世界情勢は再び戦争に左右されている。冷戦後、数十年にわたって比較的平穏な時代が続いた後、近年になって、紛争の数が第二次世界大戦終結以来の水準にまで急増している。同時に、地政学的緊張と安全保障上の懸念の高まりによって、多くの政府が自国の優先事項を見直し、防衛支出を拡大することを促されている。
戦争は、甚大な人的被害にとどまらず、大規模かつ持続的な経済的コストを伴うほか、難しいマクロ経済上のトレードオフをもたらす。戦闘が起きている国では特にそうだ。紛争状態にない場合でも、防衛支出の増大は中期的に経済の脆弱性を高め得る。戦争が終われば、各国政府は持続的な平和の確保や回復の維持といった紛争後の緊急の課題に直面することになる。
紛争が拡散する時代において、われわれは最新の「世界経済見通し」のふたつの分析章において、戦争がもたらす深刻かつ長期的な経済的被害に光を当てている。昨今の戦争は、サブサハラアフリカと欧州、中東に特に影響している。また、短期的には需要を押し上げ得る防衛支出の拡大が、困難な予算上のトレードオフをもたらすことになり、適切な政策設計と持続的な平和がこれまで以上に重要であることを示す。

経済的損失
戦争が勃発する国では、経済活動が急激に落ち込む。平均して、戦争が発生する国では産出量が当初約3%減少した後、数年にわたって減少し続け、5年間の累積損失が約7%に達する。戦争に伴うGDP損失は、一般的に、金融危機や深刻な自然災害に関連した損失を上回る。さらに、10年経っても経済的後遺症が残る。

戦争は重大な波及効果を及ぼす傾向もある。外国の戦争に関与する国は、自国内の物理的破壊がないこともあり、大規模な経済的損失を回避できるかもしれない。しかし、戦争が起きている国の近隣国や主要貿易相手国は、ショックを実感することになる。そうした国では、紛争初期の数年間に、産出量の小幅な減少に見舞われることが多い。
戦闘関連の死者が1,000人以上に達するような大規模な紛争の場合、紛争発生国は難しいトレードオフを迫られることになる。支出が防衛にシフトし、債務が増大するのに応じて財政が悪化する一方で、産出量と税収が急減する。
こうした国は、対外収支の圧迫に直面する可能性もある。需要の低下により輸入が急激に収縮する一方で、輸出はそれよりも大幅に減少し、貿易赤字の一時的な拡大につながる。不確実性の高まりは資本流出を誘発し、外国直接投資と証券投資フローがともに減少する。そのため、戦時下の政府は、貿易赤字を賄うために、援助や、場合によっては海外在住者からの送金への依存を強めることを余儀なくされる。
そうした対策にもかかわらず、戦争は持続的な通貨安や外貨準備の損失、インフレ高進を招くことになる。このことは、戦時下において対外不均衡の拡大がいかにマクロ経済のストレスを増幅させるかを浮き彫りにしている。物価は大半の中央銀行のインフレ目標を上回るペースで上昇する傾向が見られ、通貨当局に利上げを促すことになる。
全体として、大規模な戦争は戦争発生国に甚大な経済的コストと難しいトレードオフをもたらし、その他の国にも被害を与えることをわれわれの研究結果が示している。そして、そうしたコストは短期的な混乱をはるかに超え、経済の潜在力と人々の幸福の双方に永続的な影響をもたらす。
支出のトレードオフ
紛争の頻度が増し、地政学的緊張が高まっていることは、多くの国に自国の安全保障上の優先事項を見直し、防衛支出を拡大することも促している。ほかにも、同様の計画を立てている国がある。こうした状況は、政策当局者に対して、そのような支出拡大に伴うトレードオフに関する重要な問題を突きつけている。
われわれの分析では、164か国における第二次世界大戦以降の防衛支出の大幅増の事例を検討した。その結果、そうした支出拡大は通常約3年にわたって続き、防衛支出が対GDP比で2.7%ポイント増加することがわかった。それは、2035年までに防衛費を対GDP比5%に引き上げるという北大西洋条約機構(NATO)加盟国の目標と概ね一致している。
防衛支出の拡大は、第一義的にはプラスの需要ショックとして作用し、防衛関連部門を中心に、民間消費と投資を後押しする。それは、短期的に経済産出量と物価の両方を押し上げる可能性があるため、インフレ圧力を抑制するために金融政策との緊密な連携が必要になる。
全体として、防衛支出の拡大が産出量に与える総合的な影響はそれほど大きくないと考えられる。防衛支出の増加は、通常、経済産出量の増加にほぼ1対1で反映され、経済活動に対してそれよりも大きな乗数効果をもたらすことはない。ただし、そうした支出の乗数効果や波及効果は、支出の持続性・財源・配分のあり方や、装備品がどれだけ輸入されるかによって大きく異なる。
例えば、支出拡大の一部が外国製品の輸入に充てられる場合には、産出量の伸びは小さくなり、対外収支が悪化する。これは、武器輸入国について特に当てはまる。一方、防衛支出の増加において装備品とインフラへの公共投資を優先し、同時に調達の断片化を低減したり基準の統一化を推進したりする場合には、市場規模が拡大し、規模の経済が促進され、産業の能力が強化され、輸入による漏れが抑制され、長期的な生産性の伸びが下支えされるだろう。
防衛支出をどのように賄うかの選択は、重要なトレードオフを伴う。防衛支出の拡大は、短期的には赤字で賄われることが多い。他方、支出拡大の後半において支出拡大の恒久化が予想される場合には、歳入増の果たす役割がより大きくなる。

赤字財政への依存は、短期的には経済を刺激しうるが、中期的には財政の持続可能性を圧迫する。予算の余裕が限られている国の場合には特にそうだ。防衛支出の拡大が始まってから3年で、財政赤字は対GDP比で約2.6%ポイント悪化し、公的債務は7%ポイント増加する(戦時下では14%ポイント)。そのような財政赤字の拡大は、民間投資を圧迫し、防衛支出がもたらす初期の景気刺激効果を相殺する可能性がある。
財政の脆弱性の高まりは、特に防衛支出の増加が恒久的である場合には、持続的な資金調達の仕組みによって緩和し得る。しかし歳入の拡大は、代償として消費が減少し需要押し上げ効果が抑制される。また、予算上の優先事項を見直せば、社会保障や医療、教育に対する政府支出が犠牲になる傾向が強い。
復興に向けた政策
われわれの分析によれば、戦争からの経済復興は遅く不均一であることが多く、平和の持続性によって大きく左右されることもわかっている。平和が持続すれば、産出量は回復するものの、戦時中の損失に比べると低い水準にとどまる。反対に、戦争が再び激化する脆弱国では、回復が停滞する場合が多い。こうした限定的な回復をけん引するのは、主として労働力である。労働者が軍事部門から民生部門に再配置され、難民が徐々に帰還するからだ。一方、資本ストックと生産性は低迷し続ける。
信頼を回復し、復興を促進する上では、早期のマクロ経済安定化と断固たる債務再編、そして援助や能力開発を含む国際的な支援が中心的な役割を果たす。復興の取り組みは、制度と国家能力を再構築し、包摂性と安全を促進し、教育の損失や健康悪化、経済的機会の喪失といった戦争の持続的な人的コストに対処するための国内改革によって補完される場合に最も効果的となる。
重要なのは、効果的な戦後復興には、包括的で適切に調整された政策パッケージが必要になるということだ。そのようなアプローチは、断片的な対策よりもはるかに有効である。不確実性の低減と資本ストックの再構築を同時に達成する政策は、期待を強化し、資本流入を促進し、避難民の帰還を容易にし得る。究極的には、戦後復興の成功は、戦争の影響を受けたコミュニティにとって、安定と新たな希望、生活の向上に向けた基礎を築くことになる。
本ブログ記事は、2026年4月「世界経済見通し(WEO)」の第2章「防衛支出:マクロ経済的影響とトレードオフ」および第3章「紛争と復興のマクロ経済学」に基づいている。脆弱国・紛争被害国についての詳細は、「How Fragile States Can Gain by Strengthening Institutions and Core Capacities(脆弱国が制度および中核的能力の強化によって得るもの)」をご覧ください。