戦争のショックが必要とする規律ある財政対応
中東の紛争は、財政が逼迫する中で世界的に不確実性を高めており、将来の安定性を確保する政策の必要性が浮き彫りになっている。
中東での戦争は、財政が長期的な課題によってすでに逼迫している局面において、人々や企業、国々に圧力をかけている。エネルギー・食料価格の高騰、金融環境の引き締め、不確実性の高まりによって、財政支援を求める声が再び高まっている。
このショックへの対応を決める上で、各国は、最も脆弱な人々の保護と市場価格シグナルの維持との間で、バランスを注意深く検討することが必要になる。最新の「財政モニター」では、多くの国で債務がすでに高水準に達している中、財政政策は慎重に対応し、財政を危機的状況に追い込むことなく必要に応じて支援を提供しなければならないと論じている。
不利な出発点
戦争前から、財政はすでに余裕のない状態にあった。コロナ禍や2022年のエネルギー・食料価格危機、貿易の混乱の拡大によって、各国政府は債務の増大とバッファーの減少、調整の遅れに直面していた。
経済の回復が見られた時にも、財政状況は改善しなかった。2025年に世界経済は堅調な成長を遂げたものの、財政の修復に関しては実質的な進展は見られなかった。多くの国で、財政赤字が高止まりし、債務が拡大し続け、利払い費が急速に膨らんだ。
数字は歴然としている。世界の財政赤字は、2025年に対GDP比5%のまま推移した。政府総債務は対GDP比94%に上昇し、2029年までに100%に達すると予測されている。これは、1年前の予測よりも1年前倒しとなる。多くの国で、財政はコロナ禍以前より脆弱化している。利払い費は、わずか4年で対GDP比2%からほぼ3%へと急拡大した。同時に、中期的な財政計画と、世界の債務を安定化させるために必要な水準との差は拡大している。
構造的な課題
今日、財政課題の性質は変化している。脆弱性は、もはや主として循環的なものでも一時的な緊急事態の結果でもなく、構造的なものになっている。安全保障支出や気候・エネルギー移行のコスト、利払い費の増大が予算に持続的な負担をかけている一方で、歳入がそれに追い付いていないのだ。
こうした状況においては、歳入と歳出に関する個々の選択がより永続的な影響を伴うことになる。成長に任せきりにするのは、非常にリスクの大きい考え方である。圧力が構造的である場合には、健全化を遅らせても時間稼ぎにはならない。むしろ、選択肢を狭め、リスクを高めることになる。

山積するリスク
われわれの参照予測は、戦争に伴う混乱が2026年半ばまでに和らぐことを前提としている。しかし、そうした仮定は不確実性を伴っている。
「財政モニター」では、影響を評価するために、原油価格が2027年に予想を100%上回ったまま推移し、インフレ圧力が再燃し、金融環境が引き締まるという「世界経済見通し」の深刻シナリオについて検討を行っている。こうした条件の下では、世界の「有リスク債務」(3年先の債務分布の予測の95パーセンタイルであり、起こりうる極端な結果を示す)が対GDP比120%を超える。これに対して、「世界経済見通し」の参照予測シナリオでは117%であり、上昇分は新興市場国と発展途上国に集中することになる。

今回の紛争のほかにも、各種のリスクが立ちはだかっている。貿易と金融の分断は、成長を鈍化させ、資金調達コストを上昇させかねない。政治の不安定性は、改革と歳入徴収を弱体化させる可能性がある。今や支配的となったAI株などの市場で急激な価格調整が起これば、金融環境が急速に引き締まる恐れがある。同時に、中央銀行がバランスシートを縮小する中で、各国政府は増大する債務発行の吸収に関して民間投資家への依存を強めざるを得なくなっており、市場心理の変化に対する借入コストの感応度が高まっている。
規律ある政策対応
財政規律とは、将来の安定性を損なうことなく今日の安定性を守る政策を選択することを意味する。
各国政府がエネルギー・食料コストの上昇に直面する企業や家庭の支援を決定する場合には、そうした支援は的を絞った一時的なもので、最も影響を受けやすく価格上昇を吸収する力が最も乏しい層に重点を置くものでなければならない。多くの国はパンデミックの最中に効果的な社会的セーフティネットを構築しており、再びそうしたメカニズムの活用が可能であり、活用すべきである。
財政余地が小さい国々は、追加的な借入を伴う資金支援策を避けるべきである。同じ制約の範囲内で支出の配分を見直し、(政治的な実現可能性がより高いであろう)危機関連支出を優先することの方が、アプローチとしてより優れている。もうひとつの選択肢は、債務の拡大と利払い費の増大を固定することだが、それは最終的により厳しい選択を迫ることになり、最悪の場合には国債市場を不安定化させ、今日の状況を一層悪化させることになる。
財政政策と金融政策は、緊密に連携する必要がある。緊急支出は、新たな総需要を生み出すものであってはならない。支援措置によって、インフレ抑制に向けた中央銀行の取り組みが台無しにならないようにするためだ。
また、燃料補助金などの広範な対策は、政治的には魅力的だが、コストが大きく、対象の限定が不十分で、撤回が難しく、供給に制約がある中で消費拡大を促し、世界の物価を一層押し上げることになる。
短期的なショックは、目前のより大きな課題から注意をそらすものであってはならない。財政の強靭性の回復には、信頼性のある中期的な健全化が必要である。それは、遠い将来の目標や変転する目標ではなく、具体的な対策と現実的な順序付けを意味する。支出圧力に真正面から向き合い、非効率性を低減し、競合する要求の間で折り合いをつける必要がある。歳入の側では、課税ベースを拡大し、免税措置を合理化し、税務行政を強化することによって、制約がある状況においても歳入を増やすことができる。
課題は深刻なものだが、利用可能なツールがある。適切に設計された財政枠組みや透明性の向上、トレードオフに関する明確なコミュニケーションは、各国政府が持続的な改革に必要な一般の支持を醸成する助けとなる。ショックが繰り返し発生し、債務が高水準にある世界において安定性を維持するには、早期かつ断固として行動することが重要となる。
本ブログ記事は、 2026年4 月「財政モニター」(「財政政策に圧力:高水準の債務、高まるリスク」)に基づいている。
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