長期化するパンデミック下のインフレ圧力対策
IMF Blog, December 3, 2021
Source details
- Canonical URL
- 長期化するパンデミック下のインフレ圧力対策
Other formats
Bibliographic details
- Authors: Tobias Adrian, Gita Gopinath
- Published: December 3, 2021
要旨
- インフレ圧力が高まり、オミクロン株が新たな不確実性を生み出す中、金融政策当局者は新たな難しいトレードオフに直面している。
- 各国で経済回復力と潜在的なインフレ圧力の規模が大きく異なるため、物価上昇への政策対応は各国特有の状況に合わせて調整する必要がある。
- 米国はGDPがパンデミック前のトレンドに戻りつつあり、労働市場が逼迫しインフレ圧力が広範に及んでいるため、ユーロ圏を含むほかの先進国と比べ金融政策でインフレリスクを重視する根拠がある。
- 市場のパニックは国内外(特にレバレッジが高い新興市場国と発展途上国)に悪影響を及ぼすため、主要中央銀行は政策措置を注意深く伝えることが非常に重要である。
世界的インフレの展望
- エネルギーと食料価格の高騰が多くの国でインフレ率をさらに押し上げており、特に食料品が消費支出の約40%を占める低所得国の家計にマイナス影響を与える可能性がある。
- コア消費者物価インフレ率(燃料・食料を除く尺度)も上昇しているが、状況は国ごとに大きく異なる。
- 先進国の中でコアインフレ率が最も急激に上昇したのは米国、これに英国とカナダが続く。
- ユーロ圏の上昇幅ははるかに小さい。
- 中国と日本、インドネシアを含むアジア圏でのコアインフレ上昇の兆候は限定的。
- 新興市場国ではトルコでコアインフレ率が劇的に上昇。
- インフレ中央値は物価圧力の幅と持続可能性を示す尺度であり、10月に米国のインフレ中央値が約3%上昇しており、これはほかの先進7か国より高い値である。
- 多数の国で2022年もインフレ率が高止まりする見込みだが、大多数の国で中長期的なインフレ期待値は政策目標に近い状況が続いている。
- 米国の長期的インフレ期待は上昇したものの過去の平均値に近い値を維持。
- ユーロ圏のインフレ期待は目標をはるかに下回る値から上昇し、現在は目標に近い状況(ECBの目標である2%で安定している可能性)。
- 日本ではインフレ期待が目標を大きく下回る状況が続く。
- 複数の新興市場国(インド、インドネシア、ロシア、南アフリカ)はインフレ期待が安定しているとみられるが、トルコは例外である。
物価圧力の原因
- コアインフレ率の上昇要因:
- 例外的な財政措置と金融措置に支えられた需要の力強い回復(特に先進国)。
- パンデミックと気候変動による供給の混乱。
- サービスより商品への支出シフト。
- 一部の労働市場での賃金圧力の上昇(米国では労働参加率の低下が長期化し、賃金圧力とインフレ圧力がさらに高まっている)。
- 予想される緩和要因(ベースラインシナリオ):
- 2022年後半には輸送の遅れ、配達の遅延、半導体不足が改善される可能性が高い。
- 2022年に財政措置が縮小すれば総需要は弱まるだろう。
- ただし、複数の国で経済活動が急速に回復しており、特に米国では回復が最も早かったため、コアインフレ率が危機前のレベルと比較して急激に上昇した国がある。
政策対応と推奨
- 一般的教訓:
- パンデミック初期に行われた大規模な金融緩和と財政拡張は世界的な深刻な金融危機を回避するのに寄与した。
- 長年にわたりインフレを抑制してきた中央銀行は、一時的なインフレ上昇を「見過ごし」低金利を維持して経済回復を支援できた。
- 現在の判断:
- インフレ率が高い状態が予想より長引く可能性があり、これは実質金利が以前よりさらに低くなっていることを意味し、金融政策がますます拡張的になっていることを示唆する。
- 経済回復が進んでおりインフレ圧力がより深刻な国では、金融政策の正常化を加速すべきである。
- 金融政策のみに頼るとインフレ圧力を高め長期化させ、インフレ期待を安定させられなくなるリスクがある。
- コミュニケーションと柔軟性:
- 政策当局者は臨機応変にデータに基づいて判断し、必要に応じていつでも方針転換できるようにすべきである。
- 主要な中央銀行は市場のパニックを引き起こさないよう、政策変更を十分に伝える必要がある。
新興市場国と発展途上国へのリスクと対策
- 新興市場国の困難:
- 大規模で持続的な供給ショックへの対応は新興市場国の中央銀行にとってより困難であり、インフレ期待を抑制できなくなるリスクが大きい。
- 一部の国(ブラジルやロシアなど)は政策金利を急激に引き上げたが、これはコロナ禍で生産量が大きく低下しているなかで行われており、生産と雇用を一段と抑制する可能性がある。
- スピルオーバーの懸念:
- 先進国が引き締めを行い、それが新興市場国で資本流出と為替レート圧力を生むと、さらなる引き締めが必要となり、新興市場国は困難なスピルオーバーに直面する可能性がある。
- 推奨される備え:
- 新興市場国と発展途上国は、可能な場合は返済期間の延長を通じて先進国における金利の引き上げに備えるべきである(これによりロールオーバーの必要性を抑える)。
- 規制当局はバランスシート上の通貨のミスマッチの蓄積を制限することに集中すべきである。
シナリオと不確実性
- 新たな変異株(オミクロンを含む)がワクチンの有効性を大幅に減じる場合:
- さらなるサプライチェーンの混乱と労働力の縮小を招き、インフレ圧力を上昇させる可能性がある。
- 需要の低下が起これば:
- インフレは抑制される方向に動く可能性がある。
- オミクロン株発見後の動向:
- 原油価格の急落と各国による素早い渡航制限の導入は、この先のボラティリティの兆候である。
- 政策当局者の行動指針:
- 新たなデータに応じて対策を注意深く調整し、各国間で異なるインフレ状況と経済回復の強さに応じた個別の政策対応を行うべきである。
- 中央銀行からの明確なコミュニケーションは持続的な世界経済の回復を促進する上で重要である。
著者
- トビアス・エイドリアン: IMF金融顧問兼金融資本市場局長。ニューヨーク連邦準備銀行上級副総裁、研究実績(「American Economic Review」、「Journal of Finance」等)。学歴: マサチューセッツ工科大学で博士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで理学修士号、ゲーテ大学フランクフルトでディプロマ、パリ・ドフィーヌ大学で修士号。
- ギータ・ゴピナート: IMF経済顧問兼調査局長。ハーバード大学経済学部教授(休職中)。研究分野に国際金融とマクロ経済学。共同編集者・編集長経験、受賞歴および学歴(プリンストン大学で経済学博士号等)。
https://www.imf.org/ja/blogs/articles/2021/12/03/blog120321-addressing-inflation-pressures-amid-an-enduring-pandemic