世界の経常収支不均衡は、世界金融危機以後の10年間で着実に低下したが、再び拡大している。歴史は明白なリスクを示している。不均衡の拡大は、往々にして、特定の分野に偏った質の低い成長を伴ったり、貿易相手国間でのセクター間の乖離を招いたりするほか、金融危機や、資本フローの急激な逆流の前兆となってきた。すでに世界経済が数々のショックを吸収するなかで、こうした無秩序な調整が起きれば、極めて大きな犠牲を伴うかもしれない。
不均衡が再び拡大したことで、対外ポジションに有意義な影響を与える政策手段は何かという問いが再燃した。とりわけ、最近拡大している産業政策や、増大する貿易障壁は、経済的・非経済的な様々な動機があるが、経常収支不均衡を縮小するという名目で正当化されがちである。だが、こうした政策が対外収支へどう影響するかについては、分析的・実証的な検証が限られている。

IMFの新しい政策ペーパーは、このギャップを埋めるべく、国内の要因と対外収支の関連性を検討した。従来のマクロ経済政策が対外収支を左右する主要な要因であり、経常収支の不均衡を是正するための最も効果的な手段であるとの結論に至った。分析では、関税は限られた状況下でのみ経常収支の改善に寄与し、一般的にはその影響は小さく不確実であることが示唆されている。経済全体に影響を及ぼす措置と組み合わせて実施される産業政策は、国民貯蓄を押し上げ、内需を抑えることで、より大きな効果を発揮する可能性がある。
貯蓄と投資
どの国においても、経常収支は、家計と企業、政府の貯蓄と投資の差を反映する。この考え方は、IMFが対外部門の評価において長く用いてきた分析枠組みの基盤となっている。
政策は、貯蓄または投資を変化させる点で経常収支に影響を与える。その効果は、政策が現在の経済活動に与える影響だけでなく、人々の見通しをどのように変えるかにも左右される。家計の貯蓄率は、収入減少が見込まれると上昇し、収入増加が見込まれると低下する。企業の投資は、現在の収益性だけでなく、リターンの見込みにも基づく。この認識は、多くの貿易・産業政策がしばしば経常収支に限定的な影響、あるいは直感に反する影響を与える理由を理解する上で重要である。
近年に世界的不均衡が拡大した一部の事例では、標準的なマクロ経済政策がいかに拡大要因となったのかが分かる。米国では財政赤字の拡大と堅調な個人消費によって、貯蓄が減り、中国では不動産部門の減速を受けて内需が低迷し、貯蓄率が上昇した。
当然ながら、経常黒字・赤字となることは、人口高齢化に伴い貯蓄が増えているなどの構造的な要因を反映する場合もあるため、本質的に望ましくないわけではない。また、不均衡の評価に活用する指標は、二国間や部門間ではなく、自国以外の世界に対する総合的な経常収支ポジションである点を念頭に入れることも肝要である。さらに、不均衡は為替レートや価格競争力の話に帰着するほど単純でもない。適切な分析には、貯蓄や投資に影響を及ぼす政策や構造的要因を含む、マクロ経済全体の要因を総合的に評価することが求められる。
政策の詳細が重要
関税は貿易赤字を縮小する手段として正当化されてきた。しかし、IMFの分析によると、関税は恒常的なものと認識される傾向があり、頻繁に報復措置を招くことから、経常収支に不確かで限定的な影響しかもたらさない。こうした場合、人々は将来的な価格の変化を見込んで貯蓄を調整しようとしない。その結果、経常収支はほとんど変化しない。
ただし唯一の例外として、一時的な関税がある。撤廃が明確に予想される関税は、人々に消費の見合わせを促すことで貯蓄率を上昇させ得る。この施策は理論的には経常収支を改善させ得るが、そうした事例は稀であり、経験的証拠によれば効果も控えめで短命であることが示されている。
産業政策は多様で、効果もまちまちである。産業政策は2種類に分類でき、特定の企業や部門を対象とするミクロな産業政策と、経済全体の政策であるマクロな産業政策に分けられる。マクロな産業政策は、金融・資本規制と組み合わせる場合が多い。
ミクロな産業政策は、特定の産業への補助金や対象を絞った税制インセンティブなどの形を取り、一般的に経常収支への影響は不明瞭かつ限定的である。総生産性を高めることに成功すれば、投資と消費を後押しする傾向があり、大抵は経常収支を低下させる。不適切な資源配分によって生産性が抑制されたりして政策が失敗に終われば、経常収支は増えることもあるが、その代償として生産の損失を伴う。どちらの場合であれ、対外収支に大規模で系統だった影響はあまり見られない。
対照的に、マクロな産業政策は大きな影響を及ぼす可能性がある。こうした戦略は、輸出主導型の成長モデルと関連している傾向があり、対外資産の蓄積、資本フロー規制、金融抑圧、あるいは国内貯蓄を増加させるその他のメカニズムと組み合わせる。こうした政策は、効率性を高めるのではなく、貯蓄を強制することによって機能し、多くの場合で経済的福祉を犠牲にする。経常収支は増加が、その主な理由は、内需が抑制され、対外黒字のために資源が振り向けられていることにある。
結論は明白だ。産業政策と関税は、貿易不均衡を是正する上で近道にならない。こうした措置が経常収支に影響を与える時は、消費や投資を抑制している場合が多く、持続的な成長の処方箋とはいえない。持続可能な是正は現在も、貿易障壁ではなく、健全な国内政策に左右される。
今後の不均衡と GDP
この調査結果を今の経済情勢に当てはめたシナリオ分析によると、現在のトレンドが継続すれば、世界的不均衡はさらに拡大する恐れがある。これは、米国で巨額の財政赤字と強い内需が続き、中国で輸出業者に追加の公的支援が行われる一方でセーフティネットや消費が弱体化し、欧州で投資と生産性の伸びが低迷することを反映している。この状況において、関税を拡大しても、報復措置を引き起こすか、恒常的な措置と認識されるなどの理由から、経常収支ポジションを変化させる効果はほとんどなく、むしろ各地域のGDPを低下させる。
それとは対照的に、赤字国では財政再建、黒字国ではより消費主導型の成長、その他の国では生産性を高める投資という形で、国内の不均衡是正を図る代替シナリオでは、世界的不均衡が縮小し、世界GDPが増加する。
このように一斉に行う調整は、世界経済にとって最善の結果につながる。米国の財政引き締めによる経済への重しは、中国と欧州の需要拡大により相殺される。たとえそうした調整が困難だと判明しても、各国が取るべき最善の道のりは明白だ。それは、他国の政策に関係なく、今から国内の不均衡に対処し始めることである。調整が遅れると、国内や世界の経済安定性に対して脅威をもたらすことになる。一方的に協調的に調整を行えば、他の国々に調整を促す圧力にもなるだろう。中国で内需が高まれば、世界の需要を押し上げることから、世界的に金利が上昇し、米国などの他の地域で財政調整の見込みが高まる。米国の財政再建は、中国のデフレ圧力をさらに強め、消費刺激策のインセンティブとなり得る。
明らかなのは、関税や、対象を細かく絞った産業政策ではなく、国内のマクロ経済的な道筋や政策によって、世界的不均衡が形作られるということだ。世界的不均衡の是正は、各国が一斉に取り組む場合に最も効果的であることも明白である。IMFは、各国がより優れた成果を得られるように、分析と政策助言、招集力を通じて支援することができる。