強靭性と持続可能性を育むための新しいトラスト

写真: Rose Kouwenhoven/IMF

写真: Rose Kouwenhoven/IMF

2022年1月20日

提案されている500億ドルの信託基金は、低所得国と脆弱な中所得国が国際収支ショックに対する強靭性を育み、持続可能な回復を実現するために役立つだろう。

新型コロナウィルス感染症との闘いが続く中でも、ショックに対する強靭性を身につけ、持続可能で包摂的な成長を実現できるように経済を変革させる上での長期的な課題を見落としてはならない。新型コロナの大流行が残した教訓は、こうした長期的な課題に適時対処しないと、将来国際収支に関する問題が発生する可能性があるなど、経済に重大な影響を及ぼす可能性があるということだ。もう一つの長期的な課題は気候変動だ。気候変動は、自然災害のほか、産業や雇用市場、貿易の流れに混乱をもたらすなど、多くの国でマクロ経済の安定と成長に脅威を与える。

これらは公共政策に関する世界的な課題であり、各国と国際社会がタイムリーな対策を実施することは共同の責任である。以前のブログ記事では、「強靭性・持続可能性トラスト(RST)」を通じて、20218月に発行された6500億ドルのSDRの一部を対外ポジションの強固な国から脆弱な国に振り向けるオプションをIMFが検討していることについて説明した。RSTの中核的な目的は、構造的な課題に取り組む国に低コストの長期融資を通して支援することである。

RSTの開発に向けた作業を続ける中、以下で説明するRSTの設計の主要な特徴についての現時点の狙いは、資金拠出国の候補と借入国のニーズのバランスを取ることである。加盟国や国際的なパートナーからの広い支持を受け、新しいトラストが次の春季会合の前にIMF理事会からの承認を得て、年末までに実用化されることを期待する。

設計の主要な特徴

対象国

IMF加盟国の4分の3は、RST融資の対象となり得る。これには、全ての低所得国、全ての発展途上国および脆弱な小国、ならびに、一人あたりの国民総所得が2020IDAオペレーショナル・カットオフ値10倍(約12,000ドル)未満の全ての中所得国が含まれる。

条件を満たす改革

RSTサポートの目的は、加盟国の強靭性や持続可能性に対して有意なリスクとなるような、マクロ経済上重要で長期的な構造的課題の解決である。これには、気候変動やパンデミックに対する準備体制、デジタル化が含まれる。つまり、全ての長期的な構造的課題がIMF融資の対象になるわけではない。特定の分野での改革をサポートする能力は、有効な診断法の利用可能性やアクセス、および政策の優先順位を決めたり、適切な改革目標を策定したりする能力に左右されることになる。切望する融資を国際開発金融機関や民間セクターから得るためには、借入国の責任や必要な改革を実施する当局の強いコミットメントが不可欠となる。その他の関連機関の専門性や能力を活用するために、緊密に協力することも欠かせない。IMFおよび世界銀行の職員は、各国の構造改革を支援してきた以前の経験を基に、気候リスクに関わるRSTのオペレーションで協力枠組みを構築するために緊密に協力してきた。その他の改革分野においては、関連機関との同様の枠組みが今後の数か月間で作られる予定だ。

条件

RSTの支援を受けるため、対象国には以下が必要となる:(1 RSTの目的と一致した、一連の質の高い政策措置、(2) 貸し手と借り手双方のリスクを軽減するための適切なマクロ経済政策と同時進行で実施されるIMFが支援する融資または非融資プログラム、(3) 持続可能な負債と適切なIMFへの返済能力。

融資条件

譲許性が高く、現在金利がゼロとなっているIMFの低所得国向けトラスト(PRGT)と同様、RST は拠出国の資金を運用するIMFの権限の下で設立されるため、返済期間などにおいてIMFの一般リソースよりも柔軟な融資条件が可能となる。RSTが対処したい国際収支リスクが長期的な性質を有することから、RSTローンの返済期間は、以前のIMF融資よりも長いものとなる。具体的には、20年の返済期間と10年の猶予期間という提案が出された。RSTは、階層的な金利構造によって、国のグループごとに融資条件が異なり、低所得国には高い譲許性が与えられる。

融資へのアクセス

RST融資へのアクセスは、改革の強度や負債の持続可能性に基づき、ケースバイケースで決定され、IMFクォータ150%または10SDRの少ない方が上限となる見込みだ。RSTの貸し出しは、加盟国が長期的な国際収支リスクを解決するために利用するような、より広範にわたる融資戦略の一部となり、多国間融資、二国間の公的融資および民間融資が含まれる。

金融アーキテクチャー

PRGT同様、RSTのリソースは、自国のSDRまたは通貨をより貧困または脆弱な国に振り向けたい加盟国から有志ベースで集められる。RSTの金融アーキテクチャーは、低コストの長期ローンのために多くのリソースを集められるようにしながら、振り向けられたSDRの準備資産としての性質を保つ多層的なリスク管理枠組みに基づき、トラストにおける資金拠出者の債権の安全性と流動性を確保するように設計されている。予測される需要を満たすために、RSTは初期に合計で約500億ドルを集めることが必要となる。円滑に機能するSDR取引市場がRST運用の成功を支える要因となる。

成功のためには協力が不可欠

長期的な構造的課題が経済に与えるリスクを軽減するためには、時には困難な改革を実施するという政策当局者の強いコミットメントとともに、一貫性のある慎重なアプローチが必要となる。そのようなコミットメントが明白な国に対して、国際社会は低コスト融資、能力育成および政策助言によって支援できる。RSTはそのような協力的な取り組みを支える。 われわれは世界銀行及びほかの国際機関並びに地域開発銀行と協働してきた経験を基に、加盟国に最善の支援を提供するため、これらの機関・銀行の融資を補完する。

新しいトラストの成功は、以下の当事者に等しく左右されることになる:他国の長期的な強靭性や持続可能性を改善するために有意なリソースを提供する経済力がより強いIMF加盟国、国際収支の安定性改善に資するマクロ経済環境や改革枠組みを実現するために一層の努力を惜しまない借り手、そして専門性と能力、可能な場合は融資によって支援を提供するその他の金融機関。これらの措置は民間投資の結集にも一役買うことになりそうだ。

グローバルな行動を必要とする様々な構造的課題に対し、全ての国々がこれらの課題に対して早期に取り組み、持続可能な成長を達成できるように支援を提供することがかつてないほどに重要になっている。RSTはこの目標の達成に貢献するだろう。

 

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セイラ・パザルバシオグルIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。

ウマ・ラマクリシュナンIMF戦略政策審査局副局長。非譲許的融資に関する同局の政策業務を主導。1998年にIMFでの勤務を開始して以来、アジア太平洋、西半球、中東の様々な国を担当し、ジャマイカとエジプトに対する訪問団長も務めた。また、IMFの融資政策に関して幅広く取り組んできたほか、IMFにおける危機業務に関しても幅広い経験を有する。