2017年対日4条協議終了にあたっての声明
IMF News, June 19, 2017
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- Published: June 19, 2017
ミッションの趣旨と手続き
- 「協議終了にあたってのIMF代表団声明」はIMFスタッフによる公式訪問の終了に伴い発表される初期評価である。
- ミッションはIMF協定第4条に基づく定期協議(通常は年に1回)等の一環として行われる。
- 当声明はIMFスタッフの見解を示し、必ずしもIMF理事会の見解を示すものではない。
足元の経済動向(要旨)
- 成長は2017年第1四半期も勢いを維持し、輸出・民間消費・投資が堅調。輸入は上向き始めた。
- 日本経済は過去5四半期連続で潜在成長率を上回る成長を遂げている。
- 2016年の経常収支黒字の9割を所得収支が占めた。
- 実質実効為替レート(REER)は2015年から2016年の間に大幅に上昇し、中期的なファンダメンタルズと整合的な水準に動いた。
- 2016年の政策動向:イールド・カーブ・コントロール政策導入(2016年9月)、消費税率2%引き上げの2019年10月への延期、GDP1.5%相当の追加財政パッケージ(主に2017年の財政支出増)。
現状評価(課題)
- 現在の成長は海外部門や一時的財政出動に依存しており、国内の自律的モメンタムは弱い。
- 労働力不足は続くが賃上げにはつながらず、インフレは上昇傾向を示していない。
- 人口動態とかつてない高水準の公的債務残高が中期的な重大政策課題。
- 金融面では低金利が銀行・保険会社の収益性を圧迫し、銀行や保険会社が新しく理解の浅いリスクに手を伸ばす傾向。
- 信用の伸びは2016年第4四半期に加速し、海外投資や不動産関連の貸出が増加。
- 労働市場のボトルネック:低い労働流動性、雇用安定志向、賃金が過去のインフレ実績で決まる点等が賃金・物価ダイナミクスの停滞要因。
見通しとリスク(数値を含む見通し)
- 現行政策のもとで、2018年の成長率は2017年の半分以下に落ち込むであろう(財政刺激策が縮小する場合)。
- 2017年の平均インフレ率はエネルギー価格上昇と需給ギャップ縮小により0.7%に上昇すると予想。
- 2018年の平均インフレ率は成長鈍化に伴って0.6%に低下する見通し。
- 中期的にはインフレ率は2%目標を下回るとみられる。
- 下振れリスク優勢。短期上振れリスク:補正予算(2018年)や予想以上の世界需要。下振れリスク:国境を越えた市場統合の後退、地政学的不安定による円急伸によるデフレ、国内政策への信頼喪失、株価下落や日本国債利回り急上昇、地方銀行の外貨資金調達に伴う流動性リスク、中国の統制を欠いたリバランスの可能性等。
- 中期的リスク:財政持続性への懸念がソブリンリスク・プレミアムの急上昇を招く可能性、低成長・低金利と人口動態に起因する銀行・生命保険会社のソルベンシー問題。
経済政策の優先課題(総論)
- 現状は改革加速の好機であり、構造改革、協調のとれた金融・財政支援、金融セクター政策強化から成る包括的パッケージを提言。
- 必要措置として:労働市場での賃金格差解消、包括的な労働力活用の推進、民間投資促進、財政政策策定の向上、金融監督・コーポレート・ガバナンス強化によるマクロ金融脆弱性対応。
- 日銀の継続的緩和はリフレーションと整合的だが、大胆な構造改革と信頼に足る中期的財政健全化計画を伴う必要あり。
- 低金利環境のリスク対応と人口動態への金融セクターの適応が中心的課題。明確なコミュニケーションと一貫した実施が重要。
構造改革(優先順位別)
- 第一優先:労働市場改革による生産性向上と賃上げ。
- 正規・非正規の雇用保護格差を中間的雇用契約促進で縮小。
- 企業間労働移動の促進、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)導入による「同一労働同一賃金」加速。
- 第二優先:民間投資と長期成長力を高める改革。
- 参入障壁(通信とガス)の撤廃、専門職サービス分野の規制緩和、コーポレート・ガバナンス強化(社外取締役規定、株式持ち合いの明確な制限)。
- 貿易・直接投資促進、経済特区による規制緩和。金融セクターは中小企業の資金調達制約軽減・リスクベース貸出の促進・公的信用保証の縮小を目指すべき。
- 第三優先:労働供給の多様化と増大。
- 女性と高齢者の労働参加率向上、外国人労働者の活用拡大。
- 税制・社会保障による常勤雇用のディスインセンティブ排除、育児・介護施設増設、過剰残業軽減、業績に基づく労務管理支援。企業に対し義務的定年規定を設けないよう促す。
財政・金融支援の協調(政策設計)
- 金融政策:持続的な緩和スタンスを維持。日銀は下振れリスク顕在化時にイールド・カーブ・コントロール政策を注意深く調節すべき。
- 日銀はスタッフのインフレ予測公表や年間国債買入額への言及停止等によるコミュニケーション強化が必要。
- 財政政策:短期的需要下支えと中期的債務対処のバランスが必要。短期的には2018年の財政スタンスを少なくとも概ね中立に維持し、予定されている財政刺激の減退を防ぐ。
- 中期的財政健全化計画は漸進的アプローチで、構造的プライマリーバランスを経済状況に応じて対GDP比で年平均0.5%改善させることを目標とすべき。
- 計画は消費税率の段階的、かつ事前に公表された引き上げに重きを置き(0.5%または1%の幅で定期的に、可能な限り早く開始し、少なくとも15%に達するまで)、単一税率を維持することを推奨。
- 社会保障費の急増を避けるため抜本的な改革で社会保障費抑制を図るべき。
所得政策と構造改革のシナジー
- 所得政策は金融・財政政策を補完・増幅するために活用されるべき。例:公定賃金をインフレ目標に整合的に引き上げるとともに、黒字企業が毎年最低3%賃金を引き上げるよう奨励。
- 財政インセンティブ、積極的労働市場政策、育児施設増設等が構造改革を支援。需給下支えは、労働参加を促進する構造改革がデフレ圧力を生まないようにするためにも重要。
スピルオーバーと強靭性
- より大胆な国内政策(構造改革の加速と中期的財政健全化計画)は、外部ショックによる国内へのスピルオーバーを緩和しうる。
- イールド・カーブ・コントロール政策は他国の金融状況に大きな影響を及ぼしていない。
- 2016年の資本流出は年間を通じて継続したが、機関投資家の海外分散投資戦略と対外直接投資継続が背景であり、大幅な変化は予想されていない。
金融安定性(監督・破綻処理)
- 金融監督強化とプルーデンス監督の内部プロセス強化、銀行・保険業界のコーポレート・ガバナンス強化が必要。資本要件は各銀行のリスク特性をより反映すべき。
- 保険業界への経済価値ベースのソルベンシー評価制度導入と、将来導入される制度の確実性確保が必要。
- 金融庁・日本銀行連絡会(CCFS)のマンデート明確化とマクロ・プルーデンス手段の拡充が望まれる。
- 当局は銀行取締役会等との連携強化、地方銀行の手数料収入増促進、地方金融機関の再編促進(ただし再編のみでは不十分)を行うべき。
- 危機管理・破綻処理の枠組みは更なる簡素化・明確化が可能であり、監督権限の迅速行使や破綻処理手段の拡充、法的枠組み強化(中央清算機関への適用拡大を含む)が必要。
補足
- 当声明はIMFが2016年9月から2017年4月に実施した金融セクター評価プログラム(FSAP)の結果も反映している。日本のようなシステム上重要な国については、この評価プログラムを5年おきに行うことが義務付けられている。
- IMF代表団は日本当局及び協議参加者の歓待と率直かつオープンな協議に感謝。
出典: IMF代表団(2017年6月19日、対日第4条協議終了にあたっての声明)