未だ軌道に乗らず:気候変動の脅威に対しては、世界全体でより野心的に取り組む必要がある

2021年11月1日

IMFの新たな分析は、地球温暖化を食い止める排出削減を達成するために必要な野心や政策や資金に格差があることを示している。

1785年にロバート・バーンズは、人類が地球を支配するようになったことについて、「私はほんとに悲しむ、人間の支配が自然の社会的和合を破って仕舞つた事を」と書いた。

スコットランドの詩人であるバーンズのその言葉には、2世紀を経た今もなお真実味がある。

人間が引き起こした気候変動が、地球の生態系や、何百万人もの人々の命や生活を脅かしている。IMFの視点からすると、気候変動がマクロ経済や金融の安定性に対して重大な脅威をもたらしている。

現在、地球温暖化を1.5℃から2にとどめるための格好の機会は瞬く間に過ぎ去ろうとしている。

世界各国の首脳が第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)のためにグラスゴーに集結する中、IMF職員による気候に関する見解書は、世界の政策がこのまま変更されなければ、2030年時点での炭素排出量は「気温上昇を1.5℃に抑えるという目標達成の可能性を維持する」のに必要な水準よりもはるかに高いままとなるだろうことを示している。その目標を達成するには2030年時点のベースライン水準より55%削減することが至急必要であり、気温上昇を2に抑えると言う目標を達成するには30%の削減が必要だ。

これらの削減目標を達成するには、COP26に出席している政策当局者は、野心と政策という2つの面における重大な格差に対処しなければならない。

世界の気候変動緩和に関する野心の格差

世界の温室効果ガス排出量の4分の3超を占める135か国が、今世紀半ばまでに排出量を実質ゼロにすることを確約している。だが短期的な観点では、誓約が足りていない。現在掲げられている2030年に向けたコミットメントが果たされたとしても、それは気温目標を達成するのに必要な排出削減の3分の1から3分の2の量に過ぎない。

公平性や歴史的な責任という理由から、先進国はより速いスピードで排出を減らすことを期待されている。先進諸国は合わせて2030年比43%の排出削減を約束している。

同時に高所得新興市場国は12%、低所得新興市場国は6%の削減を約束している。

しかしながら、気候に関するIMFの見解書では、国グループ全体でどのように削減量を振り分けるかにかかわらず、すべての国が取り組みを強化する必要があることを示している。

例えば、先進国、高所得新興市場国、低所得新興市場国がそれぞれ45%30%20%排出量を削減すれば気温上昇を2に抑える範囲に入る可能性がある。それとは異なる55%25%15%というバランスで削減に取り組んだとしても、割り当てを65%20%10%としたとしても、同じ目標を達成可能だ。

気温上昇を1.5に抑えるために順調に進んでいくためには、先進国、高所得新興市場国、低所得新興市場国は、排出削減のためにより野心的な取り組みを行う必要がある。例えば、2030年のベースライン水準よりも70%55%35%削減する、あるいは80%50%30%削減するというような努力が求められる。

IMF

朗報は、削減コストは許容可能だということだ。世界の排出量を気温上昇を2に抑える範囲内となるように削減するのに要するコストは、対GDP比で0.2%から1.2%であり、最も大きな負担は富裕国が負うことになる。また多くの国では、化石燃料からの離脱のコストは国内の環境メリットにより相殺される可能性がある。そうしたメリットの中でも最も顕著なのは、地域の大気汚染による死者の減少だ。

新興市場国や発展途上国がより野心的な排出削減を行うのを支援するためには、国外からの資金調達の強化が必須である。

先進国は、2020年以降毎年1,000億ドルの資金を低所得国に提供するという約束を果たさなければならない。最新の数字を見ると、目標に達していないことが分かる。

民間からの資金調達を拡大するとともに、公的な排出削減目標の確実性、特にクリーンテクノロジーの競争条件を公平にするための価格シグナルが非常に重要となる。低所得国におけるリスクも含め認識されているリスクへの対処を投資家が支援できるよう、情報の質向上と標準化も極めて重要となるだろう。

世界の気候変動緩和に関する政策の格差

十分に野心的な取り組みが約束されたとしても、約束だけでなく排出削減を実施するための政策も必要である。

燃料の炭素含有量や炭素排出量に応じて課金する仕組みであるカーボンプライシングが、排出量の多い国については特に、中心的な役割を果たすようにすべきだろう。  カーボンプライシングは、民間投資を低炭素技術やエネルギー効率に向かわせる価格シグナルを直ちに提供する。

だが必要とされているものと現状には非常に大きなギャップがある。気温上昇を2℃未満に抑えるためには、2030年までに1トンあたり75ドルを上回る国際炭素価格が必要だ。

国際レベルでは、政治的、経済的な制約を克服しカーボンプライシングを拡張するために連携が極めて重要となる。競争力に関する懸念や政策措置に関する不確実性から、各国が単独で行動することは難しいということを考えるべきだ。

少数の大量排出国を対象とした国際炭素価格の下限に関するIMF職員の提案で中心となっているのは、 こうした課題への対処だ。

低所得国には資金面や技術面で支援を提供するとともに、経済発展のレベルが異なる国々に対して差をつけた価格付けをするそのような下限設定は、公平な仕組みとなるだろう。また、下限価格の仕組みは実用的だ。国が実施する際には、価格付け以外の措置によって同様の成果を達成することも可能となっているからである。

そしてこの仕組みは協同的なものでもある。健全な価格付けを進める国と進めない国がある場合に、国境炭素調整が行われて論争が生じることを回避する助けになるからだ。

各国レベルでは、カーボンプライシング改革により排出削減を活発化することが可能だ。それによって経済を犠牲にする必要はないという点が非常に重要である。最近の実証研究は、カーボンプライシング改革はGDPや雇用を減少させていないことを示唆している。実際のところ、そうした改革は長期的な成長目標を下支えしうる。カーボンプライシングから得られる収入は通常は対GDP比で約1%以上だが、これを労働税を減らしたり公共投資を増やしたりするために使って経済活性化に役立てることができる。

これらは、気候変動緩和戦略によって社会のあらゆる階層で幅広い便益をもたらすことが可能であり、またそうあらねばならないことを示すいくつかの例に過ぎない。政策当局者は、脆弱な世帯や労働者や地域に対しては強力な支援を行い、低炭素への移行が公平なものとなるよう確実を期すべきだ。

例えば、カーボンプライシング改革は公平性を向上させうるし、貧困層のためにもなりうる。カーボンプライシングによる収入が社会的セーフティネットの強化や個人所得税の課税最低限の引き上げのために使われた場合、その政策は最貧困層には純便益をもたらし、中間層への影響は中立となる。あるいは、その収入を医療や教育に対する公共投資に使うこともできる。

いかなる気候変動緩和戦略においても重要となるもうひとつの要素が、グリーン公共投資だ。私たちは、 スマートグリッドや、電気自動車の充電ステーションのようなクリーンテクノロジーインフラの採用を加速させる必要がある。官民が共に取り組めば、 クリーンエネルギーへの投資には特に強力な成長効果があるだけでなく、低炭素産業は化石燃料に比べて労働集約性が高い傾向もあるため雇用増加の一助にもなりうる

最後になるが、すべての改革は段階的に、かつしっかりと説明したうえで導入し、企業や家計が適応できるようにすべきである。また改革では、例えばメタンなどの幅広い温室効果ガス排出源をカバーするようにし、森林の炭素貯蔵量を増やすようにすべきだ。

行動の緊急性

野心、政策、資金調達における格差を至急に縮小させなければ、2030年以降の排出削減は、低炭素への移行コストは大幅に増加し、気温目標は永久に達成できなくなるかもしれないという窮地に陥ることになるだろう。

秩序ある形でかたちで、協調して、時宜を逃さず低炭素へと移行することは可能であり、実現しなければならない。今すぐに。

再びロバート・バーンズの言葉を借りるならば、「今こそその日その時」だ。

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クリスタリナ・ゲオルギエバ