不確実な世界における財政政策

写真:deberrar/iStock by Getty Images

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2021年10月13日

クチン接種は多くの国で人命を救い、景気回復を後押ししているが、ウイルスの新たな変異株が出現する中で不確実性が高い状態が続いている。IMF最新の「財政モニター」は、パンデミックが格差や貧困、政府財政に永続的な痕跡を残すとしている。

パンデミックに伴い、世界の債務は2020年に14%増と急拡大して、過去最高の226兆ドルに達した。この数字には、公的債務と非金融民間部門の債務の両方が含まれている。後者については、民間部門の過剰債務は最終的に公的債務の増加につながる可能性があるため、注意深く監視することが必要となる。

現在、公的債務は88兆ドルに達しており、対GDP比で100%に迫っている。公的債務は2021年と2022年に対GDP比で約1%ポイントずつ減少すると見られているが、その後は同97%前後で安定すると思われる。  債務が増大する中で、各国はワクチン接種率や回復の力強さといった自国固有の状況に応じて財政政策を調整することが必要となる。

国・地域によっては明るい材料も

各国の状況は所得グループ間および各所得グループ内で大きく異なっており、財政政策も同様である。

先進国では、財政政策が引き続き経済活動と雇用を下支えするものとなっている。  こうした国では、財政政策がパンデミックの緊急事態とライフラインから他にシフトしつつある。  そこでは、グリーンでデジタルな変革を円滑にするための公共投資へのシフトがすでに見られる。いくつかの政策によって、経済の包摂性も高まることになるだろう。例えば米国では、予算提案の一部が格差縮小を目指すものとなっており、貧困を3分の1近く削減できる可能性がある。

財政政策は世界的にも重要な意味を持っている。例えば、欧州連合(EU)の「次世代EU復興計画」や米国の「米国雇用計画」および「米国家族計画」といった大規模パッケージは、それが完全に実施された場合には、2021年から2026年にかけて世界GDPを累積で4.6兆ドル押し上げる可能性がある。

IMF

新興市場国と低所得途上国については、多くの国で人口の大部分が依然としてワクチン接種を受けていないため、見通しがより厳しいものになっている。さらに、とりわけ低所得途上国においては、危機が長期にわたって負の影響をもたらし、歳入がパンデミック前のトレンドを下回ることになると予想されている。それに伴って、開発アジェンダを前進させることがより困難になる。すでに先進国に比べて限定的であった財政支援も、資金調達上の制約が増していることを理由にさらに縮小しつつある。各国政府は、引き続き医療を優先し、最も脆弱な層を保護することが必要となる。危機の最悪期と比べて経済は改善しているものの、2021年末にはパンデミックがなかった場合よりも65007500万人多くの人が貧困に陥ることになると推定されている。

IMF

リスクは主にウイルスの変異株とワクチン接種率の低さに由来している。債務と政府の資金調達ニーズの大きさも脆弱性の原因となっている。一部の新興市場国ではインフレを回避すべく中央銀行が利上げを開始しており、借入コストがすでに上昇しつつある。さらに、先進国でも金利が急上昇するリスクがある。そうなれば金融環境を圧迫し、多額の債務を抱え財政が脆弱な国々に対して特に有害な影響を与えることになるだろう。  プラス面としては、世界全体でワクチン接種を加速する取り組みを強化すれば、成長見通しが改善し、財政を押し上げることになると考えられる。

強靭性を構築し、協力を強化する

見通しが不透明で、財政が大きな課題に直面する中で、各国政府はいくつかの面で行動を起こす必要がある。 

パンデミックや経済の動向と見通しに合わせて政策を調整する。支援策は段階的に終了する必要があり、財政措置は財政にとってのリスクを抑制し、物価と金融の安定を維持することを目的にすべきである。

経済をよりスマートかつグリーンで、より強靭かつ包摂的なものとするための変革を優先する。これは、物的資本や教育、社会的セーフティネットへの投資を拡大し、新しくより良い雇用に向けて労働者の再訓練・再配置を行うことへの支援を強化することを意味する。

必要に応じて徐々に税収を増やすとともに、歳出の効率性を高める。低所得国では歳出の落ち込みが長引くと見通されており、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に利用可能な資金が減少する可能性があることから、こうした対策はより一層急務となる。

公信用を危険にさらすことなく短期間でさらなる支援のための余地を生み出すために、財政政策の信頼性を高める。緊急支出ニーズは、透明性と説明責任を担保する措置を伴う必要がある。中期的な財政枠組みによって、政府が財政に責任を負っていると貸し手に安心感を与え、資金調達コストを引き下げることができる。

国際社会はこれまでに低所得国における財政の脆弱性の軽減に資するべく重要な支援を行ってきたが、さらなる支援が必要である。IMFがこのほど実施した特別引出権(SDR)の一般配分は、国際流動性に貢献するものである。高所得国がSDR配分を通じて得られた資金の一部を低所得途上国に振り向け、それによって持続可能な開発に貢献できれば、SDR配分の有益な効果を増幅することが可能となる。しかし、条件を満たす低所得国に対して公的債務の支払いを一時的に猶予する債務支払猶予イニシアティブ(DSSI2021年末に終了する中、世界の最も貧しい国や重債務国がコロナ禍の継続的な影響に対処するのを支援する上では、債務救済を提供するためのG20の共通枠組みを有効に機能させることが不可欠となる

 

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ヴィトール・ガスパールは、ポルトガル国籍でIMF財政局長。IMFで勤務する前には、ポルトガル銀行で特別顧問など政策関連の要職を歴任。20112013年にはポルトガル政府の財務大臣。20072010年に欧州委員会の欧州政策顧問局長、19982004年に欧州中央銀行の調査局長を務めた。ノーバ・デ・リスボン大学で経済学博士号とポスト・ドクター学位を取得。また、ポルトガル・カトリカ大学でも学んだ。

サンドラ・リサラソは、IMF財政局のシニアエコノミスト。以前はIMF戦略政策審査局で勤務。IMFの前はカルロス3大学(スペイン)と自治工科大学(メキシコ)で助教授を務めた。2005年にデューク大学で経済学の博士号を取得。国際マクロ経済学、通貨経済学、マクロ経済学の研究に従事しており、特にソブリン債務、財政・金融危機の伝播、所得格差の問題に重点を置く。

 

 

パウロ・メダスIMF財政局課長補佐。現職以前はIMFの欧州局、西半球局で様々な職務を担った。20082011年にはIMFのブラジル駐在代表を務めた。また、これまでに訪問団代表として複数の国々を訪問している。研究関心分野はガバナンスと腐敗、財政危機、天然資源管理。近年刊行された『Brazil: Boom, Bust, and the Road to Recovery』の共著者の1人であった。

 

ロベルト・ピアッツァIMF財政局財政政策・サーベイランス課のエコノミスト。以前にはIMF調査局やイタリア銀行に勤務。ミネソタ大学で経済学博士号を取得。研究分野は成長理論、金融政策、国際マクロ経済学など。