ファクトシート - 2007年6月

IMFサーベイランス: 国別サーベイランスに関する2007年の決定


IMFは現在、中期戦略 (MTS) の下で、その政策や手順を刷新し近代化を図っており、統合の進む世界経済の需要に対してより十分な対応がとれるように取り組んでいます。IMFの中心的な活動の一つとして、全世界、地域、および国家の経済をモニターし、各国の政策が自らの国益だけでなく国際社会の利益に一致しているかどうかを評価することが挙げられます。これがすなわちサーベイランス(政策監視)として知られるプロセスです。IMFはこのような取り組みを通じ、国際的な通貨および財政の安定に対する危機を予防し、また潜在的な脆弱性を見つけた場合には185カ国の加盟国政府に警戒を呼びかています。サーベイランスの枠組みを強化するために多くの提案がなされていますが、その一部として、2007年6月、IMF理事会は新たな「国別サーベイランスに関する決定」を承認し、30年前に採択された従来の決定を刷新しました。


新しい決定の重要性

この新しい決定は、サーベイランスに関する最初の包括的な方針声明であり、サーベイランスの内容をより明確に示し、公平性と説明責任を強化するものです。この決定により、サーベイランスのベスト・プラクティス(最良慣行)に求められている内容が明確になり、IMFと加盟各国は、より焦点の定まった効率的な政策対話を行うことができます。

またこの新決定では、各国が従うべき為替政策がどのようなものか、為替政策がどのような場合に国際社会にとって懸念となりうるかについても、より明確かつ具体的に示しています。

新決定の主なポイント

「国別サーベイランスに関する決定」は、2007年6月15日、24名から構成されるIMF理事会によって採択されました。これにより国別サーベイランスに関する最新の包括的な枠組みが提供され、これまでのIMF政策の前例との間に存在していた大きなギャップを解消することができました。また、こうした各加盟国とのそれぞれのサーベイランスのプロセスは、国際通貨制度全体に対するIMFの監督を補完するものとなります(なお、国際通貨制度への監督は、一般的に「マルチラテラル・サーベイランス(多国間政策監視)」呼ばれています。[サーベイランスに関するファクトシートをご参照ください])。

新決定は、従来の「為替相場政策のサーベイランスに関する1977年の決定」を置き換えるものです。1977年の決定と2007年の決定はいずれも、国際通貨基金協定第4条に基づく国別サーベイランスを実施するために策定されたのもです。IMF加盟国は、この第4条に従い、為替相場政策、国内の経済政策および金融政策に関する行動規範を遵守する義務を負っています。IMFには全体としてこの規範の遵守状況を監視する責務がありますが、1977年決定では為替政策に関する監視しか対象とされていませんでした。それに対し、新決定はより広範囲な分野を対象としています。

2007年決定は、サーベイランスにおけるこれまでのベスト・プラクティスの主要素を集約したものです。またこの決定では、対外安定性の概念を中心に据えています(ボックス1を参照ください)。サーベイランスをIMFが行う理由は、対外安定性に関して混乱を起こしたり、危機に陥らせたりしないような各国の政策を奨励することで、国際金融制度の安定性を促進することができると考えるからです。IMFはサーベイランスでの職責を果たす上で、この趣旨を再確認することにより、手を広げすぎてしまうといったリスクを最小限に抑えることができます。

ボックス1. 対外安定性とは

IMFのサーベイランスの目的は、対外安定性に関して混乱を起こしたり、危機に陥らせたりしないような各国の政策を奨励することにより、国際通貨制度の安定性を促進することです。サーベイランスでは、その国の国際収支の安定性と、そのポジションが他国の国際収支の安定性に与える影響の両方が検討の対象となります。対外安定性の実現とは、国際収支のポジションが為替相場に破壊的な調整を引き起こさず、また引き起こしそうにないことを言います。これには、(i) 基礎的経常収支(すなわち周期的変動や一時的ショック、そして調整のラグなどの一時的要因を除外した経常収支)が概ね均衡した状態、つまりその国の純対外資産のポジションが経済の構造およびファンダメンタルズと歩調をあわせて安定して形成される状況と、(ii)資本収支の面からは、資金調達上の制約、あるいは対外バランスシート構造の脆弱性の蓄積または継続により資本フローが突然変調するリスクが生じない状況の両方が必要となります。

基礎的経常収支が均衡していない場合(為替相場政策だけではなく、維持可能でない国内政策または市場の不完全性が原因となることもあります)、為替相場は「ファンダメンタルズから見てミスアライメント(fundamentally misaligned)」の状態にあると言えます。すなわち、2007年決定において対外不安定性の重要な指標となっている「ファンダメンタルズから見た為替相場のミスアライメント(fundamental exchange rate misalignment)」とは、均衡レベル、つまり経済のファンダメンタルズに沿った経常収支(周期的要因およびその他の一時的要因を除外したもの)に一致するレベルから、実質実行為替レートが乖離している状態を指しています。

ミスアライメントの概念は明確ですが、測定面では大きな不確実性が伴います。従ってIMFは、ミスアライメントという結論に達する際には、十分な注意を払います。さらに、為替相場がファンダメンタル・ミスアライメントの状態にあると判定される場合は、そのミスアライメントが重大である場合に限定されます。

新決定では、サーベイランスを実施する上での原則も明示しています:

  • サーベイランスは「対話」と「説得」に基づく協力のプロセスである。
  • 対話には「率直さ」が必要である。IMFは、明確だが時として困難な政策メッセージを加盟国に伝え、かつ加盟国が属する国際社会に率直に知らせるように備えなくてはならない。
  • サーベイランスは国の大小や先進国か否かを問わず「公平」に行われなければならないが、その国に特有の状況にも妥当な考慮を払わなければならない。特に後者は、加盟国政府の目標が対外安定性以外に置かれている場合、IMFが政策の変更を助言することでどれだけの影響があるか検討する際に必要となる。
  • 国別サーベイランスは、多国的な視点からその一部を構成するものとして実施されるべきである。つまり、国別の評価を行う際には、グローバルな環境から一国へ、そして一国の政策から国際通貨制度の安定性へと波及するスピルオーバー効果に留意するべきである。
  • サーベイランスは、中期的な視点で行うべきである。

新決定は、加盟国が為替相場政策を実行する際に指針となる原則を更新するものです。とりわけ、このたびの更新では新たな原則を追加して、対外不安定性を引き起こす為替相場政策は、その理由はともあれ回避するべきであると各国に推奨しています。また新決定では、加盟国がこれらの原則を遵守しているかどうかIMFが評価する際に、どのような具体的な状況があればさらに十分な審査が必要となり、場合によってはその加盟国との協議に至るのかを示しています。そうした状況には、為替相場のファンダメンタル・ミスアライメントも含まれるでしょう。

こうした更新をする必要があったのは、過去30年間の中で制度の安定性にとって最も重要だった事象に、1977年決定が対応できていなかったからです。1977年決定が重視していたのは、その策定された時代を反映して、国際収支上の理由により実施された潜在的な為替相場操作や、短期的な為替相場の変動でした。それに反して、1977年以後に為替相場関連で最も問題となったのは、国内的な理由による過大また過小評価された固定為替相場の維持であり、そしてより最近では、バランスシートの不均衡からしばしば引き起こされる資本収支の脆弱性でした。

変更内容

2007年決定では、IMFと加盟国の役割と義務を明確化しています。

a) 加盟国に対して、新決定は、為替相場政策をどのよう実行するべきか、国際社会に受け入れられるものは何か、受け入れられないものは何かという点について、より明確な指針を与えています。これまでにも、特定の目的のための為替相場操作や、外国為替市場介入の望ましい時機・方法についての三つの原則がありましたが(ボックス2参照)、新決定では、「加盟国は、対外不安定性をもたらす為替相場政策を回避すべきである」という第四の原則が追加されています。さらに、既存の第一原則は他の加盟国に対し不公正な競争上の優位を得るための為替相場操作に関するものですが(ボックス3参照)、新決定の付属文書では、その意味するところが詳細に説明されています。なお、この為替相場操作に関する原則は協定第4条の加盟国の義務を再述したものであるのに対し、その他の原則は加盟国に対する勧告となっています。新決定では、評価の指標(ボックス4参照)に関連する文言を見直して、その意味合いを明確にすることにより、加盟国の原則の遵守に関するIMFの評価について、どのような経済上の動向があればより十分な審査が必要となり、さらにはその加盟国との協議に至る可能性がでてくるのか明示しています。最も注目すべきは、これらの指標の更新が、国際的資本フローの重要性の高まりを反映するために行われてきたということです。

ボックス2. 四つの原則

2007年決定では、加盟国の為替相場政策に関する以下の四原則について概要を説明しています。

A. 加盟国は、国際収支の効果的な調整を妨げるため又は他の加盟国に対し不公正な競争上の優位を得るために為替相場又は国際通貨制度を操作することを回避する。
B. 加盟国は、自国通貨の為替相場における短期の不規律な変動を特徴とするような無秩序な状況に対応するため、必要であれば為替市場に介入すべきである。
C. 加盟国はその介入政策において、介入する通貨の国の利益を含む他の加盟国の利益を考慮しなくてはならない。
D. 加盟国は、対外不安定性をもたらす為替相場政策を回避べきである。

b) IMFに対して、新決定は、国別サーベイランスの範囲と、その実行基準の概要を説明しています。また、サーベイランスにおいては、各国の対外安定性の促進に焦点を絞るべきであることを再確認しています。IMFは、為替相場政策、国内の経済政策および金融政策がこの目的に適しているかどうかを審査します。つまり、サーベイランスにおいてIMFが着眼するのは、対外安定性の見通しに重大な影響を与えうる政策のみということです。新決定では、一国の国内政策が対外安定性に寄与するのは、国内の安定の促進によって行われると認識しています。新決定は、通貨統合圏の各加盟国の政策に関するサーベイランスをどのように実施するべきかという点も論じています。最後に、新決定は、サーベイランスのベスト・プラクティスの主要素である率直性、公平性、波及効果の着目といった原則を明示することでサーベイランスに期待される役割を明確にし、、これらがサーベイランスの質の全般的な向上に資するであろうとしています。

ボックス3. 通貨操作とは

国際通貨基金協定には、加盟国が「国際収支の効果的な調整を妨げるため又は他国の加盟国に対し不公正な競争上の優位を得るために為替相場又は国際通貨制度を操作することを回避」しなければならないと規定されています。しかしIMFはこれまで、どのような行動がこうした為替相場操作にあたるのかほとんど指針を示していませんでした。IMF理事会が6月15日に承認した国別サーベイランスに関する2007年の決定では、IMFに加盟している185ヶ国に対し、問題となる行動の類型について指針を提供しています。

この2007年決定では、加盟国が「第4条第1項(iii)に合致しない行為をしている」のは、当該国が為替相場の水準を対象としかつ実際に影響を与えている政策を行っているとIMFが判断した場合、と規定されています。これは、為替相場を変動させるか、かかる変動を抑止する場合も指し、かつそうすることで、「純輸出の増加を目的として」「為替相場の過小評価という形でファンダメンタルズから見た為替相場のミスアライメントを確保」することも含んでいます。

ボックス4. 七つの指標

IMFは、加盟国のボックス2の原則の遵守についてサーベイランスを行うにあたり、加盟国の経済に以下の動向があったときに、十分な審査が必要であり、場合によってはその加盟国と協議に至る可能性があると見なします:
(i) 為替相場における長期的かつ大規模な一方向への介入。
(ii) 国際収支上の目的に基づく、持続不可能か、または極端に高い流動性リスクをもたらす公的ないし準公的な借り入れ、あるいは海外資産の過度で長期的な公的ないし準公的な蓄積。
(iii) (a) 国際収支上の目的に基づく、経常取引ないし経常的支払いへの制限、インセンティブの導入、大幅強化ないし長期的な維持、あるいは
     (b) 国際収支上の目的に基づく、資本の流入ないし流出への制限もしくはインセンティブの導入ないし大幅な修正。
(iv) 国際収支上の目的に基づく、資本フローを異常に促進ないし抑制するような通貨政策およびその他の金融政策の推進。
(v) 為替相場のファンダメンタル・ミスアライメント。
(vi) 大規模かつ長期にわたる経常収支の赤字ないし黒字。
(vii) 民間資本フローから生じる、流動性リスクを含む対外部門の大幅な脆弱性。




IMF アジア太平洋地域事務所

Phone: 03-3597-6700
Fax: 03-3597-6705