世界的にエネルギー価格が高騰すると、各国政府はわずらわしいジレンマに直面することになる。すなわち、すでにひっ迫している財政余地をさらに狭め国民や企業を守るか、あるいはすべての人にとって価格が上がることを容認し社会的・政治的反発のリスクを冒すか、である。では、政策当局者は、双方に関して最善策を講じるには、どうしたらいいのか。
むろん、中東での戦争の影響は、各国のエネルギー依存度や市場の構造、社会保障政策、財政余地の多様性を反映して、国によって大きく異なるため、万能の対応策は存在しない。同様に、このショックがどのくらい持続し、どの程度インフレを促進するかについての不確実性の高さによる影響も国によってまちまちである。
持続的なエネルギー価格の高騰は、家計の購買力を大幅に抑制する可能性があり、貧困世帯が最も痛手を受けるほか、企業に負担がかかる。対策を怠れば、より多くの人を貧困に追い込み、企業が事業停止を余儀なくされ、ひいては長期的なダメージをもたらす恐れがある。
多くの国がすでに対応策を講じているが、難しいのは、効率的に、そして経済にさらなる打撃を与えることなく対応することである。慎重に設計されていない措置は、財政的な負担が大きく、後々解消することが困難となる可能性がある。また、さらなるインフレを助長したり、財政の脆弱性を悪化させたり、世界のエネルギー価格を一段と押し上げたりすることにもなりかねない。
よって、一連の共通原則を念頭に置くことが重要だ。エネルギー危機は、価格を押し上げ、経済活動を圧迫し、中央銀行を厳しい状況に追いやる典型的なマイナスの供給ショックである。財政措置は、果たすべき役割はあるが、一時的で、対象を絞り、タイムリーで、かつ状況に合わせて調整しなければならない。具体的には、次の要素が必要だ。
こうした優先事項については、2026年4月の「世界経済見通し(WEO)」と「財政モニター」の報告書で概説しており、そこでも各国内で影響が不均等であることも強調している。
持続性と価格
最も重要な問いのひとつが、ショックがどのくらい続くか、である。歴史的な範囲内であれば、たとえ長くても、各国政府は国内価格を国際市場の状況に合わせるべきだ。財政政策は主に自動安定化装置に頼るべきであり、つまり経済活動が減少するにつれて歳入が減る一方で、既存の社会扶助へのニーズが高まる中で支出が増えることになる。エネルギーの輸入に依存している国は、輸入価格の上昇によって実質所得が落ち込む(現在のショック下では、短期間に国内総生産の最大2%から3%)。これは内需の低下を通じて吸収されなければならない。
価格ショックが異常に大きい、あるいは破壊的であるものの一時的である可能性が高い場合には、政府は、余裕がある場合に限り、より積極的な財政政策を推し進めることができるだろう。その場合も、大半の価格上昇は初期段階で最終価格に反映させるべきであり、いかなる介入も、調整を防ぐものではなく円滑にすることを目指すべきである。
価格シグナルは、希少な資源を配分し、その利用を効率化し、モノの不足を防ぐ上で主要な役割を果たす。同時に、エネルギー価格の上昇は即時に深刻な影響を与える可能性があり、その影響は個人間、企業間によって異なる。つまり、財政支援の目標とそれを実現する手段は、この相違を反映しなければならない。

家計を守る
貧困世帯は通常、裕福世帯と比較して収入の2〜3倍をエネルギーと食料に充てているほか、貯蓄が少ない。そうした人々を保護することは、社会的一体性を保ち、貧困の急増を避けるために重要である。
一般的には、対象を絞った現金給付が最善策であり、既存の社会扶助制度を通じて行うのが理想だ。これは価格シグナルを維持し、財政コストを抑えるためだ。保護範囲が不十分な場合、政府は一時的に給付を上乗せするか、受給資格対象を拡大し、貧困に陥るリスクがある低中所得の家計を対象に含めることができる。
非常に大規模な一時的なショックに対しては、一回限りの払い戻しや、一定の期間にわたって価格上昇を分散させるなど、価格を完全に凍結することなく家計が値上がりに対応できるようにする追加的措置をとることができる。食料安全保障がリスクにさらされていてセーフティネットが十分でない場合、最後の手段として、主要食品に対する一時的な減税や補助金が適切となりうる(こうした対策の終了に向けた明確で信頼できるタイムラインが伴う場合に限る)。
企業支援
企業の場合、政府支援は別の目的を果たす。それは、存続可能な企業を維持し、不要な倒産を回避することだ。措置は、短期的なキャッシュフローの課題に対処するものであり、より深刻な存続性に介入してはならない。足元の危機がなければ健全な経営が続けられる企業、もしくは戦略的に重要な事業に対象を絞ったうえで、コスト高が即時に消費者価格を押し上げる産業に特に注力すべきだ。
政府保証融資、与信枠、短期的な課税猶予・社会保険料の支払い猶予などの、一時的な流動性支援が最初に取るべき措置だ。こうした手段は、財政的負担が少なく、解消するのが比較的容易なためだ。直接的な交付金や資本注入は、財政コストが高く、解消することが政治的に難しいことから、避けるのが良い。
例外的な活用
対象が広範に及び、歪みを生じさせるような政策手段もある。エネルギー減税、上限価格の設定、一律補助金は、重要な価格シグナルの働きを損ない、往々にして高所得世帯に恩恵が偏るほか、段階的な廃止が難しい。また、財政コストが急速に増大し、特に供給業者が十分にコストを回収できない場合には、モノが不足するリスクが高まる。
物価上昇に対処するための広範な措置は、特定の一連の条件が同時に揃っている場合には正当化できる可能性がある。
こうした条件をリアルタイムで把握することは難しく、いずれにしても、広範な価格統制の波及効果は大きい。そのため、広範にわたる価格ツールは避けることが理想的であり、使用する場合は例外的で、一時的、かつ透明性を伴い、厳格に制限を設ける必要がある。各国政府はトレードオフを慎重に検討しなければならない。例えば、上限価格の設定は段階的に撤廃しやすいが、品不足を招く可能性がある。減税は供給リスクは少ないが、撤廃するのが難しく、長期にわたり歳入が減少する可能性がある。原則として、完全な価格凍結は避けるべきだ。
財政上の制約
財政余地は国によって大きく異なり、債務と借入コストが上昇したため、現在は過去の危機時よりも概してひっ迫している。よって、漸進的で適切に調整された対応がなおさら妥当である。財政余地がある国では、政府は対象を絞った透明かつ一時的な措置によって、大規模かつ一時的な価格上昇を和らげる余地がありうる。
財政余地が限られ、社会的セーフティネットが脆弱な国は、より制約されている。価格上昇が食料やエネルギーへのアクセスを脅かす極端な状況においては、需要を管理するための数量割当が妥当となりうるが、この経済的コストは大きい。これは、希少な財政資源をすぐに使い果たすような一律補助金を避けることがいかに重要かを明確に示す。
より大きなトレードオフ
政策枠組みを改善してもなお、新興国市場と発展途上国の方が政策のトレードオフが大きい。先進国と比べると、一般的に、社会的セーフティネットが脆弱で、食料とエネルギーに対する個人消費の割合が大きく、流動性が制約され、インフレ期待が脆弱で、借入コストが高い中で財政余地が小さい。政治的圧力によって、異例のショックに直面した際に迅速な対応を迫られることもありうる。
対照的に、先進国の方が制約が少ない。そのため、対象を絞った給付や、自動安定化装置などの既存のツールを主として使い、例外的な場合にのみ価格に介入する裁量的措置を活用するべきである。
この非対称性は世界的に大きな意味合いがある。大規模な経済、もしくは豊かな国が、国内の価格シグナルを抑圧すると、世界的な需要が高まり、国際価格が上昇してモノの不足が深刻化する。これは貧しい輸入国が最も大きな打撃を受けることになる。
政策の順序
重要なのは対策を打つか否かではなく、いかにして効果的に対策を打つかだ。ショックの持続性を評価し、政策の手段と目標の整合を図り、家計支援と企業支援を区別し、状況に応じた対応を調整することだ。
規律があり、順序立ったアプローチ(すなわち、対象を絞った一時的な措置から始め、必要であれば拡大する手法)は、各国が国内的にも世界的にもコストの大きい政策ミスを犯すことなくエネルギーや食料の価格ショックに適応することを促すだろう。
政策ツールキットの詳細については、別紙をご参照ください。エネルギー・食料価格の高騰による影響の緩和策。