世界経済にとってデリケートな局面 行動のために優先すべき3分野
IMF News, April 2, 2019
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- Published: April 2, 2019
1. はじめに
- スピーチは国際通貨基金 専務理事 クリスティーヌ・ラガルドによる、ワシントンDCの全米商工会議所での2019年4月2日の発言。
- 主題:世界経済が直面する「デリケートな局面」と、そのもとで優先すべき政策分野(国内政策、国際的政策、国際連携)。
2. 世界経済 — デリケートな局面(現状認識)
- IMFの2019年1月見通し:世界経済の2019年と2020年の成長率が約3.5%と予測。
- その後の動き:世界経済はさらに勢いを失い、最新予測では成長見込みが下方修正。
- 2017年時点比較:わずか2年前には世界経済の75%の国々が景気上昇局面にあったが、2019年には世界経済の70%の国々で成長が減速すると見込まれる。
- IMFの短期見通し:短期的な不況は見込んでいない。2019年後半から2020年にかけて成長率はある程度上昇すると見込むが、その回復は不確か。
- 減速の主因:2018年後半の貿易摩擦の激化と金融のタイト化。
- 緩和要因:主要中央銀行の金融政策正常化のペース調整や、中国などの景気刺激策が世界経済活動を下支え。
- リスクの例:想定を超える金融環境のタイト化が生じると、借り換えや債務返済で多くの国や企業が深刻な課題を抱え、為替相場の激しい変動や金融市場の大幅な修正が起こり得る。
3. 行動のために優先すべき 3 分野 — 概要
- ラガルド専務理事は「慎重な対応」を提起。政策誤りを回避し、適切な措置を確実に講じることを強調。
- 優先分野:
- (a) 国内政策:より打たれ強く包摂性の高い経済を構築するための施策
- (b) 国際的政策:より公平な競争環境を提供するための国際的取組み
- (c) 世界的課題への連携:気候変動、移民、サイバーリスク、腐敗など
3(a) 国内政策 — 打たれ強く包摂性の高い経済
- 目標:生産性向上、長期的経済成長の加速、成長と安定の確保。
- マクロ政策指針:
- 物価上昇率が目標に達していない場合は緩和的な金融政策を継続し、期待インフレ率を安定的に保つ。
- 必要に応じて為替レートの柔軟性をショック緩和に利用。
- 規制改革を進めつつ金融市場の強化とリスク緩和を図る。
- 財政面の示唆:
- 多額の公的債務と低金利の下で景気後退期に備え、好景気では財政バッファーを構築し、不景気時に行動できる余地を確保する。
- 税制改善、国内歳入の確保、成長に配慮した支出優先順位の明確化、公的債務の削減。
- 包摂・格差対策:
- 累進課税施策やセーフティネット強化、教育・医療・インフラへの投資で機会を創出。
- 特に若者や女性への配慮を強調。
- 競争と市場構造:
- IMF分析によれば、先進国で増大した企業の市場支配力は投資、GDP、労働者への支払割合にごくわずかな影響しか与えていないが、少数の企業の付加利益率は非常に高い(「勝者大取り」の傾向)。
- 対策:市場参入障壁を減らし、競争の枠組みを刷新して公平な競争環境を整備する。
3(b) 国際的取組み — 公平な競争環境の提供
- 対処すべき課題例:金融規制改善、債務透明性向上、不正資金の流れ阻止、国際法人課税の近代化。
- 貿易の重要性:
- 貿易統合は繁栄増進、貧困削減、新技術普及、生産性向上に寄与してきたが、恩恵が均等ではないため制度改革が必要。
- IMFの分析(180か国、過去60年):工場や機械など雇用を多く創出する分野で貿易統合が投資を明らかに増大させる一方、貿易障壁は投資や雇用を明らかに損なう。
- 貿易摩擦の影響試算:
- IMFが分析:米中間で取引されているすべての物品に課されている関税が仮に25%ポイント引き上げられた場合、年間GDPが米国で最大0.6%、中国で最大1.5%下がると見られる。
- 二国間貿易赤字の誤解:
- 二国間の貿易収支は主にマクロ経済要因に左右され、二国間関税で直接的に解決されるものではない。関税は貿易の流れを他国へ向けさせるにすぎない。
- 結論:貿易戦争に勝者はいない。貿易障壁を減らし世界貿易制度を近代化する必要。
- 国際法人課税:
- 現行システムは時代遅れとの指摘。
- IMF分析:企業の利益移転によりOECD非加盟国が毎年約2,000億ドルの歳入を失っている。
- 結果:低所得国の投資資金調達や「持続可能な開発目標(SDGs)」達成が困難に。
- 取組みは既に始まっているが、さらなる国際連携と選択肢の検討が必要。
3(c) 世界的課題に対処するための連携
- 対象課題:人口動態、移民、サイバーリスク、気候変動、腐敗など。
- 気候変動に関するマクロ的アプローチ:
- IMFが焦点を当てる政策ツール:カーボンプライシングとエネルギー補助金削減。
- エネルギー補助金は年間約5.2兆ドル、世界GDPの6.5%に相当(2017年ベース)。
- 腐敗の影響:
- 贈収賄だけでも年間で1.5兆ドルを超え、対世界GDP比で約2%に相当。
- IMFの研究:腐敗は巨額の歳入損失と公共支出の質の低下をもたらし、GDPに対して最大4%ポイントの差を生む可能性がある。
- ガバナンス向上は教育成果の向上や重要インフラへの効率的な支出と結びつく。
- 国際協力の必要性:腐敗は国際的な問題であり、効果的な防止には国際協力が不可欠。
- 若年層の関心:若者が気候変動と腐敗を最重要課題の一部と認識している点を指摘。
4. 国際協力と IMF の役割
- IMFの過去の貢献例:
- 世界金融危機時に約5,000億ドル超の資金を用意し、世界恐慌の再来回避に寄与。
- その後10年間でIMFが支援した国は90か国を超える。
- エジプト、チュニジア、ヨルダンでの国別プログラム、ウクライナやアルゼンチンへの最近の支援を例示。
- 将来の課題:
- IMFが効果的に役割を果たすには、加盟国189か国からの支援と十分な資源が必要。
5. 終わりに — 呼びかけ
- ラガルドはデリケートな局面にある世界経済に対して協力と行動を呼びかけ、政策の慎重かつ適切な実施を促す。
- 目的:人々のために成し遂げる価値ある仕事を通じて、信頼と機会を創出すること。
出典:国際通貨基金 専務理事 クリスティーヌ・ラガルド「世界経済にとってデリケートな局面 行動のために優先すべき3分野」(スピーチ、2019年4月2日)