アジアは、盤石な状態で2026年を迎えた。昨年4月の米国の関税と長引く貿易政策の不確実性の影響を真正面から受けながらも、2025年に底堅い成長を遂げ、貿易は堅調に推移した。現在、中東での戦争とそれに伴うエネルギー供給ショックによって、インフレ率が上昇し、対外収支が悪化し、政策の選択肢が狭まっている。同地域が原油・ガスの輸入に依存している実態が浮き彫りになった。
それでも、われわれはアジアが引き続き世界経済成長の主要な原動力になると予測している。エネルギーショックが一過性に終わると仮定した最新の「世界経済見通し」の参照予測によれば、同地域の成長率は昨年の5%から今年は4.4%、来年は4.2%へと減速することになる。アジアの成長のうち、中国とインドが70%を占めると見られる。
逆風がアジアのレジリエンスを試練にさらすことになる。インフレ率は昨年の1.4%から今年は2.6%へと上昇する。これは1月の予測を0.4%ポイント上回っている。「世界経済見通し」の悪化シナリオや深刻シナリオのように、ショックが長引いたり強まったりする場合には、2027年までの成長率は累積で1%から2%押し下げられる可能性がある。
ショックの中でのレジリエンス
アジアの多くの国は、堅調な技術サイクルや国内の政策支援、概して緩和的な金融環境に支えられて、昨年下半期に成長率が予想を上回った。半導体や関連製品の需要は旺盛なまま推移し、テックサプライチェーンに深く組み込まれた韓国やマレーシア、シンガポールなどの国々に恩恵をもたらした。アジア内の貿易は上向き、世界のその他の地域に向けた輸出の多様化は、特にテック以外の輸出に関して、米国の需要軟化を緩和する助けとなった。

しかしながら、引き続き内需にばらつきが見られた。消費回復のペースは国によって差があり、不確実性と各国固有のショックがある中、投資は軟調に推移した。
戦争によって試されるレジリエンス
戦争によって新たにより差し迫った逆風がもたらされており、原油・ガスの純輸入が経済産出量の約2.5%に相当するアジアの短期的な見通しに陰りが出ている。

アジアは、世界の原油の約38%と天然ガスの24%を消費している。また、最大の原油精製地域のひとつでもあり、世界の精製能力の約35%を占め、その大部分が中国とインド、韓国、シンガポールに集中している。
アジアの原油・ガス消費量は対GDP比約4%に上り、欧州のほぼ2倍である。マレーシアやタイのように、輸送や工業がより重要な位置を占める国においては、その比率が10%を上回る。これらの国は、ガス火力発電所と液化天然ガス(LNG)の輸入にも依存している。多くの国が輸入に依存していることは、国内の能力が限定的であることと、製造業の集積度、原油・ガスに頼った生産活動を反映している。

エネルギーショック
アジアは、ホルムズ海峡経由で輸送される原油・ガスの主な買い手であり、同海峡を通じて輸出されるLNGの約80%がアジア向けである。今回の紛争は、アジアの精製業者や公益事業者、工場にとって直接的なショックとなっている。混乱は、とりわけ備蓄が限定的な国において、石油製品やガスの局地的な不足を引き起こす可能性もある。肥料や石油化学製品、あるいはヘリウムや硫黄といった材料の供給混乱は、紛争が長引けば、より広範なサプライチェーンの混乱が生じるリスクが高まる。
伝播経路
影響は、いくつかの経路を通じて、より広範な経済に波及する。まず、エネルギー価格の高騰によって、原油・ガスの純輸入国の交易条件が悪化し、所得が化石燃料輸出国に移転する。第2に、燃料・電力価格の上昇は人々の実質所得を減らす。第3に、エネルギーは輸送や工業、石油化学製品、肥料の投入要素であるため、ショックは経済全体の生産コストを押し上げ、企業の利益を圧縮し、時間の経過とともにより広範な二次的インフレ圧力をもたらす。最後に、金融の経路がある。債券利回りの上昇、ドル高、通貨安、そして化石燃料輸入国をはじめとするリスクプレミアムの上昇は、ショックの影響を増幅させる。こうした状況の中で、生産の化石燃料強度や石油価格制度といった各国固有の要因も影響にとって重要となる。
見通しの変化
参照予測において、ベースラインシナリオに基づく成長率は1月から概ね変化していないが、インフレ率が上昇し、対外収支が悪化し、政策余地が狭まり、下振れリスクが高くなっている。
地域の大半で、成長は減速する予測だ。例外は韓国であり、韓国は技術サイクルとの強い結びつきから恩恵を受けている。アジアの新興市場国は、引き続き世界成長の主要な原動力となるものの、成長率は今年に約0.5%ポイント低下して4.9%となった後、来年は横ばいで推移すると予測されている。アジアの先進国でも、同様の減速が見込まれる。地域内では、東南アジアと太平洋島嶼国でも成長が減速すると見られているが、大きなばらつきがある。
インフレ率も上昇している。アジアの新興市場国では、中国とインドの上方改定を一因として、インフレ率が2025年の1.1%から2026年は2.6%へ加速する予測だ。アジアの先進国では、上昇にばらつきがある。日本ではインフレ圧力が緩和しているのに対して、オーストラリアでは引き続き根強く、2026年のインフレ率予測が大幅に上方改定された。
リスクの高まり
参照予測では、紛争の範囲が限定的で、混乱が1年間で徐々に収束することを前提としている。しかしながら、エネルギー供給ショックの長期化や規模拡大、貿易の混乱の広がり、政策の不確実性の再燃は、成長を著しく低下させ、インフレ率を一層押し上げ、金融環境を引き締めるだろう。政策バッファーが失われ、追加的な支援の余地が狭まることになる。
エネルギー供給ショックが参照シナリオよりも大きく、よりゆっくりと収束していくという「世界経済見通し」の悪化シナリオの下では、域内の主要経済国のGDP成長率は2026年に、参照シナリオと比較してほぼ1%ポイント低下する。輸入依存度が高く化石燃料強度の高い国では、損失がより大きい。
エネルギー供給ショックがさらに大きく、2027年に入ってだいぶ経つまで続き、その後収束するという深刻なシナリオでは、成長への負の影響は当然さらに大きくなる。主要国の成長率は参照シナリオと比べて、2027年までに累積で約2%ポイント抑制されることになる。2027年の総合インフレ率は2.3%ポイント高くなる。ここでも、影響は、エネルギー依存度が高い国の方が大きい。
一般的に、輸入エネルギーに依存する国や財政余地が限定的な国、あるいは、送金や観光、肥料等の一次産品を通じて中東紛争に対するエクスポージャーが大きい国が、相対的に大きなを受けるだろう。これは、南・東南アジアおよび太平洋島嶼国の一部に特に当てはまる。例えば、スリランカは、原油輸入のほかに、湾岸地域からの送金や観光にも依存している。ラオスやネパール、ミャンマーといった一部の農業依存国は、肥料コストの上昇によって、所得が減り、食料価格が高騰しかねない。
政策対応と優先事項
アジア諸国の政府は、在宅勤務の奨励など、物価と消費に対処すべくさまざまな対策を講じている。いくつかの国は、人々や企業に対する影響を緩和するために、補助金や燃料基金、税制変更、小売価格の統制を活用している。こうした措置は、緊急事態において支持を集め、一時的な混乱の抑制に役立つ可能性がある。しかし、人々が価格から受け取る重要なシグナルを弱めることは、ショックを緩和することにはならない。むしろ、需要の低下を阻む可能性がある。
中央銀行にとっては、これまでのところ大半の国でインフレ期待が概ね安定している。それにより、総合インフレ率の当面の上昇を静観する余地がある。しかし、金融政策は引き続き機動的でなければならない。エネルギーショックが長期化すれば、通貨が弱くなり、より持続的なインフレにつながる恐れがある。
先進国の金利は、ディスインフレーションを維持するために、概して現状を維持するか、引き締められると予想される。日本では、インフレ期待が目標近くに上昇しているが、中央銀行はエネルギーショックの第一段階を静観し、緩和の縮小を継続することができる。反対に、オーストラリアのように、インフレ率がすでに目標を上回り、国内の需要圧力が引き続き強いところでは、ショックを静観する余地はより限定的である。 タイやフィリピンのように、インフレ率が引き続き目標を下回っている国では、今後の緩和余地を確保するために、さらなる利下げを一旦停止することができる。
今後も、為替レートの柔軟性が第一の防衛策であるべきだ。介入は、IMFの「統合的な政策枠組み」に沿った形で、無秩序な市場への対処に限定されなければならない。
財政支援は、脆弱な人々や存続可能な企業に的を絞った時限的なものでなければならない。現金給付は、個人所得を補完し得る。支援は、予算の優先順位の見直しによって賄う必要がある。これは、パンデミック以降財政余地が減少し、利払い費負担が増大している地域において重要である。それが実現不可能な場合には、当局は再建計画について明確なコミュニケーションを行わなければならない。広範な燃料補助金や減税、一般的な価格上限設定は、短期的にはインフレを緩やかにすることができるかもしれないが、コストが大きく、多くの場合逆進的で、撤回が困難である。実際、エネルギー価格の高騰は、新たな支援措置を誘発することのほかに、2022年に見られたように、既存の燃料補助金の費用を押し上げることによっても、財政コストを急速に増大させる可能性がある。

支援を行う余地には差がある。スリランカとカンボジアは、支援を提供することは可能だが、支援は的を絞り、財政余地の再構築または維持と整合的なものでなければならない。バングラデシュのように制約がより大きい国は、予算の余裕が限定的で、広範な支援の余地が狭まっているため、より厳しいトレードオフに直面している。
最後に、今回のショックは構造改革の必要性を裏付けるものである。社会的セーフティネットの強化は、広範な補助金を支給することなく人々を保護する助けとなるだろう。雇用創出型の成長と内需拡大のバランスを取る政策は、外需への依存を低下させるだろう。アジアの多くの国では、若年層の失業率が依然として高く、スキルのミスマッチによって生産性と包摂性が抑えられている。人工知能(AI)は、今後も不均一な導入が続けば、こうした格差を拡大しかねない。そうではなく、スキルや包摂性、がナンスに関する適切な政策を伴えば、機会を拡大する可能性がある。地域の貿易とサービス、投資の統合がさらに進めば、強靭性が強化されるだろう。そして、エネルギー効率や電力網、代替エネルギーへの投資は、将来の燃料輸入ショックに備える上で有用と考えられる。