アジアの新たな成長課題
Source details
- Canonical URL
- アジアの新たな成長課題
Other formats
Bibliographic details
- Authors: KRISHNA SRINIVASAN
- Published: September 24, 2026
要約と主要結論
- アジアは世界の産出の約40%、そして成長の約3分の2を占めている(1990年代は約4分の1)。
- 社会の高齢化と貿易の分断化が進む中、効率性と強靭性、イノベーションと包摂性といった競合する優先事項を政策当局が両立させる必要がある。
- 2050年までに、アジアでは5人に1人が65歳以上となり、その割合は現在の約2倍に達する。
- 人口減少によって、2050年までに経済成長率は年間で約0.3%ポイント押し下げられると見込まれている一方、AIや関連技術による生産性向上は成長率を0.2〜1%ポイント押し上げる可能性がある。貿易統合は成長率を0.1〜0.3%ポイント押し上げる可能性がある。
成長の勢いと逆風
- 所見:
- 工業化による恩恵が減少し、生産性の伸びは世界金融危機以降多くの国・地域で鈍化している。
- 労働力供給や潜在成長率が、少子高齢化により制約されつつある。
- 貿易依存の高い輸出主導型経済は、世界経済の分断化に伴う貿易ショックにさらされている。
- エネルギー強度の高さやエネルギー輸入依存も脆弱性要因。
- 政策の含意:
- 短期的な圧力に対処しながら長期的な繁栄を守るため、効率性、強靭性、イノベーション、包摂性を同時に高める政策が必要。
生産性と投資
- 所見:
- 投資水準は依然高いが、資本収益率は低下している。資源配分の歪みが拡大し、資本の利用効率が低下。
- 信用供給は潤沢だが、銀行中心の金融システムが若い革新的企業より既存大企業を優遇する構造。
- 推奨される政策:
- 投資の質を高めることに注力する。
- 金融アクセス改善、資本市場の深化、ベンチャーファイナンスの拡大で資本の配分を生産性向上へシフトする。
- 資本が市場原理に基づき価格付け・配分される制度整備を進める。
人口高齢化
- 事実・数値:
- 1960年代以降、女性1人当たりの出生数は約6人から現在では約1.6人へ低下。
- 平均寿命は約50歳から70代半ばへ延びた。
- 2050年までに、アジアでは5人に1人が65歳以上となり、その割合は現在の約2倍に達する。
- 分布:
- 日本、韓国、中国は急速な高齢化。インド、マレーシア、ベトナムは中間。ネパールやフィリピンは若年層が多い。
- 政策的含意と推奨:
- 高齢化が進む国では、生産性向上やAIなど新技術の活用が不可欠。
- 若い国々では、質の高い雇用創出で人口ボーナスを生かす。
- 女性や高齢者の労働参加促進、技能への投資、労働移動の円滑化、国内外移住の適切な管理を進める。
- 年金や医療支出増に対応するための財政・制度改革が必要。
貿易の分断化
- 現状と課題:
- アジアは世界貿易の約3分の1を占め、域内の結び付きは強まっているが、最終財輸出のうち域内で取引されている割合は30%未満にとどまり、欧州や北米の半分にすぎない。
- ASEANは世界第4位に相当する規模で貿易額はGDPを上回るが、域内貿易は貿易全体の4分の1にも満たない。
- 欠陥の背景には物流インフラ不足、人材育成のばらつき、非関税障壁などの構造的制約。
- 効果の見積り:
- 地域統合がさらに進めば、実質GDPは長期的に約1.8%押し上げられる可能性がある。
- 貿易統合の進展は成長率を0.1〜0.3%ポイント押し上げる可能性がある。
- 政策提言:
- サービス、デジタル貿易、競争政策、規格・基準を含む包括的で実効性の高い地域協定の推進。
- 移行コスト対応、関税引き下げによる税収減の補填、改革に必要な投資を支える財政余力の確保。
- 国内歳入の拡充を優先し、域内統合の恩恵を十分に享受できる基盤を整備する。
テクノロジーと成長(AIとデジタル化)
- 事実・数値:
- 人口の約90%がインターネットを利用している。
- デジタル技術分野における世界のイノベーションの3分の2超をアジアが占めている。
- モデル分析では、AIは強固な基盤を持つ国々で経済成長率を年率で最大1%ポイント押し上げる可能性がある。
- アジア全域で、AIや関連技術により成長率を0.2〜1%ポイント押し上げる可能性がある(上段参照)。
- リスクと分配:
- AIは高度技能労働者に有利で、賃金と機会の格差を拡大するリスク。低所得国での導入遅延は域内格差拡大のおそれ。
- AI関連投資への世界的需要の高まりが資金調達コストを上昇させる場合、導入遅延の影響は大きくなる。
- 政策推奨:
- 教育、デジタルインフラ、イノベーションへの投資を強化する。
- 労働者の再訓練や労働移動支援、再分配政策で移行コストを緩和し、恩恵の共有を図る。
- デジタルIDや決済システムなどのデジタル基盤整備と規制強化で信頼性を確保する。
- デジタルデバイドの是正を優先する。
エネルギー安全保障と移行
- 観察:
- 東南アジアを中心に輸入化石燃料依存と急増するエネルギー需要が脆弱性を高めている。
- 最近のエネルギー価格の急騰が問題を顕在化させた。
- 国内の対応例:
- ベトナムは再生可能エネルギー導入を加速。インドネシアは石炭依存からの脱却を模索。フィリピンとタイも依存低下とエネルギー転換を重視。
- 政策課題と利得:
- 課題は、価格と供給の安定を損なわずに移行を迅速に進めること。
- 適切に進めれば、エネルギー安全保障の強化、対外ショックへの耐性向上、持続的成長の新たな原動力創出につながる。
- 再生可能エネルギーのコスト低下と蓄電技術の進歩は移行を後押しする。
政策の総合的方向性(要点)
- 生産性向上を主眼に、投資の質と資本配分の改善を図る。
- 人材育成、技能投資、労働市場の柔軟性強化で人口動態の変化に適応する。
- デジタル化とAIの導入を促進しつつ、格差拡大の緩和を図るための再訓練・再分配政策を整備する。
- 貿易および地域統合を深化させるため、包括的な協定と域内インフラ・制度の整備を推進する。
- エネルギー転換を進め、供給の安定性と価格の手頃さを両立させる政策を実施する。
- 域内統合深化と構造変革を支えるため、国内歳入の拡充と財政余力の確保が不可欠。
クリシュナ・スリニバーサン、ファイナンス&ディベロップメント(2026年9月)