中央銀行とフィンテック — 素晴らしい新世界?
IMF News, September 29, 2017
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- Published: September 29, 2017
序文・展望
- スピーチはイングランド銀行によるカンファレンス(ロンドン・2017年9月29日)向けに行われた内容で、中央銀行の過去20年間の実績を踏まえ、今後の20年間(2040年を想定)を展望している。
- 2040年の想定シナリオでは、移動手段が「ポッド」ドローンに置き換わり、総裁がデジタルアシスタントやホログラムを日常的に利用する未来像を描く。
- 中心的な問い:フィンテックが中央銀行をどう変えるのか。焦点は3つの技術革新に置かれる ― 仮想通貨、金融仲介の新形態、人工知能 (AI)。
1. 仮想通貨
- 定義・位置づけ:
- 仮想通貨は既存のデジタル決済(Paypal、Alipay、M-Pesa等)とは別カテゴリーで、独自の勘定単位と決済制度を備え、中央清算機関や中央銀行なしにP2P取引を可能にする。
- 現時点の課題:
- ボラティリティが高い、リスクが大きい、電力を過剰に消費する、拡張可能性がない、透明性が不足、ハッキング事例が存在。
- 可能性と条件:
- 国家制度が脆弱で自国通貨が不安定な国々では仮想通貨利用が拡大する可能性(「ドル化2.0」)。
- IMFの経験では新通貨へのシフトは指数関数的に加速する分岐点が存在。例:セーシェルでは2006年に20%だったドル化が2008年に60 %に跳ね上がった。
- 仮想通貨は、ドルや安定通貨バスケットに対して1対1で発行する形や、透明なアルゴリズムや「スマート・ルール」に基づく統制で安定性を高め得る。
- 決済サービスとしての利点:
- シェアリング・エコノミーや分散型サービス経済における小額・頻繁な国際支払いに対して、手数料を抑え、清算遅延や中央登録を不要にできる可能性。
- 民間発行の仮想通貨が不安定なままであれば、人々は中央銀行に法定通貨のデジタル版を要求する可能性がある。
- 政策的含意(要点):
- 中央銀行の最善の対応は効果的な金融政策を継続しつつ、新しい考え方やベンチャーを取り入れること。
- 新しいサービス経済からの需要に対して中央銀行が流動性提供や対応を検討する必要。
2. 金融仲介の新形態
- 構造変化の予想:
- 銀行機能の解体(アンバンドリング)により、電子ウォレットに最低残高、余剰資金は投資信託やデータ・AIを活用するP2Pレンディングへ移る可能性。
- プロダクト開発は6か月周期、ソフトウェア中心、ユーザーインターフェースとセキュリティが重要。支店を持たない新プレイヤーが増加。
- 金融政策実施への影響:
- 従来の公開市場操作はプライマリーディーラー(大手銀行)を通じて行われてきたが、新しい金融環境で大手銀行の役割が縮小すれば、金融政策の波及は弱まる懸念。
- 対応策として、中央銀行はオペレーション時の取引相手を増やす必要があり、イングランド銀行は既に大手ブローカーディーラーや中央カウンターパーティ (CCP) 清算機関を取引相手に加えている。
- 規制上の課題:
- 取引先が増えることは規制の範囲が拡大することを意味し、規制を受ける対価として流動性供給の受け皿がある。
- 従来の法人定義に基づく監督は、新たなサービス事業者が多様な形態で出現する環境では困難となる可能性が高い。
- 規制の焦点は「主体の監督」から「活動の監督」へ移行する必要がある。アルゴリズムの健全性と安全性評価も求められる。
- 協力の重要性:
- 規制担当者間、政策当局・投資家・金融サービス会社間、国際間での対話と協力が必要。
- テクノロジーに国境がないため、規制アービトラージや規制緩和競争への対処には国際協力が不可欠。
- IMFは189 か国が加盟しており、こうした議論を行う場として重要。IMF自身も変化を受け入れ、新たな対話相手を招き入れ、デジタル版のSDRの役割を考慮する可能性が示唆される。
3. 人工知能 (AI)
- データとAIの拡張性:
- データ量は急増し、「今日利用できるデータの90%が、過去2年の間に生み出されたものだとする試算」などがある。スマートフォンとインターネットがデータ供給を拡大し、AIと結合して価値が増大する。
- AIの政策支援能力:
- AIは政策立案支援、リアルタイム予測、バブル検知、複雑なマクロ経済・金融関係の発見に寄与する見込み。
- 囲碁における自己学習コンピューターの勝利を例に、機械学習の進展が示される。
- 限界と課題:
- 経済に固有の不確実性、関係性の変化検知、リスク評価には人間の判断が依然必要。
- コミュニケーション:良い金融政策はストーリーテリングであり、機械が生み出した政策を人々に分かりやすく説明できるかは不明。
- 説明責任:機械が政策決定に関与しても、説明責任なしに独立性は成立しない。政策の失敗や危機に対して説明を果たせるかが重要。
- 結論的立場:
- 機械が金融政策を完全に支配するとは考えられず、2040年にも中央銀行には人間の総裁と人間スタッフが存在し続けるとの見解。
政策上の要点・推奨
- 中央銀行は効果的な金融政策を継続しつつ、新技術や新しい事業モデルへの適応を進めること。
- 規制当局は「活動ベース」の監督へ移行し、アルゴリズムの健全性・安全性評価能力を強化すること。
- 中央銀行はオペレーション上の取引相手の拡大を検討し、必要に応じて規制の適用範囲を広げること。
- 国際協力を強化し、規制アービトラージ防止やグローバルな金融安定性の維持に努めること。
- IMFや国際フォーラムを活用して、デジタル通貨やデジタル版SDR、国境を越えた規制協調の議論を進めること。
- 説明責任と透明性を守るために、AI導入の際も人間の最終監督と説明可能性を確保すること。
キー数値・参照された数値
- イングランド銀行が金融政策面での独立性を得てからの「20周年」。
- 想定される将来年次:「2040年」。
- IMF加盟国数:「189 か国」。
- データ量に関する試算:「今日利用できるデータの90%が、過去2年の間に生み出されたものだとする試算」。
- 自動化による雇用影響の引用:「1,500万人」。
- セーシェルのドル化事例:2006年に「20%」、2008年に「60 %」。
- プロダクト開発サイクルの例示:「6か月周期」。
出典: 国際通貨基金 専務理事 クリスティーヌ・ラガルド(イングランド銀行によるカンファレンス、ロンドン・2017年9月29日)