め、景気後退がもたらす打撃の緩和に貢献する。例えば、解雇された労働者が生産性のより高い企業によって再雇用された場合だ。下の図が示すように、19か国を対象にした過去20年間の企業レベルのデータを分析した結果、資源の再配分が大きかった産業ほど、景気後退中の全要素生産性の減少幅が有意に小さい傾向にあり、回復も速い点がわかっている。

政策行動が企業間の再配分の規模に影響するかもしれず、そのため、生産性の伸び幅にも影響が生じるかもしれないが、方向性は不確かだ。例えば、危機時における広範囲の財政出動は、存続可能性が最大の企業を助ける効果があれば、生産性を押し上げうる。しかし、生産性の低い企業に資源を滞留させる結果にもなりかねず、全体的な生産性の伸びを阻害するかもしれない。こうした力が互いにどう相殺するかはまだ不透明で、生産性が最も高い企業にどれほど労働・資本が再配分されるかによって決まる。

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第二に、労働者1人あたりの生産性が比較的低い対人サービス(飲食、観光、実店舗型の小売り)の需要が減り、その代わりに同生産性が高いデジタルのソリューション・産業(eコマース、テレワーク)が伸びていることは、産業間の再配分が起こった結果、全体の生産性を向上させた可能性がある。しかし、コロナ禍の間に生じたこれらの変化が長期的に残す影響は非常に不確かで、観光など一部産業が回復する一方で、小売りなど他産業にはより永続的な変化が起こることになるだろう。

政策が力となる

脆弱な層を守りつつ資源の効率的な再配分を確実化することで力強い復興を支えられる。これを実現する方法は複数あり、下記に例を挙げる。

  • 行き詰まった企業の資本がより効果的な形で速やかに利用されるように、倒産・再編の手続きを改善するなどの政策を講じる。
  • 市場支配力を抑制する一助となるように企業の参入・撤退を可能にするため、競争を促進する。
  • 復興ペースが加速するにつれて、新しい環境への調整を円滑化するため、政策支援の焦点を雇用の維持から再配分に徐々に変更しつつ、失業した労働者を支える。労働者が異なるスキルを身に着けられるように、職場での実地研修を含め、再教育の努力を行うと、人的資本を向上させ潜在成長力を高めつつ包摂性の向上に資することになる。

最後になるが、無形資本投資がもたらす生産性向上の恩恵を享受するためには、存続可能な企業が融資を十分に受けられることが不可欠だ。

コロナ禍は経済的打撃をもたらしたが、テクノロジーやノウハウへの投資が生産性向上に貢献しうる。しかし、これが現実化して広く行き渡るためには政策が果たすべき重要な役割がある。

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ローネ・エンボ・クリスチャンセンIMF調査局多国間政策監視課の課長補佐。以前には、戦略政策審査局と欧州局でエコノミストとして勤務した。IMFによる融資、格差、ジェンダー、構造改革に関連したものを含め一連の課題に取り組んできた。カリフォルニア大学サンディエゴ校で経済学博士号を取得。

アシク・ハビブIMF調査局多国間政策監視課のエコノミスト。以前にはアフリカ局と能力開発局で勤務し、実体経済、通貨、金融部門、マクロ構造の諸問題に取り組んだ。金融開発、不適切な配分、生産性などを研究分野とする。トロント大学で博士号を取得。

マルゴー・マクドナルドIMF調査局多国間政策監視課のエコノミスト。以前はアフリカ局でIMFプログラム対象国や対外セクター問題に関する業務に従事。研究分野は国際マクロ経済学、国際金融など。最近は金融政策や銀行業務、貿易による国際的な波及効果を中心に研究。クィーンズ大学で経済学博士号を取得。

ダビデ・マラクリーノIMF調査局のエコノミスト。調査局の前には欧州局でユーロ圏を担当したほか、短期間、アイスランド担当も務めた。労働経済学と家計について収入ダイナミクス、所得と富の格差、起業家精神に焦点を当てて研究してきた。スタンフォード大学で経済学博士号を取得。

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